1 楽しく生きていくことにします!
「もう無理です!」
屋根裏にある殺風景な部屋の中で、私は投げやりになって叫びました。
私の名前はアンナ・ディストリー。伯爵家の次女として生を受け、享年十八歳。現在、五歳です。
その都度、理由が変わるのですが、十八歳の時に夫と実の姉に裏切られて命を落とし、何度も過去に戻っては殺されるという人生を繰り返しています。
私にはミル―ナという姉がいますが、跡継ぎにするには男の子が必要だったため、両親は二人目の子供を作りました。ですが、私という女の子が生まれたため、両親は私をいらない子だとして、屋根裏部屋に閉じ込めたのです。
屋根裏部屋と屋敷の三階の廊下には大人用の梯子がかけられており、廊下には兵士が見張っていて、私が屋根裏を出ることができるのは、お手洗いと入浴の時だけです。しかも、時間が決まっているので、お腹を壊した時はかなり辛いです。
「アンナ様! どうかされましたか?」
今の声は、下で見張りをしている兵士のものです。
仕事とはいえ、屋根裏に子どもが閉じ込められているのを認めるだなんて、人としてどうかと思いますが、彼らに情を訴えても何の意味もありません。ここは素直に謝るのが一番です。
「申し訳ございません! 何もありません」
大きな声で答えると、兵士はすんなりと納得してくれたようでした。
私が暮らしている屋根裏部屋にはベッドに書き物机と大きな姿見など、必要最低限のものしかなく、本棚も一応ありますが、一度目の人生の私は本を与えてもらっていませんし、文字も教えてもらっていません。
ですから、一度の人生の時は本が欲しいだなんて一度も思ったことはありませんでした。でも、文字が読める今となっては、この本棚に何か本を置きたいものです。
姿見に映る私は紺色の艶のない髪に髪と同じ色の瞳。食事をしっかり与えられていないせいか痩せ細っています。
「アンナ! 静かにしていなさいと言ったでしょう!」
納得してくれたと思っていたのですが、どうやら兵士が言いつけたようです。お母様の声と共に梯子を登ってくる音が聞こえました。
お母様は私を嫌っており、お父様は私のことなど無関心で、最初からいないものだと思われています。両親の影響もあり、お姉様も私を嫌っています。私がいなければ、私に与えられているものが全て自分のものになると思い込んでいるからです。
「まったく、あなたって子は!」
お母様は屋根裏部屋にやって来ると、持っていた虫を叩いて殺す道具で、私の頬を叩きました。
こんなことをされるのは慣れっこですと言いたいところですが、痛いものは痛いです。これ以上、叩かれたくはありません。
「申し訳ございません」
頬を押さえて謝ると、お母様は今度は反対側の頬を叩いて叫びます。
「放り出されたくなければ、大人しくしていなさいと言ったでしょう! 屋根裏部屋に住まわせてもらっているだけでも有り難いと思いなさい!」
お母様はそう言うと、とりあえずは満足したのか屋根裏部屋から出ていきました。
お姉様と同じように世間からは美人だと言われているお母様は、性格も外見も大人になったお姉様にそっくりです。お母様を見るたびに、嫌なことしか思い出せません。
何とか仲良くして運命を変えようと頑張りましたが、家族は私が生まれたこと自体が気に食わないのですから、何度やり直しても仲良くなるなんて無理だということに気づきました。
それならもう、媚びることはやめて開き直って生きていくほうが良いですよね!
どうせ死ぬんですから、それまでの人生を楽しく生きたほうが良いですもの!
そう考えた私は、新たな人生は今までやらなかったやり方で生きていくことにしたのでした。