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『忘れた恋から始まる覚醒』恋能覚醒者(ラバー)×恋能覚醒者(ラバー)  作者: 葉月


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11/25

居心地の良い距離。

放課後の校舎を出ると、空はすっかり夕方の色になっていた。


「一緒に帰っていい?」


澪が、いつもの調子で聞いてくる。


「別に、いいけど」


五右衛門はそう答え、駅へ向かって歩き出す。


最近、このやり取りが当たり前になっていた。


会話が途切れても、気まずくならない。

無理に何か話そうとしなくてもいい。


「……ねえ、おまえざきくん」


少し歩いたところで、澪が口を開いた。


「おまえざきくんと一緒にいるとさ」


一拍置いて、続ける。


「なんか、居心地いいんだよね」


「……そうか」


それだけ返すと、澪は満足そうに頷いた。


「うん」


特別な意味はなさそうな声。


けれど、その横顔を見ながら、澪は心の中でそっと考えていた。


(居心地、いい……だけ)


ドキドキするわけじゃない。

恋って言われると、よくわからない。


それなのに――


(……この感じ、

最近じゃない気がする)


ずっと前から、こうだったような。

初めて隣に並んだ日より、もっと前。


理由は思い出せないのに、

感覚だけが、ずっとここにあったみたいで。


(……考えすぎだよね)


澪は小さく首を振る。


前を歩く五右衛門の背中は、相変わらず少しだけ遠い。


でも、不思議と離れていく感じはしなかった。


「おまえざきくんってさ」


澪が、少しだけ明るい声で言う。


「ほんと、変だよね」


「……急に失礼だな」


「悪い意味じゃないよ」


くすっと笑って、澪は続けた。


「なんていうか、

一緒にいて楽、っていうか」


「それ、褒めてんのか?」


「褒めてる褒めてる」


澪ははっきり頷いた。


五右衛門は少しだけ困ったように頭をかいた。


(居心地がいい、か)


(……澪らしいな)


それ以上、深く考えることはしなかった。


やがて、駅へ続く階段が見えてくる。


「じゃあ、ここで」


澪が立ち止まる。


「また明日ね」


「ああ」


澪は少しだけ振り返ってから、手を振った。


五右衛門がそれに応えた瞬間、

胸の奥に、小さな違和感が残る。


理由は、わからない。


ただ――


(……悪くない)


そう思っている自分がいた。



---


――同じ頃。


都内某所。


観測装置の数値が、静かに跳ね上がる。


「……この恋能の異常値」


誰かが、低く呟いた。


「明らかに、悪意を持って周囲に解放している……」


一瞬の沈黙。


「最近よく事件を起こしている恋能覚醒者ラバー達……

通称、“堕恋者だれんしゃ”め……」


画面の向こうで、

またひとつ、数値が上昇した。


日常は、まだ壊れていない。

だが確実に、

歪みは広がり始めていた。




「恋は誰にも邪魔させないよ」


恋に飢えた者たち――

《フォールン・アモーレ》は、そう言った。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

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