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【書籍発売中】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら  作者: 風見ゆうみ


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35  助けません

「私があなたを助けるわけがないでしょう」


 言葉を区切り、お父様たちに体を向けます。


「お父様、お母様、ディストリー夫妻と話をすることはもうありません。私とアデルバート様は別の場所で待っていても良いですか?」

「もちろんよ。本当にごめんなさい」


 お母様は本当に後悔しているようで、まだ涙目のままです。私は、自分の言いたいことを言える機会をもらえて良かったんですけどね。

 呆然としているディストリー夫妻に、笑顔で手を振って別れを告げます。


「では、さようなら。お元気で」

「ま、待ってくれ! そんな冷たいことを言わないでくれ!」


 背を向けた私でしたが、聞き捨てならない言葉だったので、足を止めて振り返りました。


「冷たい? ……そうですね。あなた方の血を引いているのですからそうなのでしょう。私は冷たいですから、あなた方を助けません」


 にこりと微笑んでみせると、今度こそ、私は部屋から出ていきました。


「悪かった! 謝るから許してくれ!」

「アンナ! ごめんなさい! あの時は本当にどうかしていたわ!」


 部屋から出ても二人の叫び声が聞こえてきました。

 男児が生まれなかったからショックを受けていたと言いたいのでしょうけれど、それは虐待をしても良いという理由にはなりません。


「大丈夫か?」

「はい!」


 尋ねてきたアデルバート様に笑顔で元気に頷くと、アデルバート様は優しい笑みを浮かべたあと、すぐに難しい顔になりました。

「ミルーナ嬢の姿が見えないが、一体、どうしているんだろうな」

「……私もそれは気になっていました」


 私が来ているとわかれば、すぐに現れそうなものです。それなのに、現れないということは、この屋敷にはいないということなのでしょうか。


 確認してみたところ、ミルーナ様の姿が見えなかったのは、すでに彼女はロウト伯爵の屋敷に移っていたからでした。彼女が平民になったというのに、ロウト伯爵令息は彼女との婚約を破棄しなかったのです。それどころか、学園に通うお金も出してあげることになっていました。

 なぜ、ロウト伯爵がそれを許したのかはわかりません。私たちの知らない何かがあるのかもしれません。

 さすがのミルーナ様も今回の件は精神的なダメージが大きかったようで、私と食堂ですれ違うことがあっても、昔のように挑発的な態度を取ることはありませんでした。

 ヴィーチは相変わらず、私を敵視していましたが、すれ違いざまに睨みつけてくるだけで、こちらが睨み返すと舌打ちをして何も言わずに去っていくだけです。

 ミルーナ様のことですから、また私への憎しみが再燃することがあっても、おかしくありません。警戒しながらも学園生活を楽しんでいる内に、あっという間に最終学年になりました。

 アデルバート様は十八歳に、私は十五歳になる年です。

 ディストリー夫妻は離婚し、エイブリーさんは実家に戻りましたが、彼女のしたことは家族には知れ渡っているため、現在はメイドとして置いてもらっているそうです。

 ディストリーさんは平民暮らしをしていましたが、贅沢な暮らしが忘れられず、手持ちのお金を全て使い切ってしまうと、裏の貸金業者にお金を借りました。その後は行方不明になっています。


 ニーニャとエイン様の交際は順調で、ミルーナ様がエイン様に絡むこともありませんでした。

 ミルーナ様が大人しくなりましたが、今度はミドルレイ子爵令嬢が動き出したのです。ミドルレイ子爵令嬢は食堂でアデルバート様を待ち受けては、一緒に食事をとろうとしました。ですが、アデルバート様がミドルレイ子爵令嬢に心を許すわけがありません。

 毎度、そっけない態度で対応していましたが、ミドルレイ子爵令嬢はそんなことを気にする様子は一切ありませんでした。現在のアデルバート様は食堂で食事をするのをやめて、友人たちと食事の場所を毎日、転々としています。友人たちも特に食堂で食べなければならないわけでもないので、自らアデルバート様に付き合って、毎日一緒に食べているようです。

 しばらくの間、ミドルレイ子爵令嬢はアデルバート様を探し回っていたようですが、毎日、場所が変わるので、とうとう諦めて、なぜか、私と一緒に食事をしようとし始めました。


「ご一緒させていただいてもよろしいですかぁ?」


 食事がのったトレイを手に持ち、間延びした声で話しかけてきたかと思うと、ピンク色の瞳に垂れ目気味のミドルレイ子爵令嬢は、私たちが返事をする前に空いている席に座ったのでした。

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