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カラミティ・シークレット  作者: 雪村蓮
第2章 列車編
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2-4 協力者に立候補

 男の名は、マーベル・ソーレ。ゼーにおいてソーレ領を治める伯爵であった。

 湖畔のある土地であり、避暑地や療養に向いた自然豊かな土地だ。北の地程魔力濃度が高い訳ではなく、比較的過ごしやすい土地で医療技術が進んでいる。


 シレーヌは訪れた事が無かったが、賢者たちの話で名前だけは知っていた。


「実はこの様な手紙が私宛に届きまして」

「拝見させていただく」


 差し出された黒封筒を開ける。何重にも魔術を掛けられた痕跡のあるそれを不気味に思いながら便箋を開く。


「ふむ、なんだこれは」


 湖に眠る月の石を、日の登る時計台に嵌めろ。

 資格があるのは血を引く幼子のみであり、資格なきものが嵌めれば湖畔は天に消え去り、厄災が訪れることだろう。


 意味がわからず首を傾げていれば、ソーレ伯爵は説明を始める。


「湖に眠る月の石、というのは我が領土にあるモンドという魔鉱石だと判断されました。こちらにございます」

「随分と綺麗な魔鉱石だな」

「湖に眠る月の石……ああ、文字通りの意味か。脅迫状作ったやつもセンスがねぇ」


 ノアが呆れたように物言う。

 文字通りでみれば、日の昇る時計台は首都エーヴィゲにあるアンフィング・トゥルムだ。

 アリーオン王国での有名な詩の引用だろう。子供でも聞くようなものだ。


 夜が明ける

 日が昇る

 そうして始まりの鐘が鳴る

 私たちはこうして生まれたのだ


「血を引く幼子、はアリアのことか」

「だと、思います。我が家に届いたということはそれ以外理由がないでしょうし」

「なるほどな」


 シレーヌは思考を巡らせる。

 犯人の狙いはモンドなのだろう。純度の高い魔鉱石が狙いだとして、アリアを選んだのは奪い取りやすいからだろう。

 しかし間抜けな犯人もいたものだ。あくまで嵌めるのがアリアと指定するだけして、一人で運べとは一言も書いていない。今のように騎士団を侍らせれば手を出しにくいはずだ。


 そもそもハナスイカエルを車両に宛がったのも理由がわからなかった。あくまで視線をそちらに誘導したかったのか、魔術式を汚染した目的すらも曖昧だ。


「……犯人の狙いが分からないな正直。ノア、貴様はどうだ」

「___狙いが違うんじゃねぇか?」

「狙い、ですか?」

「嗚呼。狙いはモンドのほうじゃなく、子供の方だと視点を変えてみればいい」


 騎士団の空気が変化する。

 それを肌で感じ取ったのか、自分が狙われているかもしれないと会話で察したのかアリアはシレーヌの手をとった。シレーヌはあやす様に取られた手で背中を撫でる。


「なにか心当たりがあるのかゼーベルク部隊長」

「いや……そうだな。最近首都で起きた事件がある。まだ表沙汰にはなっていない事件なんだがな」

「本当ですかゼーベルクさん」


 ソーレ伯爵が腰を浮かして問かければ、視線を一瞬逸らしたアーベルは少し間を開けてうなづいた。


「ただ、こちらにあまり事件の詳細は流れていません。なにせ首都のみで起きている事件ですので」

「首都のみ?子供が狙いの事件なんてすぐにでも新聞沙汰になりそうなものだが」


 シレーヌの疑問は最もである。だからこそ、その事件の詳細が気になったソーレ伯爵は続きを促した。

 娘の命の危機かもしれないのだから、当然だろう。


「___はい。ですが無闇矢鱈に公言はしないようにしてください」


 現在首都エーヴィゲでは、連続失踪事件が多発している。時間帯はバラバラであり、状況も条件があるわけではない一貫性に欠けていた。

 魔術適性がある者から無い者、老若男女問わずで姿を消している。時刻は深夜から日中、夕方、朝日が昇る頃など様々だ。


「失踪者数は明確に存じていませんが、身分問わず忽然と姿をくらますようです」


 ソーレ伯爵の顔色から血の気が抜ける。

 へたりと椅子に腰をかけた伯爵の顔は、一気に老けたように見えた。


「……まぁモンドが狙いか子供が狙いかはわからねぇが両方守ればいいんじゃねぇか?騎士団がいるのはそういうっこたろう?」

「嗚呼。無論護衛は続行するつもりだ。最優先にアリア嬢を守る」

「ならいいじゃねぇか」


 ノアの発言に、のろのろとソーレ伯爵が首を縦に振る。

 親としては不安に押しつぶされてしまいそうだろう。


「……乗りかかった船だ。私達も協力してもいいか?」

「駄目だ。先程も言ったが貴様は子供だ。危険な真似をさせる訳には」

「お姉ちゃんも一緒に来てくれるの?」


 黒い瞳がシレーヌを捉える。目に光を宿し喜色を浮かべるアリアはピョンピョンとその場で跳ねた。

 列車で跳ねるのは危ないのでやめて欲しい。


「嗚呼、アーベル部隊長が許可すればな。それと貴様の父親と母親もだが」


 チラリと夫妻に目を向ける。

 すっかり信用を得たのだろう。ソーレ伯爵夫妻は顔を見合せると、シレーヌに向かって頭を下げた。


「しかし、本当に良いのですか?先程早く首都に向かいたいと仰られていましたが」


 ソーレ伯爵の妻が尋ねるが、シレーヌは首を横に振った。

 確かに教科書類や制服も大切であるが、子供の命が掛かっている可能性があると知れば放置する事は出来なかった。

 ノアはシレーヌに従うだけだ。シレーヌが文句を言わないのなら、何も問題ない。


「それで、ソーレ伯爵夫妻はこう言っているがアーベル部隊長殿はどのようなご意見で?」

「……」


 口角を上げながら尋ねれば、アーベルは険しい顔を歪めながら悩み始めた。


「隊長、良いのではないですか?ハナスイカエルをわずか短時間で鎮圧させた方ですし、実力は申し分ないと思いますが」


 部下のひとりが声を掛ける。

 それでも、肯定的に捉えられないアーベルは眉間に皺を寄せながらこめかみを抑えた。


「安心しろ。これでもルミナス王立学園の特待生に選ばれるくらいには魔術は使えるぞ?」


 シレーヌが、振動していたにもかかわらず落ちなかったアタッシュケースを呼び寄せる。中にあるのは衣類品と金貨に軽食。あとは今回最重要な入学許可証が入った封筒である。

 入学許可証を見せて本物だと主張すれば、アーベルは暫しの間黙り込む。

 

 漸く首を縦に振った頃には、首都まであと五分も立たない距離に近付いた所だった。

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