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『忘れた恋から始まる覚醒』恋能覚醒者(ラバー)×恋能覚醒者(ラバー)  作者: 葉月


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6/25

普通に彼女ほしいだけなんだけど。

恋保・新宿支部の一室。


白井ましろは、簡易ベッドに腰かけたまま俯いていた。

黒髪のボブが、顔を半分隠している。


「……落ち着いた?」


黒川が、少し距離を保ったまま声をかける。


ましろは、しばらく黙ってから小さく頷いた。


「……しゅんくん、どうなりましたか」


「病院で検査中よ。操りの影響はもう残ってない」


その言葉に、ましろの肩がほんの少しだけ揺れた。


「……そう、ですか」


それ以上、何も言わない。

泣きもしないし、言い訳もしない。


ただ、天使みたいに整った顔の奥に、

壊れたままの感情だけが残っている。


黒川は深くは踏み込まなかった。


「あなたの処遇は、後日正式に決まるわ。

今日はもう休みなさい」


ましろは顔を上げ、黒川を見た。


「後は心配しなくていい。ゆっくり休みなさい。」


それだけを告げると、黒川は踵を返した。


廊下に出たところで、ごえもんと澪が待っている。


「白井さんは?」


澪が不安そうに聞く。


「落ち着いてる。今はそれで十分よ」


黒川は二人を見て、少しだけ表情を緩めた。


「今日はもう解散にしましょう。

 学校生活に影響が出る方が問題だから」


「了解です……」


五右衛門が頷く。


「……日向さんも、今日は早めに帰りなさい」


「は、はい」


黒川はそれ以上何も言わず、支部の扉を閉めた。



---


翌日。


何事もなかったかのように、学校はいつも通りだった。


「おはよー、おまえざきくん」


澪が、昨日と変わらない笑顔で声をかけてくる。


「……おはよ」


ごえもんは短く返し、カバンを机に置いた。


教室のざわめき。

他愛のない会話。

誰かの笑い声。


——全部、普通。


なのに。


(なんか……落ち着かない)


昨日の出来事が、頭の奥で完全には消えてくれない。


白井ましろ。

俊先輩。

そして、澪が狙われた瞬間。


(……俺、あんな必死になるタイプだったっけ?)


視線を前に戻すと、澪が友達と話しながら笑っている。


特別なことは何もない。

ただのクラスメイト。


——ただ、ちょっと可愛い。


(……いやいや)


五右衛門は小さく首を振った。


(俺は普通に彼女がほしいだけだっての)


(でも、“普通”ってなんだよ)


特別な能力も、危険な事件もいらない。


放課後に待ち合わせして、

くだらない話をして、

たまに喧嘩して、

それでも一緒に帰れる相手。


(……それだけでいいんだけどな)


なのに、なぜかいつも、何も起きない。


モテないわけじゃない。

話しかけられないわけでもない。


ただ——


(気づいたら、終わってるんだよな)


始まってもいないのに。


その時、スマホが震えた。


【黒川:昨日の件、問題なし。学校は通常通りで】


業務連絡みたいな、そっけない文面。


なのに、ごえもんは一瞬だけ、画面を見つめた。


(……黒川さんも)


昨日の夜の姿が、ふと頭をよぎる。

冷静で、強くて、余裕があって。


(ああいう人も……いいよな)


すぐにスマホを伏せる。


「……何考えてんだ俺」


小さく呟いた、その瞬間。


「おまえざきくん?」


澪が首をかしげて、こちらを見ていた。


「なんか今日、ぼーっとしてない?」


「……してねぇよ」


「ほんとに?」


じっと覗き込まれて、少しだけ心臓が跳ねる。


「……してない」


「怪しいなあ」


澪はくすっと笑い、席に戻っていった。


それを見送ってから、ごえもんは深く息を吐く。


(彼女ほしいなー)


改めて思う。


でも、なぜか一歩が出ない。

理由もわからない違和感が、胸の奥に引っかかっている。


——まるで、

最初から「うまくいかない」ことを知っているみたいに。


ごえもんは、その感覚から目を逸らすように、窓の外を見た。


青空は、やけに澄んでいた。


そして彼は、まだ知らない。


自分のその“普通の願い”こそが、

いちばん遠ざけられているものだということを。


※読んでいただきありがとうございます!


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