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【書籍発売中】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら  作者: 風見ゆうみ


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45  どうして喧嘩になったのでしょうね

 そうこうしている内に、みんなの登校時間になったので、ニーニャたちと合流する前に、一限目の授業の準備をしようと、机の中に手を入れた時でした。

 教科書ではない何かが手に当たりました。

 何かのプリントかと思い、手に取って出してみると、日時と場所が書いてありました。誰からとは書いてありませんが、このタイミング的にロウト伯爵令息からでしょう。一応、本人には昼休みに確認しようかと思いましたが、指定の時間は今日の昼休みでした。

 しかも学園の屋上です。改めて読み直してみると、『必ず来い』と命令形になっていたので、相手はヴィーチだと判断しました。

 本当にしつこい人です! アデル様が駄目なら、また私ということでしょうか! アデル様に相談して、ローンノウル侯爵家から苦情を入れてもらいましょう。


「ど、どうかしましたか?」


 教室に入ってきたニーニャが心配そうな顔で尋ねてくるので、笑顔で頷きます。

「大丈夫ですよ。他のクラスの人がわざわざゴミを入れたみたいです」


 私の机の中に入っていただけで、宛名は書かれていません。大事な昼休みの時間を潰されたくありませんので、私はその紙をアデル様に見せて、あとはお任せしたのでした。


 昼休み、私が来ないことに痺れを切らして、ヴィーチがやって来るかもしれないと、ミルルンたちに話をしていました。ですが、彼は中々、食堂に姿を現しませんでした。和やかに食事を済ませ、教室に戻ろうと食堂の出入り口に向かっていると、突然、叫び声が聞こえました。


「何するのよ!」

「それはこっちの台詞ですわ!」


 女性同士が言い争っているようです。その、どちらの声も聞いたことがありましたので、私はミルルンたちに話しかけます。


「ミドルレイ子爵令嬢とミルーナさんの声です。もう少し、食堂にいても良いですか?」

「もちろんよ。それにしても、食堂の出入り口は一つしかないんだから、そんな所で喧嘩しないでほしいわね。みんなの迷惑になるじゃない」


 シェラルが眉根を寄せて言いました。どうして二人が喧嘩をしているのか気にはなりますが、私の顔を見れば、二人の怒りの矛先は私に変わるでしょう。私は良い人ではありませんので、自分を犠牲にしてまで喧嘩を仲裁する気はありません。


「アデルバート様はあたしのものよ!」

「いいえ! いつかはわたしのものになる人です!」 


 ミドルレイ子爵令嬢とミルーナさんは、アデル様を取り合って喧嘩しているようです。

 それにしても、いつの間にアデル様がミドルレイ子爵令嬢のものになったのでしょうか。ミルーナさんも婚約者がいるのに、そんなことを言って良いんですかね……。


「おい、アデル。お前を巡って、女性二人が取っ組み合いの喧嘩してるぞ」

「警備員が止めてくれるだろ」


 今日は食堂で食べていたようで、アデル様たちの声が聞こえて振り返ると、うんざりした様子のアデル様の姿が見えました。


「あんたなんて、お呼びじゃないのよ! どうして、今回はアデルバート様を気にするの! 今まではフロットル卿が好きだったんでしょう⁉」

「エイン様のことはもう忘れたの!」

「何よ、それ! あんたにはロウト伯爵令息がいるでしょう! 痛いじゃないの! 髪を引っ張らないでよ!」


 聞いているだけで、なんだか気の毒な気持ちになる会話です。


「アンナ嬢」


 ロウト伯爵令息が近づいてきて、私に小声で話しかけてきます。


「話し合いの場だけど、次の休みはどうかな」

「かまいません」

「場所だけど」


 ロウト伯爵令息が話している途中で、アデル様が私とロウト伯爵令息の間に体を割り込ませてきました。


「近づき過ぎだ」

「……すみません」


 アデル様に注意された、ロウト伯爵令息は素直に謝りました。


「アンナに話しかける前に、自分の婚約者が派手に喧嘩してるんだ。止めてこいよ」

「……わかりました」


 ロウト伯爵令息は頷くと、私に視線を移して言います。


「場所は改めて伝えるよ」

「承知いたしました」


 ロウト伯爵令息はアデル様に軽く一礼して、ミルーナさんたちのいる方向に歩いていきました。すでに警備員や先生によって喧嘩は止められており、二人共、職員室に連れて行かれるようです。


「二人はどうして、喧嘩になったのでしょうね」

「わからない。気持ちだけはありがたいと思うが、それ以外については迷惑なことは確かだな」


 アデル様はそう言って、ため息を吐きました。

 気持ちが有り難いと思わないといけないのは、自分がいつか上に立つ人間なので、どんな気持ちも受け止めないといけないからなのでしょうね。となると、侯爵夫人になる私も、こんな人たちもいるのだと納得するしかないのでしょうか。

 女性を不快にさせないようにするのが紳士なのかもしれませんが、押し付けられている気持ちまで有り難いと思わなければならないのは大変ですね。


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