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『忘れた恋から始まる覚醒』恋能覚醒者(ラバー)×恋能覚醒者(ラバー)  作者: 葉月


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燃え上がる嫉妬

「恐らく自覚したまま、使ってる」


園美は、静かに息を吐いた。


「……来るわね」


画面に映る数値が、

ゆっくりと、しかし確実に跳ね上がる。


「覚悟を決めておきなさい」


その言葉に、

五右衛門はわずかに眉をひそめた。


「来るって……何がですか?」


園美は答えない。


代わりに、端末を操作しながら立ち上がる。


「あの…私は…」


「まだ…ちょっと怖い…」


三谷は申し訳なさそうに言う。


「大丈夫。三谷さんはもう少し気持ちの整理ができてからでいいわ」


「今回は、現場確認だけよ」


その一言が、

この時点での――慢心だった。



 

新宿から少し離れた商業ビル街。


夕方の人通りは多く、

学生、会社帰りの社会人、観光客が入り混じっている。


「……なんか、暑くない?」


澪が額に手を当てる。


確かに、風がない。


季節外れの熱気が、街全体にこもっていた。


「火災報告は、まだ出てないわ」


園美は周囲を見渡しながら言った。


「でも、恋能反応はこの一帯に集中してる」


一条が、冗談めかして口を開く。


「派手なの来そうっすね」


「ええ。でも――」


園美は、少しだけ言葉を切った。


「制圧が目的じゃない。様子を見るだけ」


その瞬間だった。

 

――ボンッ。


鈍い破裂音。


次の瞬間、

雑居ビルの二階部分から炎が噴き上がった。


——いや、炎のはずなのに、

どす黒く見えた。


赤でも、橙でもない。


雑居ビル全体を覆っていくそれは、

まるで“燃えている感情”そのもののようだった。


増えていく悲鳴。


パニックになり、逃げ惑う人々。


「退避を――!」


園美が叫ぶより早く、

炎は隣の建物へと舐めるように広がる。


「五右衛門!」


「分かってる!」


五右衛門は前に出た。


だが――

(消えない……!?)


ゼロで触れても、

炎は“削れる”だけで、完全に消えない。


「これ……普通の恋能じゃない!」


一条が叫ぶ。

 

その時。

炎の向こう側、

燃え盛るビルの屋上に――

ひとりの少女が立っていた。


黒髪。

腰まで届く、真っ直ぐなストレート。


炎に照らされても揺れない、

整った、可愛らしい顔立ち。


まるでデートの待ち合わせでもしているような、

無邪気な表情。


「……あれ?」


少女は首を傾げた。


「こんなに燃やすつもり、なかったんだけどな」


その声は、驚くほど穏やかだった。

 

――紫堂しどう 美雪みゆき


その名を、園美はまだ知らない。


だが。


(……強い)


直感が、警鐘を鳴らす。


「全員、下がって――」


遅かった。

 

「最近さ」


美雪は、ぽつりと呟いた。


「まさき君、ちょっと冷たいんだよね」


炎が、さらに膨れ上がる。


「今なにしてるのかなあ」


熱風が、地面を叩く。


「優しくしてほしいだけなのに」


建物のガラスが、次々と割れた。


「もしかして…」


「他の女の子と仲良くしてたりして」


炎はより、激しく、大きくなる。


「……許さない」


炎はさらに黒く濁っていく。


夕焼けに染まる街中で、その炎の異質さはより際立って見えた。




「うわっ!」


逃げ遅れた一般人が転倒する。


「怪我人が――!」


澪が駆け寄ろうとする。


「澪、待て!」


五右衛門が腕を掴んだ。


一歩間違えれば、

死人が出ていてもおかしくない。


その事実が、

全員の背中を冷やした。

 

段々炎が引いていく。


黒煙の中、

美雪は大きく伸びをした。


「あー……」


「ちょっとやりすぎたかな」


そう言って、スマホを取り出す。


「あ、今日まさき君、バイトだったっけ」


一瞬考えて、にこっと笑う。


「まあ、いっか」


炎の中を背に、歩き出す。


「早く会いたいなあ」


甘い声で。


「まさき君♡」



 

静寂。


サイレンの音だけが、遅れて響く。


怪我人は数名。


幸い、命に別状はない。


――だが。


園美は、その場に立ち尽くしていた。


(……判断を誤った)


視察で済ませるべき相手ではなかった。


連れてくるべきではなかった。


油断。


慢心。


そして、想定不足。


五右衛門達の命さえ危うかった。


「……ごめんなさい」


誰に向けた言葉かも分からないまま、

園美は小さく呟いた。


五右衛門は、燃え残るビルを見上げる。


(……これが)


(本気で、人を殺せる恋能……)


日常は、もう戻らない。


そして彼らは、

“引き返せない一線”を越えたのだと――

この時、全員が理解していた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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