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『忘れた恋から始まる覚醒』恋能覚醒者(ラバー)×恋能覚醒者(ラバー)  作者: 葉月


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20/25

自覚

新宿支部の訓練室には、

やる気と不安が混じり合った、独特の空気が流れていた。


先程までとは違う。


「じゃあ、始めましょう」


黒川園美は、淡々と告げる。


「今日は恋能は使わないわ」


一瞬、空気が揺れた。


「え?」


澪が思わず声を上げる。


「この後の訓練は、基礎的な組手と体力トレーニングよ」


「簡単に言えば――」


園美は、指を折って説明する。


「筋トレとランニングで身体を作る」


「それから、簡単な護身術レベルの組手」


「……き、筋トレに組手かぁ……」


澪が少しだけ肩を落とす。


「大丈夫、安心して」


園美は、すぐに続けた。


「いきなり殴り合いなんてしないわ」


「あくまで“動き方”を知るためのもの」


一拍、間を置く。


「ただし――」


その視線が、全員を順に捉える。


恋纏オーラを纏った状態で動いたら、どうなるか」


「見てみたいと思わない?」


五右衛門が、わずかに眉を動かした。


「……それって」


「実演してもらいましょう」


園美は、視線を後ろにやる。


「いろはちゃん。この前のおさらいよ」


「う、うーっす……」


天城いろはは、軽く息を吸い、前に出た。


その瞬間。


彼女の身体の周囲に、

目には見えない“圧”のようなものが立ち上がる。


「……っ」


澪が、思わず息を呑む。


いろはの動きは速い。


派手じゃない。


だが、無駄がない。


「これが、恋纏を“自覚している”状態」


園美は説明する。


「身体能力そのものが底上げされる」


「だからこそ、基礎が重要なのよ」


その後の訓練は――

正直、散々だった。


 腕立て伏せ。


 ランニング。


 受け身と簡単な組手。


五右衛門は、思うように身体が動かない。


(……こんなもんか)


頭では分かっているのに、

身体がついてこない。


三谷ひかりは、息を切らしながらも必死だった。


(……悔しい)


(あの時、拒絶がうまく使えていたら)


被害は、もっと少なかったかもしれない。


澪も、汗だくになりながら動いていた。


「はぁ……はぁ……」


(……思ったより、きつい)


横を見ると、いろはは余裕がある。


年下で、同じ女の子。


それなのに、動きは自分よりずっと上。


(……すごい)


一条はというと――


確かに、よく動けていた。


 反応も早い。


 判断も的確。


だが本人は、分かっている。


(……恋強化のおかげだ)


(地力じゃない)


だからこそ、満足できなかった。


やがて、園美が手を叩く。


「今日はここまで」


全員が、その場にへたり込む。


「最初に渡した宿題、忘れないで」


園美は、静かに言った。


「回収はしないわ」


「でも、この機会に」


「自分自身と、ちゃんと向き合いなさい」


「そうすれば――」


「自然と、恋纏は自覚できるようになると思うわ」


解散。


それぞれが、重たい身体を引きずるように帰路についた。


夜。


五右衛門は、ベッドに腰を下ろしていた。


(……全然、ダメだった)


守ると言った。


強くなると言った。


なのに、今日できたことは――


何もない。


(……また、守れなかったら)


拳を、強く握る。


一条も、自室で天井を見つめていた。


(動けてた、けど)


(それは能力のおかげだ)


このままじゃ、ダメだ。


本当に強くならなければ。


三谷は、机に向かい、宿題の紙を見つめていた。


「……強くなりたい」


小さく、呟く。


そして――

澪。


部屋に戻り、制服を脱いで、ベッドに腰掛ける。


(……疲れた)


でも、不思議と嫌じゃなかった。


訓練のことを思い出す。


いろはの動き。


ひかりの必死な表情。


みんな、頑張ってた。


(……ごえもんくんも)


宿題の紙を、手に取る。


好きな〇〇。


ペンを持ったまま、しばらく悩んで――


「……ごえもんくん」


ぽつりと、声に出した。


その瞬間。


「……え?」


澪は、自分の身体を見渡した。


ぼんやりと、

全身から“何か”が滲み出ている。


熱くない。


怖くもない。


ただ、

あたたかい。


「……なに、これ……」


澪は、息を呑んだ。


気づいてしまった。


もう、戻れない。


確かに“自覚”は始まっていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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