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『忘れた恋から始まる覚醒』恋能覚醒者(ラバー)×恋能覚醒者(ラバー)  作者: 葉月


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揃い始めた歯車

翌日。


学校は、驚くほどいつも通りだった。


チャイムの音。

廊下を走る生徒。

昼休みの購買前にできる長い列。


昨日の出来事が、まるで夢だったかのように。


――ただ一つを除いて。


「担任の藍澤まどかは、家庭の都合でしばらく休みだ」


朝のホームルームで、学年主任の黒岩正志がぶっきらぼうに告げた。


「その間は俺が入る。以上」


教室がざわつく。


「急じゃない?」


「家庭の都合って……?」


五右衛門は、何も言わず前を見ていた。


(……嘘じゃない)


体育館裏は、あの後すぐ立ち入り禁止になった。


壊れたフェンス。

抉れた地面。


部活動で使っていた生徒たちが抗議したらしいが、

惨状を見て、それ以上は誰も何も言えなかったという。


(……隠された、だけだ)


その事実が、胸の奥に引っかかる。


放課後。

四人は、いつも通り支部へ向かっていた。


一条。

五右衛門。

澪。

三谷ひかり。


「……普通だね」


澪がぽつりと言う。


「学校、何も変わってない」


「そりゃそうだろ」


一条が軽く肩をすくめる。


「昨日のこと、全校に知られる方が問題だし」


三谷は、少しだけ視線を落としていた。


「……でも」


「忘れていいことじゃ、ないですよね」


誰も否定しなかった。



恋能庁・新宿支部。


天城いろははひと足先に着いていた。


五人が揃って腰を下ろすと、

園美は一度だけ深く息を吸ってから口を開いた。


「……恋暴食ラブ・グーラ、藍澤まどかの件で、分かったことがあるわ」


空気が、わずかに引き締まる。


「あなた達と別れたあと、取り調べをさせてもらったの」


「おそらく……」


園美は三谷に視線を向けた。


「三谷さん。あなたと同じケースよ」


三谷の肩が、ぴくりと揺れる。


「……恋引鉄ラブ・トリガーですか?」


「そう」


園美は頷いた。


「しかも、かなり強引に使われている形跡があるわ」


澪が、思わず声を漏らす。


「……じゃあ、誰かが……?」


「ええ」


園美は言葉を選ぶように、一拍置く。


「敵は、近いところにいる可能性が高い」


「え……どういうこと……?」


「詳しくは、まだ言えないわ」


即答だった。


「ただ一つ確かなのは――」


園美は視線を落とす。


「藍澤まどかは、最近“ある男”と頻繁に会っていたと言っているの」


「男……?」


一条が低く問い返す。


「でも、その人物のことを、うまく思い出せないみたい」


「無理矢理覚醒させられた影響でしょうね」


「記憶が、歪められている」


重たい沈黙。


「つまり」


園美は、四人をまっすぐ見た。


「あなた達の近くに、恋引鉄が潜んでいる可能性がある」


「……」


誰も、軽口を叩けなかった。


「これまでより、一層気を引き締めていきましょう」


そう言ってから、園美は少しだけ表情を緩めた。


「……とはいえ」


「今日はここまで」


「昨日の疲れを、ちゃんと取りなさい」


「みんな、本当によくやったわ」


「……無事で、よかった」


その言葉に、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。


その時。


「……あの」


澪が、そっと手を挙げた。


「もっと……強くなりたいです」


全員の視線が集まる。


「昨日……前より、ずっと動けてたと思うんです」


「でも……このままじゃ、嫌で」


言葉は拙いが、迷いはなかった。


「……わ、私も……」


三谷が、声を絞り出す。


「もっと、恋拒絶ラブ・リジェクトを上手く使えるようになりたい」


恋纏オーラも……できるようになりたいです」


「昨日だって……」


そこまで言って、言葉に詰まる。


園美は、すぐには答えなかった。


二人を見てから、少し困ったように笑う。


「まあまあ」


「あなた達の気持ちは、ちゃんと伝わってるわ」


「でもね」


指を立てる。


「身体を休めることも、訓練のうちよ」


「今は、その気持ちだけで十分」


そして、五右衛門と一条を見る。


「五右衛門くん。一条くん」


「あなた達も」


「昨日は、特に頑張ったみたいじゃない?」


五右衛門は、視線を逸らした。


(……そんなことない)


(たまたまだ)


一条も、肩をすくめる。


「結果論ですよ」


園美は、くすっと笑った。


「その“たまたま”を、次は必然にできるかどうか」


「それが、これからね」


その一言で、全員が理解した。


――ここからが、本番だ。


「……え、聞いていいっすか?」


壁際で座り込んでいた甘城いろはが、 ぽかんとした顔で言った。


「何?」


「その先生……」


「担任の先生だったんすよね?」


「ああ」


「……そんなヤバいのと戦ったんすか?」


全員が、微妙な沈黙をする。


「……まあ」


「うわー……」


いろはは、心底安堵した顔で言った。


「ウチいなくてよかったーーーー!!!!」


「心臓もたないっす……」


その反応に、澪が苦笑する。


「でも、いろはちゃんも、いずれ――」


「いやいやいや!無理無理無理!」


全力で首を振るいろは。


その様子を見ながら、 園美は少しだけ表情を緩めた。


(……信じていい)


(この子達なら)



誰もが、 少しずつ前に進んでいる。


自覚のある者も、 ない者も。


揃い始めた歯車は、 まだ音を立てていない。


けれど――

一度噛み合ったそれは、 もう簡単には外れない。


それが、 祝福なのか、 破滅への加速なのか。

まだ、誰も知らなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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