2-2 アイスの行方
スピードを緩めない列車の後ろから二番目の車両の屋根。本来ならあるはずのない光景がそこには広がっていた。
「___よし、とりあえず中は大丈夫だろ」
「助かる」
「使い魔としちゃ当然だろ」
ひとまず車両の安全が最優先と判断し、ノアに魔術式を付与するように指示した。
シレーヌはハナスイカエルと対峙する。
大きな黒々とした目がシレーヌを映した。しかし、よくよく見てみれば目に赤い紋が刻まれているからか生物というわりには無機質な加工品のようにも思える。
「あれは……」
無意識にスカートの裾を右手で握る。
シレーヌの動揺を狙ったのか、カエルは体勢を変えてシレーヌの正面に向き直った。
身体を大きく膨らまし、威嚇をするハナスイカエルにシレーヌは意識を魔獣に集中させた。
ハナスイカエルは温厚な生き物とはいえ、魔獣は魔獣。住処を荒らされたりした場合は攻撃をしてくる。
主に舌で絡めとったり、噛み付いてきたりする。ただ注意する点でいえばハナスイカエルは名の通り、花を吸う生き物だ。原理でいえば大地から吸う魔力を宿した花を吸うので、人間や魔獣とて例外ではない。
「氷の女皇よ。御身の力を拝借いたします」
足元に魔力を流し、魔術式を構築し始めるシレーヌに魔の手ならぬ魔の舌が伸びる。
「おっと、危ねぇな」
ノアが舌を蹴り飛ばし狙いを逸らした。
その一瞬の隙があるだけで、命中率は大きく変わる。
シレーヌの口から白い息が漏れる。風で髪が大きく靡いた。そのまま、指でハナスイカエルを狙う。
「氷よ、かのものを包み込め」
白い光を帯びた氷の矢が放たれる。ノアの横を通り、ハナスイカエルの身体に命中した。命中した箇所から氷を帯び、侵食を始める。
氷が包み込むのに一秒もかからなかった。ハナスイカエルは目を閉じ、氷の中で眠りについた。
魔術式の汚染も、凍結封印により一時的とはいえ収まっただろう。
「オーケー、完全に意識ないと思うぜ。てか、これ攻撃というか封印だろ」
「まぁ、氷の魔術なんてこれが一番有効だろう」
「偏見が凄い。まー、氷の女皇も国を凍結させた実績ある方だしな」
振動が収まった事に違和感を覚えたのだろう。
騎士団と名乗った男の声が下から聞こえてきた。
「とりあえず降りるか。ノア」
「はいはい、カエルどうする?」
「……浮遊魔術で浮かしておけるか?騎士団に引き渡したい」
氷漬けにされたカエルが車両の横で浮遊している、という謎な光景が出来上がった。
しかしシレーヌは違和感に気付く事もなくノアに抱えられながら列車に戻る。
ノアはシレーヌをおろすなり、目を見開き座っていた座席まで駆けた。
「はー、アイス無駄になってるじゃんか〜」
先程までの雰囲気を消し、普段通りの姿を見せる使い魔にシレーヌも肩の力を抜いた。
地面に転がるアイスのカップたちを残念そうに見下ろすノアは、肩を落とす。溶けたアイスを魔術で浮き上がらせカップ戻したノアは、そのままゴミを何処かに消した。
「早く食べれば良かっただろう」
「いや、アイスは溶けた方が美味いんだから置いといた方がいいだろ」
「九割くらい溶かして置くのはどうかと思うぞ。ほぼ液体だろう」
「液体のアイスが一番美味い」
「それはアイスと言わないのではないのか……」
まるで何事も無かったかのように車両に戻る二人に声を掛けてきたのは、騎士団の人間であった。




