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『忘れた恋から始まる覚醒』恋能覚醒者(ラバー)×恋能覚醒者(ラバー)  作者: 葉月


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8/25

抜き打ちテストと一条亘

「はい、じゃあ今から抜き打ちテストを行います」


担任の藍澤まどかの一言で、教室が一瞬にしてざわついた。


「え、聞いてない……」 「今日!?」


悲鳴に近い声があちこちから上がる。


(マジかよ……)


五右衛門は、机の上に配られたプリントを見て、内心ため息をついた。

別に勉強していないわけじゃないが、抜き打ちは普通にきつい。


隣の席の澪は、完全に固まっている。


「……終わった」


「そんな顔すんなって」


「無理。昨日、恋バナして寝た」


「自業自得だろ」


小声で言うと、澪はじとっと睨んできた。


「おまえざきくんはいいよね。こういうの」


「いや、俺も普通にきつい」


そう言いながら、前の方の席を見る。


そこに座っている男子は、もうペンを走らせていた。


一条(いちじょう) (わたる)


同じクラスの生徒で、生徒会副会長。

成績優秀、運動もそこそこ、見た目も悪くない。


何より――余裕がある。


(早くね……?)


(迷いがない、って感じだ)


まだ開始して数分だというのに、すでに半分以上埋めているように見える。


「一条ってさ、また彼女できたらしいよ」


後ろの席から、ひそひそ声が聞こえた。


「え、マジ? 何人目?」 「知らない。でも最近ずっと機嫌いいよね」


(……すげぇな)


五右衛門は、少しだけ目を細めた。


(同い年なのに、なんであんな大人なんだ)


テスト終了のチャイムが鳴る。


「はい、回収します」


一条は静かに立ち上がり、プリントを提出した。


「一条、もう終わったのか?」


担任が少し驚いたように声をかける。


「はい。たぶん大丈夫だと思います」


謙遜とも本気とも取れない返事。


昼休み。


五右衛門が自販機で飲み物を買っていると、後ろから声をかけられた。


「男前崎!」


振り返ると、一条が立っていた。


「さっきのテスト、どうだった?」


「まあ……普通にできたかな」


「普通にできたなら十分だよ」


一条は軽く笑う。


嫌味はない。

上から目線でもない。


(こういうとこだよな……)


(無理してないのに、全部うまくいってる)


自然に尊敬してしまう。


「一条は余裕そうだったな」


「たまたま範囲が合ってただけ」


そう言いながら、一条はスマホをちらっと見る。


画面には、誰かとのトーク画面。

五右衛門は見ないふりをした。


「……彼女?」


「ん? ああ、まあ」


あっさり認める。


「うまくいってるみたいだな」


「今のところは」


一条は、それ以上は語らなかった。


そこへ澪がやってくる。


「一条くん、テストどうだった?」


「普通かな」


「絶対普通じゃないやつ」


澪は肩をすくめて、ごえもんを見る。


「おまえざきくんは?」


「聞くな」


「やっぱり」


くすっと笑う澪。


一条はその様子を見て、少しだけ目を細めた。


「二人、仲いいよな」


「クラスメイトです」


澪が即答する。


「な?」


五右衛門も頷いた。


一条は意味ありげに笑ったが、それ以上は突っ込まなかった。


午後の授業中。


(……すげぇな)


黒板を見ながら、ごえもんは考えていた。


一条は、勉強もできて、人付き合いも上手くて、

恋愛も普通にこなしている。


(俺とは違う)


そう思っても、嫌な感じはしなかった。


(ああいうやつになれたらな)


素直に、そう思った。


放課後。


校舎を出るとき、前を歩く一条の背中が目に入る。


誰かに手を振って、楽しそうに話している。


(……すげぇよ)


五右衛門は、少しだけ拳を握った。


尊敬している。

羨ましくもある。


でも、その感情の正体を、まだ自分でもよくわかっていなかった。


ただ一つ言えるのは――

その背中を、目で追っている自分がいた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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