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バックアップ恋愛

 保存は、朝食の片づけと同じくらい当たり前になった。

 黒川律は流し台の皿を立てかけ、指先で雲のマークを押した。雲は青く光る。今日の二人を記録する。

 保存名は自動で付く。「平日・朝・食器乾き80%・機嫌ふつう」。

 雪村七菜は食パンの袋を結び直し、雲を横目で見た。

「機嫌ふつう、って便利な言葉だね」

「極端に悪くも良くもない、という意味で統計的に」

「はいはい。統計さん」

 まな板には刻み損ねたネギが少し残っている。七菜はかき集め、スープに落とした。味は昨日より塩が強い。保存は味まで記録しない。

 玄関で靴紐を結ぶ。外は湿気。ドアの向こうに、いつもの音がある。新聞配達のブレーキ。隣の子どもの泣き声。誰かのベランダから洗濯バサミが落ちる小さな音。

「今日、保存しないでみる?」七菜が言った。

「出勤前は保存したほうが安心だよ」

「安心は、いつも眠い」

 律は靴紐をきゅっと引いた。雲のマークが親指の腹で冷えている。

「帰ってから、考えよう」

「それ、だいたい保存するほうに傾く逃げだよ」

 彼女は笑って先に出た。階段を降りる足音。三階から二階に変わるペース。律は雲を押した。青い。今日の朝がファイルになった。


 駅で電車が遅れた。原因は「線路内に落ちた傘の回収」。車内で《LovRecover》の通知が震える。

《差分ナビ:前回比—0.6%。推奨ルートA「謝罪→水→散歩」》

 律は通知を見て、そのまま画面を伏せた。謝るほどのことは起きていない。起こさないようにできている。

 会社では上司の機嫌が晴れ、部下の画面は黙って光る。昼にカレー。五百円のレトルト。スプーンのへりで袋を押さえながら食べる。机の角にカレーが一滴落ちた。ティッシュで拭き取る。保存されないしるし。

 夕方、雨が強くなった。職場を出ると、ビルの自動ドアが人の流れを区切る。七菜からメッセージ。

《今日、保存しないで帰ろう。傘忘れた。》

《了解。駅前。傘ある。》

 二人はいつもの合流点で会った。コンビニの前。軒下に濡れた自転車が三台。七菜の頬に小さな雨粒。

「保存しないで帰ると、架空の喧嘩をしなくていい」

「どういう理屈」

「保存しておくと、わざわざ巻き戻す理由を作らないと、保存した意味がない気がする」

「それは気のせいだ」

「気のせいって、便利だね。統計さん」

 律は自分の傘を半分差し出した。二人で入るには狭い。肩が当たる。濡れた。七菜は笑った。

「戻さないよ」

「ああ」

 その夜、雲は押さなかった。代わりに、炊飯器の内釜を洗いそびれた。翌朝、においがした。未保存の責任は、鼻でわかる。


 休みの日。部屋の掃除。ベランダの排水口に小さな草が生えていた。どこから来たのかわからない種。七菜は抜いて、鉢に植えた。

「名前をつけよう。未保存さん」

「それは、ひねりがなさすぎる」

「未保存さん(二世)でもいい」

「早い」

 掃除機の紙パックの替えがない。律はメモした。買うものリストの横に、雲のマークが並んでいる。アプリは買い物の適切な順路まで提案する。「洗剤→紙パック→卵」。

 午後、ふたりは喧嘩らしきものを始めた。洗濯物の干し方だ。タオルを長辺で留めるか、短辺で留めるか。生活は、長短で揉める。

「長辺のほうが皺が少ない」律。

「短辺のほうが乾きが早い」七菜。

「データは?」

「見た目」

 しばらく言葉が行ったり来たりした。いつでも雲に手が伸びる距離にスマホはある。七菜が先にソファに沈んだ。

「巻き戻してやり直すより、濡れたまま寝転んで冷えるほうが、今日は合ってる気がする」

「風邪をひく」

「じゃあ布団を干そう。短辺で」

 乾いた笑い。タオルは、どちらでも乾いた。短辺も長辺も、陽の下では同じように白い。


 月曜日の夜、カスタマーサクセスの比嘉から電話が来た。

「新プランのご案内です」

 声は乾いている。冷蔵庫の野菜室に忘れていたきゅうりみたいに、軽くしなびた。

「未保存プラン、という名前ですが、内容はそのままです。スナップショットを取りません。アンドゥできません。復元点はありません」

「無料の試用が、先月ありました」律が言った。

「はい。導入後の継続希望が多く、正式プランになりました。有料です」

「いくら」

「月額と、失敗一回ごとの都度課金」

「失敗の定義は」

「関係が後退する変化全般。喧嘩、沈黙、無視、遅刻、言い過ぎ、言いそびれ。いまはベータで、たまに“言いそびれ”がカウントされません」

「便利そうね」七菜が言った。

「便利ではありません。未保存ですから」比嘉が言った。

 律は電話をスピーカーにして、テーブルの上の麦茶を見た。冷えている。氷は半分溶けた。

「なぜ有料に」

「市場が成熟すると、人は非最適を欲しがります。弊社はお客さまの欲望に誠実です」

 七菜が麦茶をすすりながら笑った。

「誠実、便利だね」

「はい。便利です」

 電話は切れた。テーブルに水滴が輪を作る。コースターを敷き忘れた。未保存は輪になって残る。律は布巾で拭いた。輪は薄くなるが、消えない。


 未保存プランに切り替える画面は、いつもの青い雲とは別の色だった。くすんだ灰色。ボタンの文言は簡潔だ。

《未保存プランに移行しますか? はい/いいえ》

「はい」を押すと、利用規約が出た。細かい文字。目が滑る。

「規約、読む?」七菜。

「読んでも、だいたい忘れる」律。

「未保存らしいね」

 スクロールの一番下に、小さく注釈があった。

《注:未保存の対象は関係データに限られます。請求関連データは保存の対象外です》

 律は指を止めた。

「請求は、保存される」

「お金の記憶力は、いつもいい」

 二人は「はい」を押した。画面は灰色のまま、少しだけ温度が下がった気がした。気のせいだ。気のせいは便利だ。


 切り替え初日の夜、七菜は卵を落として床に割った。殻の破片が足裏に当たる。冷たい黄身。

「ごめん」

「アンドゥはもうない」

「片づけるのは、いま」

 二人で雑巾を持った。殻を拾い、床を拭く。明日には忘れるような仕事だが、忘れないような姿勢でやる。

 そのあと、些細なことで静かな衝突が起きた。律が洗濯機のフィルターを戻し忘れ、洗面所の床が濡れた。七菜はタオルで押さえ、ため息をついた。

「ここ、前にも同じことがあった」

「覚えている」

「覚えているけど、戻さない」

「戻さないから、覚えている」

 沈黙が長くなった。未保存は沈黙の形をはっきりさせる。家電の電子音がよく聞こえる。冷蔵庫の小さな振動。バスの通過音。階上の椅子を引く音。

 寝る前に、二人はベランダの鉢を見た。名もない草。未保存さん。葉は二枚になっていた。

「これ、なんの芽だろう」

「未保存だから、調べない」

「そういうところ、好き」

 言葉は簡単で、意味は重い。重いまま、布団に入った。


 数日で、変化があった。

 朝の会話は十八秒を越えるようになった。天気の話が一歩進み、近所の犬の名前が確定した。散歩しているおばあさんと会釈を交わす回数が増えた。

 七菜はスーパーで予定外の見切り品を買った。きのこ。安い。冷蔵庫に余裕はない。配置で揉めたが、揉めたまま鍋に入れた。味は濃く、思ったより良かった。

 律は会社で、昼の席を窓側に移した。光は眩しい。画面が見えづらい。効率は下がる。かわりに、空が見えた。雲は保存されていない。

 週末、二人は散歩に出た。川沿いの公園。ベンチに古いガムが貼りついている。子どもが輪になってボールを蹴っている。父親が一人、スマホを見ながら立っている。《LovRecover》の画面ではない。別のゲームだ。

「前は、散歩ルートも推奨があったね」七菜。

「“川沿い→パン屋→雑貨店→帰宅”。満足度+12%」律。

「満足度って、便利だね」

「便利は眠い」

 帰り道、雨が降った。コンビニの前で傘を一本買った。透明。二人で入る。肩が当たる。濡れた。笑った。デジャヴではない。前回と違って、傘は新しく、雨は少し冷たく、店員の髪色が変わっていた。未保存は、細部にばらつきを戻す。


 スコアは下がった。アプリの評価欄には、薄い赤字で「3.8」。レビューに、過去の自分たちのコメントが並ぶ。

《些細なことで復元し合えるのが良い/推奨ルートAが役立った/喧嘩が短くなった》

 七菜は画面をスクロールして、笑った。

「この頃のわたしたち、やさしい」

「やさしいけど、薄い」

 律は評価欄を閉じた。暮らしの点数が一桁下がると、やる気が二桁上がる奇妙な現象があった。たぶん統計に出ない。出ても、眠い。


 ある晩、比嘉がまた電話をしてきた。

「未保存プランのご利用状況を確認しました。順調です」

「順調の定義は」律。

「解約率が低い、都度課金の発生頻度が安定している、レビュー更新が停滞している」

「最後のは、褒め言葉?」七菜。

「未保存ですから。レビューは減ります」

「どうして、電話を?」

「社からのお知らせです。未保存プランの“未保存保証”を強化します」

「矛盾してない?」

「矛盾は、いちばん売れます」

 比嘉は、少しだけ息を吸い直した。受話器の向こうの生活音は少ない。空気清浄機の弱運転くらい。

「詳細はまた画面で。追伸ですが、個人の感想としては——未保存は、うまくいくと面倒です」

「どういう意味」

「家で、だいたい面倒になりました」

 電話は切れた。比嘉の家庭にも、未保存があるらしい。便利ではなさそうだ。便利は、いつも会社の言葉だ。


 翌朝、アプリのトップに告知が出た。

《未保存保証β:未保存の“失敗”に価値を付けて保護します。失敗を蓄積し、二人だけの“経験資産”として可視化。復元不可、換金不可、譲渡不可。閲覧は有料。》

 律は眉を上げた。

「失敗を、保護する?」

「保護って、便利だね」七菜。

「便利は眠い」律。

 スクロールの下のほうに、また小さな文字があった。

《注:失敗の記録は“保存されません”。ただし失敗の“証明書”は発行され、弊社サーバーに保存されます》

 七菜は笑いかけ、笑いきれず、麦茶を飲んだ。

「証明書は、保存される」

「お金と証明は、たいてい残る」

 暮らしの机の上には、未払いの電気代の紙と、スーパーのクーポンがある。クーポンの有効期限は今日まで。未保存は財布にやさしくない。


 その週、二人は大きな失敗をやった。家賃の自動振替を止めたままだった。未保存に切り替える前のメモに「家賃 再設定」とあったが、保存されていない。

 管理会社から電話が来た。

「今月の家賃がまだです」

「申し訳ありません。すぐに」律。

「来月からは自動に戻します」七菜。

 電話を切ったあと、沈黙が落ちた。重いほうのやつ。

「わたしがメモしてたのに」

「僕も見ていた」

「見ていたのに、戻さなかった」

「戻さないから、見たことになる」

 少し間を置いて、二人は並んで座った。未保存は、いちばん堅い椅子を選ばせる。

「これで、都度課金は?」七菜。

「発生してるだろう」律。

「未保存に、課金」

「保存より、高い」

 二人は同時に笑い、同時にやめた。笑い声は、少し乾いていた。


 月末、請求が来た。画面を開く。

《未保存プラン:月額×1/都度課金×14/失敗証明書閲覧×3》

 合計額は、家計簿の予算を越えていた。家計簿は保存する。

「証明書、いつ見た?」

「一回、夜に。二人の“沈黙(三)”」

「わたしも一回。“言いそびれ(A)”」

「もう一回は?」

「……未保存さん(二世)の写真が消えた日。閲覧したら、“観察不足(芽)”って名前がついてた。高かった」

「高いね」

「かわいいから、見た」

 律は天井を見た。シーリングライト。虫が一匹、カバーの内側に入っている。出られない。

「証明書は、保存される」

「ねえ、律」

「なに」

「保存って、こういうふうに、残ってほしいものじゃなかったのかな」

「たぶん、違う」

「だよね」

 七菜は立ち上がり、ハサミを持ってきた。ライトのカバーを外し、虫を逃がした。虫は窓にぶつかって落ち、また飛んだ。未保存の飛び方で。


 翌月、通知が来た。

《未保存プラン・プレミアムを開始。未保存の失敗を“レンタル”できます》

 律は目を細くした。

「レンタル?」

《サンプル:『喫茶店でコーヒーをこぼす』『初めての料理で焦がす』『駅で別々の電車に乗る』》

 七菜はソファで身を起こした。

「失敗を、借りる?」

「失敗を、自分のものでない値段で買う」

「ややこしいね。お金の匂いがする」

「濃い」

 プレミアムは高かった。未保存のくせに、支払い方法は保存された。カード情報は青い雲よりしっかりしている。

 画面のいちばん下に、また注釈があった。

《注:レンタルされた失敗は、お客さま固有の“経験資産”には加算されません。弊社の資産です》

 律は笑った。

「失敗の所有権は会社にある」

「会社は、失敗が上手」

 二人は、レンタルをしなかった。じぶんで十分だ。レンタルで増やすほどの勇気はない。勇気は保存されない。


 夏が始まった。未保存さんは三枚葉になった。鉢が小さくなった。買い替えのメモを保存した。保存は、便利だ。

 ある夜、二人はふいに大きくぶつかった。きっかけは、冷蔵庫の卵の数。明日の朝に足りない。どちらが買うか。どちらの帰りが早いか。どちらのほうが過去に買っているか。

「わたしばっかり買ってる」

「僕のほうが外に出るのが遅い」

「遅いって、便利だね」

「便利は眠い」

 声が少し荒くなった。いつでも雲は押せる。雲は灰色だ。押しても、戻らない。

 七菜が玄関に向かった。サンダルをつっかけ、鍵を掴む。律は追わない。雨のにおいがした。ドアが閉まった。

 部屋は静かで、家電の音が増えた。保存されない時間は、音の種類を増やす。

 律はテーブルに座り、未保存プランの画面を開いた。プレミアムのバナーが揺れている。課金の提案は、たいてい雨に合う。

 通知が震えた。七菜から。

《卵、六個入りが安い。今、買う》

 少し間を置いて、もう一つ。

《泣きそう。泣く。未保存》

 律は「了解」と打って消し、何も送らなかった。何も送らないのが、今日は合っていた。

 十分後、ドアが開いた。七菜が卵を二パック持って立っていた。六個入り×二。

「二つ買った」

「多い」

「泣きながら、手が滑った」

 二人は笑った。冷蔵庫に入れた。卵はずらりと並び、保存が効く。卵に保存は向いている。心には向かない。

 その夜、二人は長く話した。仕事のむかつく相手のこと、昔の家の間取り、親の愚痴、将来の気のない約束。会話は水みたいで、コップの形には合わなかった。こぼれたぶんだけ、床が冷たい。拭く。拭いても、薄い輪が残る。


 月末、また請求が来た。

《未保存プラン:月額×1/都度課金×22/失敗証明書閲覧×0》

 前月より高い。閲覧はゼロ。見ないことを覚えた。見ないことで、覚えている。

 請求の明細には、さらに小さな文字が増えた。

《注:未保存プランの解約は“保存された”操作として取り扱われます》

 律は目をこすった。

「解約、保存されるって」

「便利だね」

「便利は、眠すぎる」

 解約ボタンは、灰色だった。押すと、数分間の説明が始まるらしい。説明は眠い。眠いものは、夜に合う。夜は短い。


 比嘉から、最後の電話が来た。

「本日、プラン改定の最終ご案内をします」

「未保存の値上げ?」七菜。

「はい。ただ、同時に“未保存ない生活”のパッケージも始まります。完全保存です。すべてが戻せます。関連支払いも、戻せます」

「支払いも?」律。

「期間限定のプロモーションです。保存の力で、お金の流れを整えます」

「魔法みたいだ」

「弊社のプロダクトは、だいたい魔法です。注:魔法の請求は現実です」

 比嘉は少しだけ笑った。電話越しの笑いは薄い。

「個人的には、どちらでも。未保存も保存も、人には過剰です。適量がありません」

「あなたは、家でどっち?」七菜。

「今週は、未保存です。冷蔵庫に卵が多い」

 電話は切れた。ふたりは顔を見合わせた。冷蔵庫を開ける。卵はまだ多い。未保存さんは四枚葉になった。鉢はパンパンだ。

 律は呼吸を整え、テーブルにスマホを置いた。

「決めよう」

「うん」

「未保存のまま、行く」

「課金は、痛い」

「痛いから、やめない」

「やめないから、覚えてる」

 二人は笑った。笑い声は、少し湿っていた。


 そのとき、画面に確認が出た。

《保存しますか?》

 選択肢は、相変わらず「はい/いいえ」。指が覚えている。

 七菜は先に首を横に振った。律も同じ方向に振った。画面は反応しない。未保存は、首の動きを拾わない。

 律が「いいえ」を押した。七菜も押した。ボタンは沈む。画面は黒くなる。しばらくして、請求アラートだけが明るくなった。

《未保存プラン・継続:承りました。領収書はメールに“保存”されます》

 台所の蛍光灯が、わずかにちらついた。家の音は増えた。冷蔵庫、換気扇、遠くの踏切。

 二人は顔を見合わせた。笑いかけ、笑いきれず、麦茶を飲んだ。

「保存されるのは、だいたい、お金だね」七菜。

「お金と、領収書と、規約」律。

「恋は?」

「未保存」

 静かな夜が広がった。窓の外で、誰かが洗濯バサミを落とした。小さな音。拾う気配。

 ベランダの鉢で、未保存さんがわずかに揺れた。風の記録はない。葉は今だけを揺らす。その揺れは、どこにも残らない。


 翌朝、二人は卵焼きを食べた。焦げ目が強い。塩が足りない。ネギは刻みが雑で、たまに大きいのが混ざる。

「失敗の味がする」

「うまい」

 テレビからは天気予報。洗濯指数。保存の効く話題。

 食後、律は流しで皿を立てかけ、タオルで手を拭いた。雲のマークは灰色で、静かだった。親指は宙で止まり、何もしなかった。

 ドアの外には、新聞配達のブレーキ。隣の子の泣き声。ベランダから洗濯バサミの落ちる小さな音。どれも保存されない。

 七菜は出がけに振り返った。

「今日、帰りに鉢、買いに行こう」

「大きいやつ」

「重いやつ」

「未保存さんが、重さを覚える」

 二人はうなずいた。うなずきには、料金がかからない。今のところ。

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