30 関係ありません
ロッサム様の件はローンノウル家が対応するから気にしなくて良いとアデルバート様から言われました。どうするつもりなのか気にはなりましたが、次の日から、シェラルが元気になったので、大人にお任せすることにしました。
それからしばらくは平穏な日々が続きました。ロッサム様はあの日から姿を現さないままです。長い間、姿が見えないためシェラルに確認すると『大丈夫』という答えだけ返ってきました。ロッサム様は今年で学園を卒業ですのに出席しなくて大丈夫かと心配にはなりますが、シェラルが大丈夫ということは大丈夫なのでしょう。
ディストリー伯爵家も現在は大人しいですし、新しい両親とも上手くやれています。今度こそ! 今度こそは、ミルーナ様に解放されて、素敵な人生を送ることができるのではないかと期待に胸を膨らませた頃、食堂でロウト伯爵令息に声をかけられました。
「アンナ、久しぶりだね」
「……お久しぶりです。お元気そうで何よりですわ」
今日はアデルバート様は学園をお休みしています。今まで声をかけてこなかったのに、今日に限って話しかけてくるなんて、この機会を狙っていたかのようなタイミングです。警戒しながら挨拶を返すと、ロウト伯爵令息は爽やかな笑顔を見せます。
「ありがとう。アンナも元気そうで良かったよ」
あなたの婚約者に絡まれないから健康なんです。……なんて、正直に口に出すわけにもいきませんので、とりあえず何も言わずに微笑んでおきました。このまま、去っていってくれるかと思いきや、動く気配がないのでミルルンが尋ねます。
「あの、アンナに何か御用でしょうか?」
「うん。実は、ミルーナのことで相談にのってほしいことがあるんだ」
尋ねられたロウト伯爵令息は困ったような顔をして頷きました。
申し訳ないですが、ミルーナ様のことで相談にのれることなんてありません。
「申し訳ございませんが、私はミルーナ様に暴力をふるわれていたんです。そんな人間がミルーナ様のことでお役に立てるとは思えません。他を当たってくださいませ」
「そんな冷たいことを言わないでくれよ。ほら、ミルーナに関係のない女性に話しかけると、婚約者がいるのに他の女性に話しかけているなんて変な噂が立つかもしれないだろう?」
「それは、私も同じことなのですが」
「え?」
ロウト伯爵令息は驚いた顔をして、私を見つめました。
「婚約者でもない男性と、こうやって話をしていましたら、何も知らない方はどう思いますでしょうか。それから、私はもうミルーナ様とは関係ありません。ですので、ロウト伯爵令息も誤解される可能性がありますよ」
「……そうか」
ロウト伯爵令息は納得したように頷くと苦笑します。
「ごめんね。ここ最近、ミルーナの元気がないから、少しでも元気になってほしくてさ」
「……そういうことですか」
私が不幸になれば、ミルーナ様は一発で元気になりますものね。
「期待にお応えすることはできません」
「そうか、わかった」
ロウト伯爵令息はそのまま立ち去るのかと思いましたが、笑みを消して話し続けます。
「忠告しておくけど、ミルーナの君への執念はすごいよ。それから……」
言葉の続きを静かに待ちましたが、ロウト伯爵令息は「いや、なんでもない」と言って去っていったのでした。
「それから、のあとに何を言おうとしたのかしら」
「わかりません。聞いたほうが良いでしょうか」
「わからないわ。でも、気になるならアデルバート様も一緒にいる時のほうが良いと思う」
「そうですね」
ミルルンとシェラルの言葉に頷き、明日になりますが、アデルバート様に相談することにしたのでした。




