31 どうして、俺とアンナなんだ? (アデルバート視点)
今日は学園を休んで、父上の仕事に付いていっていた。俺は今まで社交場に顔を出していなかったから、人脈がない。アンナはまだデビュタントを迎えていないから、彼女を社交場に連れていけない。一人で行けばいいんだが、女性に狙われる可能性もあるから目立たないほうが良いし、まだ、学生なので無理に行かなくても良いと、父上から言われた。その代わり、仕事の関係で顔を合わせていくことになったのだ。
だから、今日は取引相手の貴族の屋敷に来ていた。
「どうして、俺とアンナなんだ?」
先方との挨拶を終えて軽く雑談をしたあと、込み入った話をするから外で待っているようにと言われた。屋敷内をうろつくわけにはいかないので、案内されたガゼボで一人にしてもらってから呟いた。
今のところ、何度も生き死にを繰り返しているのは俺とアンナしか確認できていない。アンナも俺もお互いにしか話をしていないから、巻き戻りの話を知っている人間がいれば、その人間が巻き戻りに関わっている可能性が高い。
何か理由があるから、俺とアンナだけが巻き戻っているのだとして、それはどういう理由なのか。
俺とアンナの共通点は特に思い浮かばない。あと気になるのは、俺はとりあえず、生き延びられた可能性が高そうだが、アンナはまだだ。彼女が十九歳になるまでは気が抜けない。
父上と母上に巻き戻りの話はしていないが、アンナを狙う人間がいるとだけ伝えると、アンナを守るためなら、多少、乱暴なことをしても良いと言われている。それは相手が女性であってもだ。
アンナがあんなに強くなっていたことには驚いた。でも、限界はある。彼女にできないことを俺がやって、俺なりに彼女を守ろう。
そう決意を新たにした次の日の昼休み。食堂に行くと、ミルーナ嬢が声をかけてきた。
「あの、アデルバート様。アンナのことでお話ししたいことがあるんです」
「俺はない」
「……え?」
ミルーナ嬢はきょとんとした顔をして俺を見つめた。
「俺はあんたとアンナの話はしたくないって言ったんだ」
「え、あ、でも、とても大事なことで」
「大事なことなら、尚更、アンナの口から聞く」
呆然とした表情をしているミルーナ嬢をそのままにして、俺は待ってくれていた友人たちと共に歩き出した。




