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いよが産んだ神殺し  作者: 快魅緋瀬
《第一章》初めての異世界、翻弄記
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5話 嫌われ者

 ギルドとやらに入ってみた。


「おぉ……」


 扉を開けて中に入った途端、人々から生じる熱気に気圧された。


 装備を着たいかにも冒険者な人達で賑わうその場所は、昼だと言うのに酒の匂いが充満していた。

 笑い声が耐えず、いても不快にならない騒々しさだった。


 そんな喧騒の中を潜り抜け、壁に貼られた依頼らしい紙を見てみた。


「ぐ……読めねぇ」


 案の定読める字はなく、書かれている絵で判断するしかない。見たところ紙は上から難易度が高い順に貼られているようで、一番上には大きな蛇の絵が描かれていた。


 そこから書かれている魔獣らしきものの絵のグレードは下がっていき、一番下は虫や草の絵が書かれた紙があった。


「うーん……」


 どれがいいのか分からず、首を傾げて唸っていると、快斗の肩を誰かが掴んできた。


 振り返ると、今度は背の高い黒髪の少年だった。少年は快斗の目を見たあと、快斗の前にあった草の絵の書かれた紙を見た。


「君、それを受けるつもりなのか?」


「いや……文字が読めないからどれがいいのか分からずに見てただけ」


「ふーん?字が読めないのか君。その割には良いなりしてる」


 少年は紙を指さしながら、


「これは雑草処理の仕事だぞ。日給銅貨十枚。こういうのは職業体験する子供が受けるやつだ」


「それって何歳くらいの子供?」


「七歳とかじゃないか?」


「この世界はそう言う感じなのか……」


 快斗のいた世界ほど教育が行き届いている訳ではなく、子供も直ぐに働き手として育て上げられるわけだ。


 それがいいのか悪いのかは判断しかねるが、快斗にとってその経験は悪いものにならないはず。


「今思えば、俺って働いたことないな」


「君の家ってそんなに裕福だったのか。見たところ、その刀も大分いい代物だろ?」


 腰にこさえた草薙剣に注目する少年。そこまで目を引くような物に快斗は感じないのだが、話しかけてくる人は刀の話を直ぐに持ち出す。


「これ売ったらいくらになる?」


「はぁ?これを売るなんて勿体ないことしないほうがいい。俺の目から見ても、そうそうお目にかかれるようなもんじゃない。そんなことするくらいなら、俺が一緒に行ってやるから依頼をこなそう」


 少年は下から三番目くらいの段に付けられた紙をとった。豚のような生き物が書かれた紙だ。牙が生えていて、随分と凶暴そうな容貌の魔獣だ。


「これなら多分できる。俺がついてるから怪我はさせない」


「いいのか、ついてきてもらって。言っとくけど、俺戦闘経験マジで皆無だからな?」


「そうなのか?まぁいい。君がまずやって見て、危なくなったら俺が助けるよ」


 少年は快斗に紙を手渡し、しかし全く表情を変えないまま手を差し出した。


「俺はヨギ。君は?」


「天野快斗だ。天野でも快斗でも、どちらでも」


「じゃあ快斗。依頼を受けることにしよう。まずは受付にこれを出して、魔力検査をしてから出発だ」


 少年、ヨギは初対面だと言うのに快く快斗へ依頼の受け方を教えてくれる。彼が指し示した受付へ二人で赴くと、受付をしている男が快斗を見て顔を引き攣らせた。


「あぁ、左目は隠せばよかったか……」


 青髪の少年に言われたことを忘れていた。赤い目は縁起が悪いらしい。相手に嫌悪感を抱かせるほどならば、隠していない自分の方が悪いと感じてしまうのが快斗だ。


 そんな快斗をヨギは肘でつついて、


「気にするな。その赤い目も個性だ」


 と言いながら依頼の紙を受付の男性へ差し出した。男性は咳払いをして気を取り直し、その紙を受け取ってから何か石版のようなものを差し出した。


「これは?」


「これが魔力検査に使う石版だ。手をかざすだけでいい。魔力量だったり、あまりに属性が依頼内容に不利な場合に止められるように用意されているだけだ。大抵は通る。通過儀礼のようなものさ」


 ヨギが手をかざすと、石版は少しだけ淡く光るだけで何も起こらない。「な?」と自分でやって見せたヨギが快斗へ通過儀礼を促す。


 それならば問題ないかと、快斗も何の気なしにその石版へ手をかざした。


「いっ!?」


 その瞬間、電気が炸裂するような音を響かせて快斗の手が石版から弾かれた。


「いっ、てぇ……なんだこれ、俺そんなに適正なかったか……?」


 ヒリヒリと痛む手を抑えて涙目になる快斗は、ヨギにこの現象の説明を求めようと振り返った。


 そして、ヨギの表情に快斗は驚いた。


 目を見開き、何かに絶望したような表情。不思議なことに受付の男性も同じ表情をしていた。

 二人だけではない。周囲にいた人々も同じように驚いた表情で快斗を見ていた。


「どうし──」


 その雰囲気が不気味で、快斗がヨギへ声をかけようとしたところで、受付の男性が大声を上げた。


「あ、あぁ悪魔!悪魔が出たぁあ!!」


「は?」


 悪魔なんてこの場にいるのかと快斗はその声に驚いたが、周囲の緊張感と、その視線の向く方向を知って気がついた。


「──マジか」


 快斗から漏れた言葉とほぼ同時に、多数の冒険者達からの猛攻撃が降り注いだ。


「うぉお!?」


 楽しげな雰囲気から一変、冒険者達の目には強い殺意が宿り、一斉に向けられたそれに怯える間もなく刃が先行する。


 快斗は周りの突然の変わりようと、突き出されるそれが案外遅く感じることに驚いた。躱すのはそこまで難しくない。人が多くて武器を突き出しにくいのだろう。


 しかしこの場に居続けるのは絶対に無理だ。無理になったんだ。だからここから快斗は立ち退かなければならない。


「快斗──」


 名を呼ぶヨギの声が聞こえたが、振り向く間もなく快斗は走り出す。攻撃の合間を潜り抜け、それでも快斗の肌を掠めた刃を皮膚を引き裂いていく。


 そんな荒れ狂うギルドの中、明らかに周りとは一線を画した存在がいた。


 それは逃げる快斗のすぐ横に瞬時に追いつくと、長い腕を伸ばして快斗の手に握られた草薙剣を奪った。


「あ!?」


「良い刀ですねぇ、王都にでも売りましょうか」


 草薙剣を取り返そうと手を伸ばしたがもう遅い。その男は押し寄せる冒険者達の後ろへと逃げていき、もう追うことも叶わない。


「クソ……意味わかんねぇ!!」


 仕方なく命を優先し、快斗は全速力でギルドから飛び出して行った。

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