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『忘れた恋から始まる覚醒』恋能覚醒者(ラバー)×恋能覚醒者(ラバー)  作者: 葉月


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13/25

引き金。

朝の教室は、いつも通りのざわめきで満ちていた。


「おはよー」


「おはー」


「今日の小テストやばくね?」


雑談の中に、軽い悲鳴が混じる。


澪が席に着き、隣の列に顔を出す。


「おまえざきくん、おはよ」


「……おはよ」


五右衛門の返事は短い。

いつも通りだ。


一条は少し離れた席で、机の上に資料を広げていた。

生徒会の書類だろう。やたら几帳面に並べている。


「……一条、朝から真面目だな」


五右衛門が声をかけると、一条は顔を上げて笑った。


「真面目というか、期限が今日なんだよ」


「一条くん、生徒会の副会長のくせに期限ギリギリなの?」


澪が茶化す。


「人聞き悪いな。余裕持ってやってる」


一条は澪に軽く手を振ってから、五右衛門を見る。


「昨日の放課後、変な空気あったろ」


五右衛門の眉が動く。


「……気づいてたのか」


「気づくよ。あんなに露骨なら」


一条は小さく息を吐く。


「変な感情の波。……嫌な感じだった」


澪が目を丸くした。


「え、わたし気のせいかと思った」


「気のせいじゃない」


一条は断言する。


「昨日からずっと、薄く続いてる」


その瞬間だった。


教室の奥で、椅子が倒れる音がした。


ガタン——。


「……っ」


声にならない声。

誰かが息を呑む。


五右衛門と一条が同時に立ち上がる。


「何だ?」


教室の奥。

女子生徒、三谷ひかりが立っていた。


肩が震え、目は赤い。

周りのクラスメイトが距離を取っている。


「……近づかないで」


三谷ひかりが絞り出すように言った。


「お願い、来ないで……!」


一歩、誰かが近づこうとした瞬間。


空気が弾けた。


「っ——!」


見えない衝撃が走り、男子生徒が壁に叩きつけられるように転ぶ。


「え……なにこれ」


澪が青ざめる。


五右衛門は思わず一歩踏み出した。


「……恋能が暴走してる?」


その言葉に、一条が首を振った。


「たぶん違う」


「え?」


「あれは暴走じゃない」


一条は三谷の様子を見つめたまま続ける。


「たぶん、あれは——」


一条の声が低くなる。


「まだ自分の恋能を制御できてないだけだと思う」


五右衛門は目を見開いた。


「制御……?」


「誰かに急に力を持たされたとか」


一条は唇を噛む。


「心の準備も、自覚もないまま」


三谷の肩が、びくりと跳ねる。


「いや……いやだ……」


「私、そんなつもりじゃ……」


言葉が途切れ、涙が落ちる。


「……嫌だよ……!」


また空気が跳ね、机が揺れた。


澪が思わず後ずさる。


(……怖い)


怖い、のに。


(でも、あの子……泣いてる)


五右衛門の胸が、静かに反応する。


ゼロが——“拒絶”に反応している。


「……俺が行く」


五右衛門が言った。


一条はすぐに頷く。


「頼む」


「でも、傷つけるなよ」


「わかってる」


五右衛門は深く息を吸って、一歩踏み出した。


「大丈夫だ」


声は、できるだけ静かに。


三谷が首を振る。


「来ないで……!」


「俺は、お前を傷つけない」


五右衛門は距離を詰める。


見えない壁が、ひりつく。


空気が押し返してくる。


(……強い)


でも、ゼロは——逃げない。


五右衛門が手を伸ばした瞬間。


音もなく、何かが“ほどけた”。


空気の壁が、崩れる。


三谷の身体から、力が抜ける。


「……え……?」


膝から崩れ落ちた彼女を、周りの空気がようやく受け止める。


「……ごめん……」


女子生徒は震える声で言った。


「ごめんなさい……っ」


「……悪いのは、君じゃない」


五右衛門はそれだけ言って、視線を上げた。


教室の窓の外。


廊下の向こう。


(……見られてる)


そんな気配がした。


一条も同じ方向を見る。


「……今の、誰か見てた気がしないか」


五右衛門は答えない。


澪だけが、胸の奥のざわめきを感じていた。


(……なにか、来る)


三谷の周りに駆け寄ったクラスメイトが、震える声で言う。


「大丈夫? 何があったの?」


女子生徒は首を振る。


「……わかんない」


「急に、頭が……」


「嫌なこと、いっぱい……」


言葉にならない嗚咽。


そして、気を失ってしまった。


一条が、ぽつりと言った。


「……力ってさ」


「やっぱり、ちゃんと使える人が使えなきゃだめだよな」


五右衛門は、拳を握りしめた。


(誰がやった)


(どうやって)


その答えは、まだ出ない。


---


夜。


部屋は静かだった。

窓の外には、街の光が滲んでいる。


机の上に広げたノートを、指でなぞる。


「……やっぱりさ」


誰に向けるでもなく、呟く。


「力って」


少しだけ間を置いて、続けた。


「準備できてないやつが持つと、

だいたい、碌なことにならない」


小さく息を吐く。


「……だから…」


画面の光が、顔を照らした。



画面の向こうで、

ひとつ、通知が消えた気がした。


---


日常は、まだ壊れていない。


だが確実に、

歪みは広がり始めていた。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

引き続きよろしくお願いいたします!

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