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カラミティ・シークレット  作者: 雪村蓮
プロローグ
1/13

ある村の惨劇

 からんころん、からんころん

 吹き荒れる嵐が雑踏のゴミで音を奏でる。

 突風が至る所で発生し、豪雨が地面を打ち付ける朝。

 外を出歩く者は人っ子一人いない。そのはずであった。


 アリーオン王国の西部は開発が進んでおらず、過疎化と貧困化問題とは長いつきあいである。

 そんな貧困層で固まった西の果て。

 ラビュリントに宮廷魔術師が訪れていた。


「凄惨な光景だな」


 暗緑色の髪を靡かせながらその場に立ち止まるのは、宮廷魔術師の賢者の称号を持つ女人。ランス・フローラである。

 豪雨が彼女を避けるので雨粒が彼女に当たることはない。

 その異質な光景よりも、さらに異常な現場にランスは口角を上げた。


 村がひとつ壊滅している。

 この嵐も原因の一端を担っている事は確かなのだろう。


 村の集会場が崩壊し、ただの瓦礫の山と化している。林も所々が折れ、大人が倒れている現場は盗賊の襲撃を疑う惨状だ。



「どこにいるんだか」



 ランスは雨を無視しながらぬかるんだ道を進む。

 少し進んだ先で、倒壊しそうな建物が目に入ると腕を振り上げ固定する。


 建物の中を覗いてみれば、子供が一人うずくまっていた。


 フリルのあしらわれたワンピースを身にまとっているが艶のある髪は乱れ、服も注視してみると泥で汚れていた。

 ランスは現場に似つかわしくない微笑みを浮かべながら、少女に近づいた。


「大丈夫?」

「……!?む、村の人じゃない……だれ?」

「えぇ。宮廷魔術師のフローラよ。貴方は?」


 掠れた声で少女は挨拶をする。


「わ、わたしはサーナ……あ、お、と、おとさ、おとうさんが」

「大丈夫。ゆっくりでいいからね」


 途中で過呼吸を起こしかけるサーナの背中を撫でる。穏やかな声でたしなめ続ければ、少女は意を決して話し始めた。

 

 たった一晩の地獄の様な出来事を。

  

 サーナは話を終えると、ランスに顔を向ける。


「おとうさん、大丈夫かな」

「……道中の人達はみんな生きていたわ。貴方のお父さんもきっと大丈夫よ」

「......うん!そうだよね、お父さんは強いもん!この村で一番偉くて、みーんなお父さんにお願いごとをするんだ。だから、お父さんがお願いしたら今度はみんなが守ってくれるよね」


 話しぶりにランスは眉を下げ小さく頷く。


「外は嵐で寒いから、少しだけ待っててちょうだい」


 少し予定が変わるが、ランスは早々に応援を呼ぶ事にした。村民の安全確認も必要だ。


 この嵐の中使いっ走りにするのは申し訳ないがキメラを呼び出す。

 一見すればただの狼だ。しかし魔力で構築されたそれは、狼ではない。

 手紙を首元に括りつければ白い毛は羽となり駆け抜ける。空を駆ける姿は神秘的にも思える不気味さを持っていた。


 サーナは黙ってランスの後ろ姿を見つめる。


「……さっき、君の話に出ていた赤毛の少女何処にいるかわかる?」


 サーナは首を横に振った。

 

 アレは最早少女ではない。人ですらないバケモノだ。

 何がきっかけなんて知らないが、こんな嵐の朝に村を壊滅させたのは他でもないアレだ。

 サーナは思い出すのも怖くて、目を瞑る。

 それでも瞼の裏に浮かぶのはあのバケモノの姿だ。


「助けてランスさんッ」

「……大丈夫。大丈夫よ、サーナちゃん。今騎士団の人達が応援に来てくれる」

「騎士団!?お父さんが言ってたわ、騎士団って悪い人たちなんでしょ!?なんで呼んだのッ」


 サーナの怯えた様子からうってかわり糾弾の姿勢を見せ始めた。

 騎士団が悪い人たち。

 ランスは一瞬、サーナの言葉を理解する事が出来なかった。


 ___環境ゆえ染み付いた思考か


「悪い人じゃないよ。みんながみんなという訳では無いけれど、少なくとも今から来る騎士団の人たちは信頼できる。わたしが保証しよう」


 ランスが胸を叩き、眼帯で隠れていない方の目でウインクをする。歳の割に良く似合うその動作にサーナは怒りを消失させ、俯いた。


「フローラさんが、そういうなら」


 それから騎士団が来るまでの間、サーナはランスの正装の裾から手を離さなかった。



 サーナを騎士団に保護してもらい仕事を再開する。

 先程まで子供に向けていた優しげな母の顔はすっかり鳴りを潜め、賢者としての凛々しさを持った顔で散策をする。

 嵐の中で人探しとは困難だ。騎士団に人の回収と手当を命じながら空を仰ぐ。

 雨雲が見渡す限り広がっていた。

 これでは海も荒れるだろう。


「この仕事、リーゼ様が来た方が良かっただろうに」


 愚痴を零しながら獣道を歩く。

 雨水により重くなった雑草たちは道を自ずと空けランスの進行を妨げることは無い。ただ雨粒を受け止めては滴り落ちるのを自然と待つだけであった。


 村の集会場とは少し離れた場所に、馬小屋があった。そこから香る獣臭に顔を顰める。

 一頭の馬がこの雨の中、ただひっそりと小屋の中で何かを見守っていた。


「……」


 赤毛の子供が、自分よりも遥かに小さいなにかを抱き抱えて丸まっている。

 安い藁に腰をかけながらそれを抱きしめる少女は、異常であった。

 ただ虚無という言葉が、少女を表せる一言であった。


「村の惨状、貴方がやったので間違いないかしら」


 出来るだけ大きな声で少女に問いかける。

 雨音に掻き消されなかったランスの声に赤髪の子供は顔を上げた。

 

 華奢を通り越し棒のような身体つきの子供だ。みすぼらしく、サーナとは大違いの風貌である。


「失礼、あなたのお部屋にお邪魔するわよ」


 馬に一言告げ、馬小屋に入る。

 馬はただ静かに少女を見守っていた。

 

 嵐の中一切濡れていない事に首を傾げる赤毛の少女は、腕の中で眠るそれをランスに見せた。

 ちいさな猫であった。赤黒く汚れた小さな猫は既に長い眠りについている。


「その子は?」

「とも、ともだち。友達なの。でも、しんじゃった」


 冷静な子だ。

 言葉足らずながらも状況を伝え、悲しむ素振りも見せない姿は彼女の取り巻く環境の悪逆さを伝えてくる。


「村の人たちはあたしがやった、村長がこのこをころしたから、目の前がまっしろになったの。よくおぼえていないけれど、多分あたしがやった」


 翠色の瞳がランスを見上げた。

 とてもあの被害を巻き起こした加害者とは思えぬ宝石の輝きを持った瞳が、ランスを射抜く。


「そう、それじゃあ一緒に来てもらう必要があるわ」


 少女は何も言わない。

 ただ無言で亡骸となった猫を抱える。


「その前にお墓を作りましょうか」

「……うん、お、おは、おはかをつくる」

 







 聖女候補の君臨の年、とある村が壊滅した。

 

 村長を務める男は瓦礫の中で遺体として発見された。頭蓋骨と顎が砕け、死亡していた彼の死因は不明。

 その他多くの者も、死亡が確認されたが嵐の際の事故として処理された。今現在、領地を治める貴族も黙認し、廃村の一つとして放置されている。

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