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『忘れた恋から始まる覚醒』恋能覚醒者(ラバー)×恋能覚醒者(ラバー)  作者: 葉月


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9/25

友達になってくれないか?

放課後の校舎は、昼間よりも静かだった。


五右衛門は昇降口で靴を履き替えながら、少しだけ周囲を見渡す。


(……一条、いたな)


視界の端に、一条亘の姿があった。

生徒会の用事だろうか、書類を片手に歩いている。


迷った末、五右衛門は声をかけた。


「一条」


「ん?」


振り返った一条は、いつも通りの穏やかな表情だった。


「このあと、時間あるか?」


「あるけど。どうした?」


「……ちょっと話したくて」


一条は一瞬だけ目を瞬かせてから、軽く笑った。


「いいよ。ちょうど一段落ついたところだ」


二人で校門を出た、その時だった。


「……やっぱり、あなた達だったのね」


聞き覚えのある声。


黒川が、少し離れた場所に立っていた。


「黒川さん」


五右衛門が反応するより早く、一条が口を開く。


「知り合い?」


「まあ……そんなところ」


黒川は一条を一瞥し、すぐに状況を察したように小さく息を吐いた。


「説明は後。今は少し、厄介なのが近くにいるわ」


言われて気づく。


校門の向こう、人通りの少ない路地で、

不自然に感情が揺れている空気。


「恋能……?」


「え?」


一条が、ごえもんを見る。


「なにそれ」


「あとで説明する」


黒川が短く言い切る。


「一条くん、あなたも来なさい。

 無関係じゃなさそう」


一条は一瞬考えてから、肩をすくめた。


「まあ、面白そうだし」


路地の奥では、男女が言い争っていた。

言葉の内容よりも、感情の振れ幅が異常だ。


「……感情が増幅されてる」


一条が、ぽつりと言う。


「普通の喧嘩じゃない」


五右衛門は内心、驚いていた。


(状況判断、早すぎだろ……)


黒川が頷く。


「正解。軽度だけど、恋能が絡んでる」


数分後、黒川の手際で事態は収まった。

五右衛門は、ほとんど何もしていない。


「……すごいな」


思わず言葉が漏れる。


「一条、さっきの判断」


「ん? ああ」


一条は頭をかいた。


「彼女いるとさ、

 こういうの、なんか全部調子上がるんだよね」


「彼女?」


「いるよ。今は」


さらっと言う。


黒川が、その言葉に反応した。


「なるほど……」


少しだけ考えてから、一条を見る。


「あなた、

 恋愛状態に入るとスペックが底上げされるタイプね」


「スペック?」


「身体能力と知能。

 両方が、一定以上引き上げられてる」


一条は目を丸くした。


「え、マジで?」


「おそらくだけど……

 恋強化ラブ・ブースト


五右衛門は、息をのむ。


(能力……?)


黒川は続ける。


「あなた、失恋すると調子が落ちるでしょう?」


「まあ……否定はしないかな」


「それがその恋能のデメリットと言われているわ」


淡々と告げる。


「恋がある間は安定してる。

 でも、失うとバランスを崩す」


一条は少し困ったように笑った。


「言われてみれば、そんな気もする」


深刻さは、まだない。


だからこそ――


(……頼れる)


五右衛門は、素直にそう思った。


頭が切れて、空気も読めて、

それでいて驕らない。


---


ひと通り片付いたあと、黒川は軽く息を整えた。


「……ふう。これで大丈夫」


一条は周囲を見渡してから、ごえもんを見る。


「こういうの、

 毎回こんな感じなの?」


「いや……たぶん」


曖昧に答えると、黒川が会話に割って入った。


「一条くん」


「はい?」


「率直に言うわ。

 あなた、この手のトラブルに向いてる」


一条は一瞬だけ目を瞬かせた。


「向いてる、ですか?」


「判断が早いし、

 感情に流されない」


「ごえもんくん一人で動かすより、

 あなたがいた方が安定する」


五右衛門は、その言葉に小さく頷いた。


黒川は続ける。


「だから――

 しばらく一緒に動いてもらえない?」


一条は少し考えてから、肩をすくめた。


「……面白そうですね」


そのやり取りを見て、ごえもんは意を決したように口を開く。


「一条」


「ん?」


「俺さ」


 一瞬、言葉に詰まってから続けた。


「……お前のこと、尊敬してる」


 一条はきょとんとした顔になる。


「急だな」


「でも、本当だ」


「頭も切れるし、

 さっきの判断もすごかった」


ごえもんは視線を逸らしながら言う。


「だから……

 よかったら、俺と友達になってくれないか」


一条は数秒黙ってから、吹き出した。


「なんだよ、それ」


それから、穏やかに笑った。


「もう友達だと思ってたけど?」


「……そうか」


「そう」


一条は頷く。


「じゃあ、

 その“ついで”で一緒に動くってことでいい?」


五右衛門は、少しだけ口元を緩めた。


「ああ」


黒川は二人を見て、満足そうに小さく息を吐いた。


「決まりね」


---


五右衛門は、並んで歩く一条の横顔をちらりと見た。


(……友達、か)


その言葉を、胸の中で転がしてみる。


悪くない。

むしろ――少し、嬉しい。


そう思えたことに、自分でも驚きながら。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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