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『忘れた恋から始まる覚醒』恋能覚醒者(ラバー)×恋能覚醒者(ラバー)  作者: 葉月


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19/25

見覚えのある顔

新宿支部の一室は、夕方の光が斜めに差し込んでいた。


昼間の喧騒が嘘のように静かで、

どこか“学校とは違う時間”が流れている。


(昨日の失敗は、二度と繰り返させない)


「じゃあ、改めて」


黒川園美が、軽く手を叩いた。


「今日から本格的に修行を始めるわ」


五右衛門、一条、澪、三谷。


そして――少し離れた位置に立つ、小柄な少女。


(でも……)


(本当に、この子達を巻き込んでよかった?)


園美は視線をそちらへ向ける。


(いや…違う)


(この子達は遅かれ早かれ自分で辿り着いていた)


(だったら……)


「その前に」


「紹介しておく子がいるの」


「この中には、初めましての人もいるわね」


ドアの方へ目配せをする。


「……入ってきて」


一瞬の間。

それから、少し遠慮がちに少女が前へ出た。


「う、うーっす……」


短めの髪を揺らしながら、軽く頭を下げる。


「その節は、ご迷惑おかけしましたっす」


「これからよろしくお願いします」


一条が目を瞬かせる。


「……あ」


澪も、小さく声を漏らした。


五右衛門は、じっと少女を見ていた。


(……あれ?)


園美が説明する。


天城(あまぎ)いろはちゃん」


「年は一つ下だけど、恋能覚醒者ラバーとしては先輩よ」


「例の件のあと、恋保(れんぽ)の協力者として――」


少し間を置いてから、付け足す。


「……みーっちり教育済み」


恋纏オーラも、すでに自覚してるわ」


「へえ……」


一条が感心したように息を吐く。


いろはは、少し気まずそうに頬を掻いた。


「いやー……まあ……」


「いろいろ、ありましたっす」


園美は一歩前に出る。


「ただし」


声が少しだけ引き締まる。


「まだまだ粗いし、判断も甘い」


「だから今日からは、見張り兼・実地訓練」


「……容赦しないから覚悟しなさい」


「ひぇ……」


いろはが小さく肩をすくめる。


その様子を見て、澪が思わず笑った。


「なんか……普通の子だね」


「普通っすよ!?」


いろはは即座に反応した。


「普通に捕まって、普通に怒られて、普通に反省しただけっす!」


その勢いに、場の空気が少し和らぐ。


だが――


「……あの」


いろはが、ふと澪と五右衛門を見る。


「一条先輩、かっこいいっすよね」


「え?」


突然の話題に、一条が目を丸くする。


「彼女さんとか、いるんすか?」


「いるけど……」


一条は苦笑した。


「修行中に聞くことか?」


「ですよね!」


いろはは頷いたあと、ちらっと五右衛門を見る。


「男前崎先輩もかっこいいとは思うんすけど」


「なんか……ちょっと怖いし」


「この前も、先輩のせいで捕まっちゃったし……」


「おい」


五右衛門が眉をひそめる。


「それは誤解だ」


「でも――」


いろはは言葉を選ぶように続けた。


「何より、日向先輩が」


「ずっと男前崎先輩の隣、キープしてる気がするんで」


一瞬、空気が止まる。


「……え?」


澪の声が、わずかに上ずった。


「ち、違っ……!」


「こら、いろはちゃん」


園美が、やや呆れた声で制した。


「修行前に先輩の評価会を始めないの」


「す、すいませんっす……」


だが園美は、すぐに肩をすくめる。


「まあ、気持ちは分からなくもないけど」


一拍置いて、何気ない調子で続けた。


「私はね」


五右衛門を見る。


「一条くんより――」


「ごえもん君の方が、好みだけど」


「……っ!?」


澪の肩が、ぴくっと跳ねた。


「え、あ、えっと……!」


「冗談よ」


園美は笑う。


「……半分はね」


いろはが目を輝かせる。


「えっ、マジっすか!?」


「マジじゃない」


園美は即答したが、

ちらっと五右衛門の方を見る。


その理由を、園美自身もまだ言葉にできなかった。


「はい、そこまで」


「修行を始めましょう」


(この子達は私が…)


一気に、空気が切り替わる。


「今日はまず“知る”ことから」


(正しい方向に導く)


園美は紙束を取り出した。


「これを配るわ」


(迷わせない)


一人ずつ、紙が渡される。


「内容は単純」


「好きなこと、嫌いなこと」


「楽しいこと、苦手なこと」


「……できれば、自分がどういう人間か」


三谷が、紙を見つめる。


「……これ、意味あるんですか?」


「あるわ」


園美は即答した。


恋纏オーラは、感情と直結してる」


「自分を知らないまま力を扱うと、必ず歪む」


堕恋者(だれんしゃ)たちがいい例ね」


澪が、ペンを握る。


(好きな……人……)


一瞬だけ、五右衛門の横顔が浮かんで、

慌てて思考を切り替える。


(……今は、違う)


一条は、紙を前にして動かない。


嫌いなもの。


――家。


――親。


――決められた道。


書きかけて、止める。


(……今は、いいか)


「これは宿題」


園美は言った。


「今日は体を動かす」


「基礎体力と、簡単な組手」


恋纏オーラを“感じる”ための準備よ」


(この選択は……)


(間違ってない)


修行は、静かに始まった。


三谷は息を切らしながらも、必死についてくる。


(……強くなりたい)


(あの時、拒絶がうまく使えていたら)


被害は、もっと少なかったかもしれない。


その思いが、彼女を支えていた。


一方――

いろはは、少し離れた位置で皆を見ていた。


(……やっぱり)


(この人たち……)


視線が、五右衛門で止まる。


(……あれ?)


胸の奥に、ちくりとした違和感。


(どっかで……)


だが、その感覚はすぐに霧散した。


園美は、その様子を横目で捉えていた。


(……見覚えのある顔)


誰の、記憶か。


何の、既視感か。


答えは、まだ出ない。


だが確かに――

歯車は、また一つ噛み合い始めていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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