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魔王ヴェニタスと女兵士シーナ part4

「すみませんであります。ずっと本当のことが言えなかったであります。本当は、もうしばらく前に兵士をクビになっていたであります」


 俺がカウンターから出したホットミルクには手をつけず、シーナは俯いて言った。


「先程は横領をした上官がクビになったと言いましたが、クビになったのはジブンの方であります。告発をしたら、なぜかは解らないでありますがジブンが横領をしたということになっていたであります」

「なんと小賢しい……」


 シーナの傍らに座っているフロールが忌々しげに言う。シーナは続ける。


「『本来なら重い刑罰に処すが、市民に対する兵士全体の威信に関わるから、今回は内々の処分とする。だから、お前も余計なことは言うな』と言われたであります」

「それで結局、上官はお咎めなしで、今もその地位に居座ってるっていうわけか」


 俺の言葉に、シーナは悄然と頷く。


「はい。ジブンは……ジブンは、処罰が怖くて、それ以上は何も言えなかったであります。ジブンは……恥知らずの臆病者であります。立派な兵士であった自分の先祖に、もう顔向けができないであります」

「だから自ら命を……。本当に不器用な子ね……」


 フロールがシーナの肩にそっと手を添えると、シーナの目から涙がぽたぽたとこぼれる。


「お二人とも、今まで嘘をついていてごめんなさいであります。ジブンはずっと夜警などしていなかったであります。ジブンはただ顔なじみの兵士に会うのが怖くて、夜にしか外に出られなかっただけであります。この喫茶店に来て、コーヒーを飲みながらお二人と話をすることだけが、ジブンにとっての救いだったのであります」

 

 どう相づちを打つべきかも解らず、俺もフロールも沈黙してしまう。

 

 でも、とシーナはやや間を置いて語を継ぐ。


「もう……この店に通うこともできなくなるであります」

「どうして? ここには他の兵士なんて来たりしないじゃない」

「単純にお金が底をついてしまったであります。なので、ジブンもいよいよオサラバであります。もう生きていてもしょうがないであります。そう思ったのでありますが……」

 

 シーナは言葉を途切れさせ、俺が喫茶店の扉脇に立てかけておいたシーナの剣へちらりと目をやる。


「あの剣をここに置いていったのは、お二人へのお礼でもあり、でも実のところ、ああやってジブンのもとへ返しに来てくれることを期待していたのであります。結局、ジブンはいつも甘えてばかりであります。精神だけでなく、考えも甘い。上官の告発も単なる空回りで、結局、誰のためにもならなかったであります」


 そう言って、シーナは再び静かに涙をこぼす。


「ランス、少し話が」


 とフロールがイスを立って、俺を裏のキッチンへ行くよう促す。二人そこへと入ると、フロールが顰めた声で言う。


「ヴェニタス様、わたくしはあの子を追い込んだ人間のことが許せません。どうか、あの子を助けてあげられないでしょうか」

 

 フロールがこうもハッキリと俺に願い事をするなんて珍しい。なんて驚いてる場合でもないか。


「そうだね、俺も同意見だ。このままシーナを悪者のままになんてさせられないよ」

「ヴェニタス様……ありがとうございます」

「フロールはシーナの傍にいてやってほしい。今は絶対にシーナを独りきりにするべきじゃないからね」

「承知しました」

「うん。じゃあ、ちょっと脅しをかけてくるか、適度に懲らしめてくることにするよ。で、そいつの名前と住所は?」

「はい。名前は――」

 

 と、先ほど言っていたように調査済みだったらしい情報を聞き、俺はシーナに一言言ってから店を出た。


「ちょっと用があるから外に出てくるよ。大丈夫。フロールは店に残るし、俺もシーナがそのミルクを飲み終える頃には戻ってくるから。そのままゆっくりしててよ」

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