表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いよが産んだ神殺し  作者: 快魅緋瀬
親友へ
1/42

0話 在りし日の記憶

「今日は何の日でしょう」


 だらしなくジャージを着崩した友人が、とある日にそう訪ねてきた。

 公園にまで呼び出してきたのだから何事かと思ったら、毎年同じ日同じ時間にこんなことをしてくる。


 もうそんな時期かと、少し緑が戻ってきた木を見つめながら、こちらもいつもと同じ言葉を返した。


「バレンタインデー?」


「むっふーん。違います!」


「違くはないだろ」


「あ、そっか」

 

 今日は二月十四日。世間はバレンタインデー。想い人にチョコやらなんやら、甘い菓子を送る、ちょっとだけ特別な日。


 そんな少しだけ特別な日に、二人の少年は毎年のように二人きりになる時間を作る。


「チョコもらった?」


「まだだな。お前は?」


「貰う予定なんてないよ。あげる予定ならあるけど」


 そう言いながら、目の前の友人は、男とは思えない中性的な顔を笑顔に染めて、後ろに隠していた物を差し出してきた。


 赤い箱に青いリボンをつけたプレゼント箱。それを差し出しながら、友人は今まで通り、恒例の言葉を口にした。


「お誕生日おめでとう。そして、生まれてきてくれてありがとう」


 いつも大半は聞き流す友人の話も、この時ばかりは真正面から受け止める。普通より強めの親愛を抱かれて、嫌な気なんて微塵もしない。


 だが、流石に少し恥ずかしかった。


「こんなに大層なものにしなくていいんだぞ?」


「いーの!うちの気持ちなんだからさ!」


 友人は無邪気に笑い、プレゼント箱を渡してくる。それを受け取って、こちらもそれ相応の笑みでもって返した。


「ありがとう」


 その言葉を口にすると、珍しく友人は無邪気な笑顔から微笑みへと表情を変えて、


「うん。また、来年も渡せたらいいね」


「なんだよそれ」

 

 と、この日ばかりは意外な言葉を吐き出した。意図が伝わらず、そこまで深い言葉を言う質じゃない友人の言葉だったので、気に求めていなかったセリフ。


 その意味が、ようやく分かった気がする。


快斗かいと君!」


 目を覚ます前に聞こえた声のおかげか、降りかかる最悪を得物の一振で沈めることができた。


「悪い、遅れた」


 左右違う色の瞳で前を見る。そこには、あの日嬉しそうに誕生日プレゼントをくれた友人が──


「大丈夫?」


 隣に立つ子がそう訊いてくる。それに力強く頷き、得物を強く握りしめた。


「さぁ──行くぞ」


 果てしなく遠いはずの距離を縮めるため、一歩目を強く踏み出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ