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7   寝てから言ってください

「……それはもう?」


 動揺して変な言葉を使ってしまったため、アデルバート様は呆れた顔で聞き返してきました。

 やけくそというわけではありませんが、アデルバート様の命を守るためです。なりふり構っていられません!


 「ええ。踊りたくて仕方ありません!」


 胸を張って叫んだあとにアデルバート様の所に行く前に先生の所に向かいました。そして、小声で「あの人は危険です。針を持っていました」と伝えました。

 実際に見たわけではありませんが、隠し持っているはずです。

 先生は驚いた顔をしましたが、アデルバート様の命が狙われる可能性があることは知っていたようで、慌てて様子を見守っていた、私たちの担任の先生に声をかけました。

 先生と警備員が抵抗するダンス講師を連れて行ったあとは、みんな不思議そうにしていましたが、授業が再開されました。

 私がアデルバート様のパートナーを務めることになったわけですが、踊りたいと言ったくせにダンスが下手くそすぎてみんなには笑われて泣きたくなりました。  

 でも、事情を察してくれたアデルバート様が「ありがとう」と優しい笑顔を見せてくれたので、良しとすることにしたのでした。


******


 調べた結果、シード先生が持っていたポーチの中に裁縫セットがあり、その中の一つに毒が塗られていたことがわかりました。どうして針を持っていたことがわかったのか、先生や警察の人たちは不思議そうでしたが、何らかの力が働いているのか、深くは聞いてきませんでした。


 アデルバート様を助けることができて、本当に良かったです。


 ですが、このことで、私への注目度が高まってしまいました。

 そしてある日、元婚約者のエイン様が特別クラスにやって来て、こんなことを言い出したのです。


「やっぱり、アンナと結婚したい」

「はい?」

「僕はアンナと結婚したいんだよ!」

「……寝言は私のいない所で寝てから言ってください」


 軽蔑の眼差しを向けて答えると、エイン様は泣きそうな顔になりました。


「おい! 失礼なことを言うな!」


 その時、突然現れて私を叱責してきたのは、お姉様を心から愛し、お姉様のために何度も私を手にかける男となる、マイクス侯爵家の次男のヴィーチでした。

 ヴィーチは同学年の男子よりもかなり高身長で、成人男性だと言われても信じてしまえるくらいに筋骨隆々の体形です。彫りが深い顔立ちで一部の女子からは人気があると聞いたことがあります。

 エイン様の友人で、一緒にいることが多く、私を目の敵にすることは、何度やり直しても同じです。自信のない態度をしている人物は一定数の人には嫌われてしまうことは理解しています。そして、彼はそのうちの一人で、そのような人を見ると馬鹿にするという嫌な態度ばかり取る最低な人格です。

 ヴィーチとお姉様が出会うタイミングは毎回違っています。今回はエイン様とお姉様が婚約したことで、ヴィーチはすでにお姉様と知り合っているでしょう。どうせ、お姉様にあることないことを吹き込まれ、それを疑うことなく信じているんですね。


「ここはお前たちのクラスじゃないだろ。とっとと帰れよ」


助けに入ってくれたアデルバート様を見て、エイン様は何も言い返しはしませんが、不機嫌そうな顔になりました。そして、様子を見守っていた男子がエイン様に尋ねます。


「フロットル伯爵令息って、アンナの姉と婚約していたんじゃないんですか?」

「アンナとの婚約を破棄したのはフロットル伯爵令息だと聞いたんですけど」


 クラスメイトはわたしとエイン様が婚約していたことは知っていますし、お姉様が流している噂が実際とは違うため、お姉様が嘘をついているのだと知っています。だから、助けに入ってくれたみたいです。


「何なんだ。どいつもこいつも、この女に騙されているのか」

「騙されているのはお前だよ」


 ヴィーチに言い返したのは、アデルバート様でした。

 次男とはいえ、ヴィーチは侯爵令息です。このクラスで彼と対等の立場で話せるのは、アデルバート様しかいません。ちなみに、どうして私がヴィーチを呼び捨てにしているのかというと、全ての未来で、彼は侯爵令息ではなくなり、お姉様の専属騎士になっていましたし、自分を殺す相手に様なんて付けたくないだけです。

 ヴィーチは不機嫌そうな顔で、アデルバート様に尋ねます。


「どうして、僕が騙されているなんて言うんだ」

「噂で判断してるんだろ? その噂の多くは嘘なんだよ」

「君だってアンナ嬢の話しか聞いていないんだろう? なら、ミルーナ嬢の話も聞くべきだ」

「俺はアンナの姉には興味ないんだ。アンナのことについて、お前が騙されていると言っただけなんだが?」

「僕が騙されているというのであれば、それはミルーナ嬢が嘘をついていると言っているようなもんじゃないか! ミルーナ嬢はそんな人じゃない!」


 声を荒らげるヴィーチの横で黙り込んでいたエイン様は、私と目が合うと笑顔になって話しかけてきました。


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