幼馴染たちの距離が近い③
昼休みも終わり、午後の授業も終わった。今日という一日だけで一週間以上の疲れを感じたのは気の所為じゃない。今まで関わることがなかった奴の対応の疲れは本当に予想以上だ。
帰路に付きたい。
それを許してもらえるんであればな。
最悪な予想はやっぱり当たってしまうようで教室を出たところで大晴と串宮がいた。
「やっぱりいたか」
「これから帰りだよな」
「ああ」
「それなら私と帰ろう」
「いや、優希は俺と帰るんだよ」
「何言ってるの。大晴」
「それはこっちのセリフだ、輝愛」
別にお前らが言い争うのはいいが、教室の前でそれをするのだけはどうにか止めてくれないか。朝のこともあって注目を集めるし、何より俺が帰れるような感じじゃなくなる。
「ここは俺に譲るぐらいの余裕を見せてくれても良いんじゃないか?」
「それは私の言葉。今まで何度勉強を手伝って来たと思ってるの。その恩を忘れたわけじゃないでしょ?」
「それに関しては「ありがとう」って言ったろ」
「その言葉で全て済むと思ってるの?」
昔からこの二人の仲は良くはなかった。
小学校の頃から険悪の雰囲気はあったものの、俺としてはこいつらお似合いのカップルだと思っていた。イケメンと美少女だし、性格や好みなどをすごく似通っているのだ。喧嘩するほど仲が良いと言うが、この二人に関しては本当にそれを現しているような気がする。
とこんなことを考えている場合ではない。
「なぁ優希、俺と帰りたいよな」
「いいえ、私と帰りたいわよね」
なんなんだ、こいつら。
結局、俺は二人と帰ることになった。
そこでまた次の問題。
二人はそれぞれ俺の片腕を抱きしめているのだ。
もし男女間でやっていたらただのカップルかもしれない。だが、今の俺は左腕に男が、右腕に女が抱きしめている。
こんなの異様過ぎる光景だろう。男を取り合う、男と女という珍しいものが出来上がってしまった。
そんな状況の中、大晴は何故か声のトーンを落として話し始めた。
「やっぱり俺は優希がいないとだめなんだよな。何をやってもお前がいないと…」
なんでそんな自分語りを今始めるんだ。ここは他愛ない話をして時間を流すところだろう。
梅崎大晴という男を一言で言い表すんであれば『常軌を逸した依存人間』だろう。小学校の頃から大晴は俺に対して依存していた。
最初は別にそこまで気にも留めていなかったが、ある事件があって嫌でも気に留めるようになった。今の大晴のことはそんなに知らないが、学校での人気や明るい性格というのも聞いていたから少しは直ったかと思っていた。大晴の依存は少し常軌を逸しているので早いうちに矯正して直した方が良い。
これが俺が知る、梅崎大晴という男だ。
そしてなぜかその湿っぽい大晴の発言に対して、串宮も同じように声のトーンを落とす。
「私って優希が全てなの。優希のためならどんなことでもやってあげるからね」
その言葉が嘘じゃないのを、俺は小学校の頃に体験している。
串宮輝愛という女を一言で言い表すんであれば『残虐性を持った依存者』というところか。串宮の俺のためならどんなことでも行動できるという点は本当だ。それが例え、人を苦しめるようなことであっても串宮は笑顔で実行して見せるだろう。もちろん、小学校の頃にもそんなことを串宮にお願いしたことはないが、それぐらいやってしまうのは分かるのだ。串宮が昔と変わっていないのなら…。
大晴の時も思ったが、中・高と通って環境が変化すれば何か変わるだろうと思っていた。もっと丸くなってその残虐性も影をひそめると。確かに串宮という女子生徒に残虐性があるなんて誰も思わわないだろう。だが、さっき話した瞬間の目を見れば分かるのだ。串宮は変わっていないと…もしかしたら前よりも悪化している可能性だってある。
これは俺が知る、串宮輝愛という女だ。
それからの帰り道、こいつらからずっとさっきのような言葉を言われ続けた。家の中にまで入ってこようとしたのでそれだけはどうしても嫌で、どうにか諦めさせた。俺はすぐに自室のベッドへとダイブする。
そして少し目を閉じた後に仰向けになり、今日会ったことを思い出すことにした。
「本当に今日は濃かったし、まさかこんなことになるとはな」
昨日までとは全く違うものになってしまった。俺は普通の日常を謳歌して、幼馴染のことを遠ざけられればそれで良かったのだが。
あいつらの悪い面というか、少しひねてくれている面は俺と出会ってから出てしまったのだ。これは本人たちが「優希と出会って俺は本当の自分を知れた」とか「優希くんは私の恩人です」など言ってきたので本当だろう。
もちろん、離れたのはあいつらに俺のことで悲しませたくないという気持ちもありつつ、あの少し裏の一面が少しでも解消されればいいと期待していた。別に人に表と裏があるのは当たり前のことなので周りに危害を加えないんであれば、いいと俺も思っている。
だが、あいつらのは他人に危害を加える。
そしてそれに対して抵抗感というものがほとんどないのがあいつのまずいところだ。今のところ被害が出ているのかは分からないが、少なくとも大きな被害は出ていない。もしやっていたらさすがに学校中で何かの話題になっていていいはずだしな。
自分の病気のことよりも…あいつらの方を心配することになるとは。これからあいつとどんな風に接していくのか正しいのだろうか。
昔のように接するのか、それとも今までのようにしっかりと距離を保つ。昔のように接するわけにもいかないが、今日の感じだとほっといてくれる感じでもないしな。
「はぁ…どうするか」




