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武天は腐っても武天

最後の門を閉じる前に

【ナレーション】

冬の風が、道場の木製の戸をガタリと鳴らす。檜村聖仁(48歳)は門の前に佇み、凍えそうな手で鍵をつかむ。十年近く続けたこの道場を、今日でたたむ。ふと胸の奥が締めつけられるような痛みを抱え、静かに目を閉じると——過去の記憶が、ひとり歩きするように蘇った。



〈回想 中学2年生の夏〉


「へへ、檜村ってまだ泣くの?」

「この弱虫め、何しに学校に来てんだ!」

同級生たちが周りを囲み、カバンを地面に叩きつける音が響く。檜村は体を丸め、声も出せないまま震えていた。


【ナレーション】

私は中学2年生まで、イジメられっこだった。誰にも助けてもらえない、暗い日々が続いていた。そんな時、偶然通りかかったのが、先代・山本親館長の道場だった。


〈回想 道場稽古初日〉


「はい!初めまして、檜村聖仁(ひむらせいじ)です!」

檜村はぎこちない立ち姿で挨拶する。親館長(当時35歳)は黒い道着に黒い帯を締め、にっこりと頷く。

「おお、気合いはあるな。でも——稽古は甘くないぞ?」


最初の打ち合いで、先輩生徒に一撃で倒された檜村は、道場の上で天を見上げる。痛みが全身を駆け巡るが、なぜか涙は出ない。


【ナレーション】

武道をやり始めてからは、練習の度に倒されてしまう。普通の喧嘩の痛みなど屁でも無くなって、イジメられそうになっても、動じなくなった。逆に煽られたので、時には倒してやった。


〈回想 高校1年生の冬〉


満員電車の中で、肩を強く叩かれた。「おい、この席俺たちが取るんだ。早く立て」

ピアスを刺した男たちが囲みかかる。檜村は少しだけ身構え、男の一りんりんとした目を見つめる。

「…だめだよ」

「は?何だって?」

男が手を伸ばす瞬間、檜村は右足を一気に蹴り上げ——上段(頭)に直接命中させた。男は瞬く間に倒れ、周りはショックで静まる。

「ゴ、ゴメン…!」

檜村は慌てて電車を降り、路地裏をかけ抜けた。


【ナレーション】

それ以外は、まず喧嘩では負けなくなった。然し何処からかそれがばれて、当時の親館長には諭された。


〈回想 道場の片隅〉


「聖仁、お前のことは聞いた」

親館長はコーヒーを置き、厳しい目つきになる。

「身を守る事は立派だが相手方に、怪我をさせては駄目なんだ!

武道を喧嘩に使うな——それが、この武道心と言うやつだな!

力は守るために使うんだ。忘れるな」

檜村は頭を垂れ、小さく答える。「…はい。分かりました」


〈回想 高校3年生の春〉


「今日は防具戦の模擬大会だ!全員、調子良くいこうぞ!」

親館長の声に応え、檜村はすね当てと金的(急所)を守るだけの簡単な防具を着用する。初めての防具戦にドキドキしながら試合に上がると——三回戦目で勝利し、3位に選ばれた。

「おお、聖仁!良かったな!」

先輩たちが肩を叩いてくれる。檜村は嬉しさを抑えきれず、頬が熱くなった。


【ナレーション】

それから私は高校3年間、毎週必ず道場に通った。試験の週間だけ休ませて貰ったが、日々自己鍛錬と稽古は怠らなかった。そうした努力の甲斐もあり、念願の黒帯取得となった——それからは、卒業して仕事が忙しくなり、5段取得は40歳近い歳だった。もう子供もいたのに、少し恥ずかしかった。


〈回想 5年前〉


「聖仁、お前に道場を任せる」

親館長は老いた手で檜村の肩を押す。「筆頭副館長として学んできただろ?今度から、お前が館長だ」

檜村は目を見開き、言葉がつまる。「…親館長、そんな…」

「大丈夫だ。お前の心に、武道の心が宿っていることを知ってる」


【ナレーション】

五段も取ってやれやれと思っていた所で、副館長から館長就任となった。親館長の元で学び、その後5年程で独り立ちを許され、文字通りの館長になった。それからは毎週2回は道場に通い、チラシを配り、体験稽古をしたり——1時期は三十名近くまで生徒が集まった。


【現在 道場の門前】


檜村は目を開け、戸を見つめる。十年たつと、受験や就職で生徒たちは皆道場を離れ、最後は3人になってしまった。昨日、最後の生徒が「これでお別れです」と挨拶して去ったのを、まだ憶えている。

「さあ…もういいかな」

鍵を鍵穴に差し込み、回そうとする瞬間——背後から足音が響く。足早で、誰か二人が近づいてくる。

「館長!待ってください!」

耳慣れた声に、檜村は体を向ける。黒っぽいジャケットを着た男性と、短いスカート姿の女性が立っている——かつての教え子、佐藤健太(28歳)と鈴木あおい(26歳)だった。


健太は息を弾ませながら言う。「聞いたんです!道場をたたむなんて…そんなこと、マジですか!?」

あおいも目を潤ませ、頷く。「私たち、今まで館長に教えてもらったこと、全部忘れてないです!」


檜村は鍵から手を離し、二人の顔を見つめる。風がまだ冷たいが、胸の奥には何か温かいものが広がってくる。



【ナレーション】

最後の門を閉じる前に——昔の教え子たちが届けてくれた足音。それは、終わりではなく、何か新しい始まりの予感だったのかもしれない。

さぁ~てこのまま道場を檜村(ひむら)は道場を畳むのだろうか?今後の展開に乞うご期待下さい。

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