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絵描きとボーイッシュな彼女

作者: DalSheron

1/14/2016

ある日、また別の描く対象。その瞬間その瞬間が僕のアートに影響を与えている。シンプルなものから抽象的なものまで──人間であれ、動物であれ、モノであれ、環境であれ──すべては僕のスケッチブックの中に息づいていた。


ある時、廃れたバスケットボールコートで定期的に地下ファイトが行われているという噂を耳にした。学校側は人気が落ちたと言って放置していたが、鍵がかかっていても何人かでこっそり忍び込み、その非公式な“戦い”を見物していた。


最近、月曜と金曜に男子たちがトーナメントを開いているらしい。僕は興味を示さずにいたが、「ラッド・サッドを決勝で破った新人がいる」という噂を聞いて、急に好奇心を抱いた。次のトーナメントの日、放課後の時間を使ってそのコートに向かい、金のポートフォリオ用の絵になる被写体を探しに行った。そしてそこで、何人かの男子が「ある女の子に負け続けてる」と愚痴っている声を耳にした。


その子は初めて見たが、すぐに目を奪われた。身長163cmほど、金髪がまばゆい。南国・カナリア出身らしく、こんな北国の学校に留学生がいたとは知らなかった。


予選はいつもの喧嘩じみた乱闘ばかりで、特に面白くはなかった。けれど、彼女がリングに現れた瞬間、空気が変わった。スポーティーなランニングスタイルにフィットした服装。彼女は構えて、三人の男子が同時に襲いかかってきた。無秩序な攻撃に見えたが、彼女の動きは無駄がなく、攻守が自然に一体化していた。高速の攻撃にも冷静に対応し、反撃は本能のようだった。誰よりも彼女が強く、その圧倒的な存在感に僕は心奪われた。


気づけば僕は、彼女を20ページ以上に渡ってジェスチャースケッチしていた。普段は無駄口を嫌う僕が、ただ描くことに没頭していた。その間、ふと見上げると──彼女と目が合って、思わず顔が赤くなった。慌てて描き続ける僕に、彼女は余裕で挑戦者たちを制していった。


その後、何人かの男子が彼女の停学を画策したが、僕たちが匿名で撮影した動画と証拠を提出し、停学は免れた。ただし校則違反として口頭での戒告を受けた。だがその結果で終わらなかった。


新しい場所が必要になり、僕は近所にある倉庫の屋上を思いついた。オーナーと知り合いだった僕は「課外活動」として許可を取り、鍵を信頼できる先生に預けた。その先生も巻き込み、クラブ名を「Fight and Combat Tactical Research(FaCTR)」として正式に立ち上げられた。


僕は観察者としてそこにいたが、次第にアートへの意欲が高まっていった。そして、もちろん彼女もその中心にいた。彼女のファイトスタイルは本気で、ただの遊びではなかった。きっと、何かを賭けていたのだろう。


ある日、彼女のスケッチを終えた僕は、不意に背後に気配を感じた。振り返ると誰もいない──と思った瞬間、再びその場に彼女がいて、僕のスケッチブックをじっと見下ろしていた。慌てて立ち上がろうとした僕を制して、スケッチブックを開いてページをめくる彼女。その視線は、驚くほど真剣で、しかも、明らかに感心している様子だった。


言葉ではうまく聞けなかったが、彼女はスケッチブックの隅に文字を綴り、僕も返事を書いた。言葉少ない僕を理解しようとするその気持ちに、僕はすぐに「友人になろう」と応じた。


それから僕たちは、放課後やクラブ活動のあとも一緒に過ごすようになった。彼女といると、いつの間にか自分の殻が少しずつ破れていくのを感じた。スケッチも、言葉も、少しずつ自然になっていく。記録し続けた彼女のファイトと、その合間に芽生えた自分のアートへの渇望。だけど、次に踏み出すには自分を曝け出す必要があった。


その後、僕は彼女を、自分のスタジオへ招待した。過去に描きためたすべてを彼女に見せた。それはまるで、心臓を握り出して手渡すようなものだったが、彼女はそれを真摯に受け止めてくれ、安心させてくれた。


二階の制作室でジェスチャースケッチを再現しようとしたとき、ふと、外見だけじゃ彼女の全ては描けないと感じた。内面を描くには、もっと深く彼女を知る必要がある。そんな僕の前で、彼女がゆっくりと服を脱ぎ始めた。


頬が真っ赤になった僕は止めようとしたが、彼女は静かに進めた。そして、下着姿になるところまで――それが僕たちの関係として、今、受け入れられる範囲だった。


その瞬間、僕は確信した。彼女の野性と優雅さ、強さと繊細さ──その全てに、恋をしていた。僕のアートも、彼女と共により深く、より豊かになっていった。


数ヶ月が過ぎて、ある放課後──僕は屋上に彼女を呼び出し、行動で想いを伝えた。言葉ではなく、バラ一ダースの姿で。彼女はすぐに答えなかったが、「答えを、少し待ってほしい」と穏やかに言った。


翌日、翌週も彼女は現れず、僕は不安に包まれた。ある夕暮れ、屋上で夕日を見つめていると、背後に暖かな気配。振り向くと、彼女がバッグひとつで立っていた。彼女は「怖かった」と率直に打ち明け、そして「はい」と微笑んだ。


あのキスは、永遠かと思えるほどの深さだった。


その日以降、彼女は毎日のように僕の家に来るようになった。僕は彼女を、ありのままに描けるようになった。刺激に溺れず、自分を律した。僕は彼女に近づくため、自分も戦う道へ踏み出した。彼女の相手をした時、受ける痛みと傷が一週間消えなかったが、それは距離を縮める勇気だった。


学校中が僕らを“ホットカップル”と噂するようになった。そんな中で、僕は気づいていた――彼女が何か重大なことを隠している、と。そしてある日、彼女が大きな家に連れて行ってくれた。両親と食卓を囲んで、彼女の父は身長203cm、風貌も彼女そっくりだった。そこで、卒業後に彼女はアリーナでデビューする、という事実を告げられ、僕の胸は締めつけられた。


それ以来、彼女は苦悩し、ある夜屋上で泣き崩れた。僕は怒りも悲しみもこらえきれず、三日間、音信不通だった。体調も崩し、気づけば意識を失っていた。


数日後、目覚めると、愛しい彼女が涙で濡れた枕の横で眠っていた。許すしかなかった。彼女が作ってくれたスープを飲みながら、僕は笑顔を取り戻した。


しかし翌日、届いた手紙に言葉を失った――


「娘の純潔を奪ったら、その命は保証できない」

「冗談ではない。我が家が未来を守るまで…」


文字通り背筋が凍った。


それでも僕らは歩みを止めなかった。親の圧に耐え、痛みに耐えた。そして夏、僕はキスをして旅立ち、帰ってきた時には薬代と借金と傷跡と共に戻った。


再び屋上でひざまずき、彼女に問いかけた。


「結婚してほしい」


彼女は涙ながらに「はい」と答えた。そこから僕らは婚約し、学園は祝福ムードに包まれた。


父親が課した“試練”――折れた肋骨と頬骨の痛みは、僕が成し遂げるべきものだった。そして一度きりの持参金、十万ギルダー。結婚式は、あの日出会った廃れたコートだった場所で行った。僕は壇上から過去を振り返り、そして彼女と父が入場する瞬間に、胸がいっぱいになった。


式が終わり、僕らは夫婦限定の温泉旅館へ向かった。僕は“Undressed”シリーズのために彼女を描いていたが、従業員が急にやって来て、赤面しながら謝られた。運ばれてきたのは「毒蛇の血スープ」――“パフォーマンス向上”と書かれていたが、本当にその効果を感じた。


その夜、僕らは夫婦として甦った。そして、次の朝、街を歩けば誰もが祝福してくれたが、現実はすぐに訪れていた。10日後、彼女はリングに戻る。卒業後、初の本格デビュー。僕も会えるのは月に一度と決めた。僕はアートの道を極め、彼女のそばで支え続ける――マネージャーか、それ以外かもわからないが。


――これが、僕と彼女の、「静かで鋭く、けれど燃えるような」物語の、終わりでもあり、新たな始まりでもある。

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