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3   知ってもらおうと思っただけなんです!

 七歳になった私は期末テストで特別クラス行きの権利を獲得しただけでなく、お姉様よりも一つ上の学年に進級が決まりました。ただ、一つ問題なのが、その学年には婚約者のエイン様がいるということです。


「へぇ。すごい! 君は僕の学年で勉強をするんだね! もしかしたら、同じクラスになるかもしれない。その時はよろしくね!」


 三つ年上の婚約者、金髪碧眼の可愛らしい顔立ちのエイン・フロットル様は、クラス分けが張り出されている掲示板の前でそう言いました。でも、どれだけ探しても、エイン様の名前は特別クラスにはありません。


「あれ、おかしいな」

「違うクラスのようですわね。では、失礼いたします」


 まだ諦められないのか、エイン様はその場で立ち止まって掲示板を見つめ続けています。私は、そんな彼をその場に残して、自分の教室へと向かったのでした。


 私の身に起きている出来事は、今までの人生では初めてのことばかりです。

 それなのに、テストの内容は毎回変わっていませんので、勉強をし直せばすぐに思い出せました。

 飛び級をするためのテストは初めてでしたが、ほとんどが見覚えのある質問ばかりでしたので、難なくクリアできたのです。

 ズルをしているようで他の方に申し訳ない気もしますが、特別クラスは定員制ではなく、全教科90点以上が取れれば特別クラスに入れます。ですから、他の方に迷惑をかけることはなさそうですので良しとしましょう。

 十歳児クラスの特別クラスは私含めて女子生徒が四人、男子生徒が十人です。他のクラスが三十人平均ですから、かなり少ないです。

 教室の大きさや机の数は他のクラスと同じですから、空いている席が目立ちますね。

 出席番号順で座るようになっており、自分の席で教室内を見回してみると、男子生徒十人の中に学園長の孫であるアデルバート様がいました。


「アデルバート様って黙っていれば素敵よね」

「あの顔で性格が良ければ、わたくしも婚約者に立候補しましたのにぃ!」


 二人の女子生徒が窓際の席で話をしている声が聞こえてきました。

 教室の出入り口に近い、一番前の席に座っているアデルバート様に目を向けると、不機嫌そうな顔をして、黒板を睨みつけています。 

 噂をしている二人の声が聞こえたのかもしれません。

 アデルバート様は侯爵家の嫡男で、この学園の創始者のひ孫に当たります。黒髪に赤い瞳を持つ目付きの悪い美少年で、近寄りがたい雰囲気を醸し出しています。

 アデルバート様とは、今までの人生で深くかかわったことはありません。

 ……そういえば、アデルバート様は時間が巻き戻る前も含めて、毎回何らかの形で若い内に亡くなっていることを思い出しました。

記憶を探ってみますと、アデルバート様は十歳前後で亡くなっていたことが多いような気がします。

死因の全てを思い出して助けたほうが良いのでしょうか。今までは積極的に動いていませんでしたが、命がかかわっていますし、やらなかったことをやるべきですよね。


「あの……、えっと」


 担任の先生が来るまでの時間、あれこれ考えていると、前の席の女子生徒が話しかけてきました。このオドオドしている話し方は、昔の私と同じです。ここは大人の余裕を持って、こちらから挨拶をします。


「ごきげんよう。アンナ・ディストリーと申します」

「ご……、ごきげんよう。ニーニャ・エルトロフです」

 

 エルトロフ家は確か、子爵家だったと記憶しています。

 赤色のリボンタイをしたエルトロフ子爵令嬢は頬にそばかすがあり、垂れ目がちの目に青い瞳を持つチャーミングな顔立ちの女の子です。


「一年間、よろしくお願いいたしますね」

「よ、よろしくお願いします!」

 

 笑顔で挨拶をすると、エルトロフ子爵令嬢はペコペコと頭を下げました。そして、なぜか申し訳無さそうな顔をして私に尋ねます。


「あ……、あなたは、わ、私よりも三つ年下なんですよね」

「はい。まだ、七歳ですので至らないところもあるかと思いますが、よろしくお願いいたします」

「い……いたらない?」

 

 難しい言葉を使ってしまったようです。もう少し子供らしい発言をすることにします。


「えっと! あの! この学年で勉強することは初めてで知り合いがいませんので、ぜひともよろしくお願いいたしますっ!」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 早速、お友達ができそうで良かったです。そう思って安堵した時、先ほどの女子二人組が話しかけてきました。


「ディストリーさん、どれくらいお金を積んで、このクラスに入ってきたんですか?」

「ちょっとやめなさいよ。そんなことを聞いたって、本人がわかるわけがないじゃない」


 クスクス笑いながら話しかけてくる女子生徒たちの相手をするか迷います。ここは子どもなら言い返すところなのでしょうか、それとも泣くべきなのかわからないです。

 でも、言い返されるという経験も、これからの彼女たちの将来のためにもなりますよね。

そう考えた私は、意地悪なことを言ってきた女子生徒たちに優しく話しかけます。


「私はテストを受けて、特別クラスに入ることになったんです。このクラスは実力がなくても、お金を積んで入ることのできるクラスだと言うのでしたら、あなたのご両親に金額をお聞きになれば良いと思いますが」

「な、なんですって⁉」

「だって、そうでしょう? 学園に入るにはお金を積めば良いという話は聞いていますが、特別クラスに入るには実力がないと入れないとしか聞いていません」

「それがどうしたのよ!」

「特別クラスもお金を積めば入れるという話を知っているということは、あなた方がそうだからではないのですか? それなら、ご両親が払ったお金を聞けば良いだけです」


 言い終えた瞬間、クラス中が静まり返っていることに気が付きました。しかも、周りの視線は私たちに集中しているようです。

 

 言い過ぎたのでしょうか。

 

 二人の女子生徒は耳まで真っ赤にして、目には涙まで浮かべています。


 やっぱり言い過ぎたようですね。


「違う……、違うわ!」


 一人の女子生徒がヒステリックに叫ぶと、自分の席に戻っていき、しくしくと泣き始めました。


 そ、そんな! そこまで酷いことを言いましたかね?


 私としては社会の厳しさというものを知ってもらおうと思っただけなんです!


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