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三題噺もどき4

風吹く夜

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくにじゅうなな。

 



 夜空に浮かぶ月が、今日は見え隠れしている。

 雲の流れが速いのだろう。あまりにも頼りないその月明りは、人には不安を与えるのかもしれない。ただでさえ暗くて恐ろしい夜なのに、それを照らす唯一の月が頼りないのだ。

 私はそんなことはないのだけど。

「……」

 ビュウと吹く風に、前髪が暴れる。少々長めなものだから、まぁ、大変に暴れる。

 前髪で隠れていたのに、むき出しになった額に、冷たい風が吹きつける。

 思わず身が竦むが、数日前程の寒さはない。

 風は確かに強いが、凍えるほどの寒さとは言えない。

「……」

 しかし寒いことには変わりがない。

 どうやらまた大寒波とやらが襲ってくるらしい。もう二月なのに。二月も半ばに入り、アッと言う間に三月になっていくだろうに。また、寒くなるのだと。

 こうも、気温の上下が激しいと、さすがの私でも体調を崩すかもしれない。そんなことはないように気を付けたいものだ。

「……」

 まぁ、それとこれは別なので、散歩は変わらずするだろうけど。

 雪でも降ったら考えるかもしれないな……さすがにまた風邪をひくわけにはいかない。あの頃はまだ仕事始めをしていなかったからよかったが。今はそうではない。

 時間はあるので、溜まることはないが、風邪をひいてしまえば分からない。

「……」

 だから、なのかは知らないが、やけに防寒をしろと釘を刺してくるアイツが居るので、今のところ、健康的に過ごしてはいる。特にこれといった不調も見受けられない。いいことだ。

 食事の管理もすべてしてもらっているからかもしれないな。間食はいいのかどうか分からないが、必要な糖分というのはあるだろうからな。

「……」

 しかしまぁ、寒いなぁ。

 いつになったら温かくなるのだろう。嫌いではないが、冬というのは少々不得手なのでさっさと春になってもらいたいものだ。夏は……あれはあれで暑すぎるから考え物ではあるが。秋というものはいつの間にかなくなっていたのかな……とそう思うくらい昨年はずっと暑かったな。

「……」

 あの夏が、恋しくなるほどにこの冬は寒かった。

 夏場は割と、人の間でそういう話が回るからか、影にいる者たちが元気だったりするのだけど……ここ最近とんと見ていない。いや、墓場に行けばいるにはいるが。あまり頻繁にはいけない。

 そういえば、こういう強風の日なんて、話の舞台には持って来いじゃないか?

「……」

 風に揺れる草木が怪しく音を立てる。

 道の先にある街灯は、接触が悪いのか、もう寿命なのか。

 チカチカと点滅しては、消えかかっている。

 通り過ぎようとした公園で、ブランコがキイと揺れる。

 木々がざわめき、風がごうと耳元で鳴る。

 月の光がふっと消え。

 不安に駆られる人の目の前に、ぼうと現れる。

 ナニカ。

「……」

 怯えはしないが、人の想像力には驚く。

 夜というモノ自体に、もともとあるネガティブなイメージを、更に膨らませて、見えないナニカを想像させるのが上手いなと、読書をしていると思うことが多々ある。

 あたかもその風景が見えているように頭の中で映像がしっかりと流れるのだから、描写の丁寧さは美しいものだ。

「……」

 私の眼には、暗かろうが夜だろうが、人が見る昼間の風景と同じ程度に見えているから、私の中の「人が持つ夜」のイメージだって、本で得た知識のようなものだけど。

 どうやったって、人ではないからそこは分かりえない。まぁ、視力を抑えてしまう事は出来るが、見えなくなるように抑える必要はないだろう。

「……」

 ビュウと、また強く風が吹く。

 ふむ。これ以上は歩いていても冷えるだけかな。

 せっかく公園まで来たから寄っていこうかと思ったが、今日は遠慮しておこう。

「……」

 軽くブランコに手を振って、帰路につく。

 今日は少し読書でもしてみるかな。




「戻った」

「おかえりなさい」

「……なんの臭いだ?」

「シフォンケーキを焼きました、チョコの」

「……あぁ、そうか」











 お題:不安・夜空・ネガティブ


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