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カラミティ・シークレット  作者: 雪村蓮
第2章 列車編
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2-6 少女たちの対面

 時計台は中に入る人間はそうそういない。あくまで外観を楽しむ為のものであり、内装はメンテナンスのための職人の出入りが主だ。稀に学生が入ることもあるが、それも珍しい話である。



 つまるところ、滅多に人が入らないせいでエレベーターなど移動手段がない。あるのは天井近くまで伸びる螺旋階段のみ。

 等間隔に洋燈が空間を照らしており、上から光が差し込むので足元に不安はなかった。

 不安はなかったが、シレーヌは限界を迎えていた。精神的なものではなく肉体的なものである。


「ひ、ひぃ……ちょ、ちょっと待ってくれ」


 階段に膝を着きながら息を整える姿に騎士団一同は呆然とした。あんなにも威風堂々とした佇まいの少女が、階段を登る道中、幼子より先に悲鳴をあげたのだ。


 アリアが元気なだけなのか、シレーヌが体力のないだけなのか。今回は両者が引き合わさった結果がこれである。


「の、ノア、はぁ、抱えてくれ」

「早いなシレーヌ」

「段差が、高いんだ。膝がもう限界を迎えている」


 ヒールがある靴のせいもあるのだろう。既に足が限界を迎えたシレーヌはアリアに手を離され、階段に伏した。


「それじゃ失礼すんぜ、よっこいせっと」

「アリアは平気か?」

「うん!まだまだアリアいけるよ!」

「そうか……すごいな」


 軽々と俵担ぎをするノアにシレーヌは情けない気持ちでいっぱいであった。

 エレベーターくらいあると思っていたのだ。近年では魔鉱石を動力源としたエレベーターの普及はあり、宮廷でも設置されていた。

 首都の世情に疎いことが仇になったのだろう。


「……行くぞ」


 アーベルの声が反響し、そのまま進む。


 定期的な休憩を取りながら螺旋階段を登り続け、辿り着いたのは約四十分ほどであった。

 アリアは後半からアーベル部隊長に抱えられながらだったので、疲労が見られる様子もなく妖精達の憩い場へと足を踏み入れた。


 シレーヌも後半はノアに抱えられながら体力を回復したお陰で魔術を使う程度には動けるようになっていた。


「ふぅ、どうぞアリア様」

「ありがとうございます」


 ジークの持つアタッシュケースからモンドを取り出すアリア。両手で抱えながら時計台に近づき、台座の上にモンドを乗せた。


 鐘の音が響き渡る。十二時を告げる鐘が丁度鳴り響いたのだ。

 これで良いのだろう。

 シレーヌは一抹の不安を覚えながら成り行きを見守る。


「……何か可笑しくないか」


 ノアの発言と同時に、歯車たちが音を立てた。

 異変に気が付く頃には、事が始まっていた。

 規則的で緩慢な動きの歯車が速度を増していく。段々と音量を上げていく時計台にアリアは怯え、台座の置かれた机に手をかけた。


 その一瞬を待っていたかのように、憩い場の床に魔術式が現れる。魔鉱石を媒体としたのだろうそれは、空間転移の魔術式だ。


「やられたッ」


 シレーヌは地面を蹴り、アリアの手を握りすぐさま憩い場からの脱出を試みる。アーベルもシレーヌに腕を伸ばし引き寄せようと画するが魔術式が発動を始める。

 もうダメかもしれないと、シレーヌがアリアだけでも逃そうとめいいっぱいの力をふり絞ろうとした刹那。


「退いてください」

「は?」


 窓の隙間から誰かが落ちてきた。そのまま拳を振り上げ、憩い場の地面に向かって振り下ろす。

 石造りの床がその衝撃で砕け、床が崩壊する。


「きゃぁああああああああ!!」


 自分でも驚くほどの甲高い悲鳴が口から溢れた。シレーヌはアリアと共に宙へと投げ出される。

 このままでは歯車と衝突し無事ではいられないだろう。焦った顔のノアと目が合い、流石に命の危機を感じたシレーヌは衝撃に備え目を閉じた。


「よっと、ほい」

「わぁああ!?!?」


 アリアの悲鳴が聞こえ咄嗟に目を開ければ宙に投げ出されるアリアと目が合い、そのままアーベルにキャッチされる姿が見えた。


「それっ」


 シレーヌは視線を声の主へと向ける。

 光の射す赤髪に、翠色の瞳。幼さの残る顔立ちながらも肉付きの悪い身体つきの少女。細い腕が軽々とシレーヌを抱え、歯車を蹴り上げる。


「ふ、なんとか間に合った」


 淡々と呟く少女は螺旋階段に着地し、シレーヌと目線を合わせた。


「大丈夫?」


 アスター・ガラシアが無表情に尋ねる。

 シレーヌは目を丸くし、息を詰まらせた。

 

 彼女こそが聖女マリーの生まれ変わりと言われる白魔法の使い手であり、聖女候補。

 シレーヌの監視対象だ。

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