11 やめておくことにします
アデルバート様の表情が暗くなったので尋ねます。
「やはり、アデルバート様も不安になっているのですか?」
「そりゃあ当たり前だろ。残念ながら、俺はアンナみたいに開き直れていない」
「私は十八歳まで生きていますし、心の成長も一応はできていますからね」
アデルバート様の精神はまだ、子どものままなのでしょう。
苦笑してから、明るい話題を振ってみます。
「とりあえず、十歳の壁を乗り越えられそうですし一安心ですね」
「十一歳になるまで油断はできないけどな。あと、十一歳になったら、初めて起こる出来事しかないから不安だ」
「そう言われてみればそうですね。今までのアデルバート様は十一歳になったことがありません。ということは、私にもこれからのことがわかりませんものね」
私の場合は、お姉様から逃れるか、エイン様と結婚しなければ助かる可能性が高いですが、アデルバート様の場合は、事故の時もありますので、どういう理由で死に至るのかわからないんですよね。
「そういえば、ミルーナ嬢はフロットル伯爵令息と婚約する前に婚約者はいなかったのか?」
「ロウト伯爵家の長男のシャス様という婚約者がいました」
「相手はすんなり婚約の解消をしてくれたのか?」
「わかりません。エイン様と婚約できたということは、上手く解消できたのだろうと思い込んでいましたので、揉めたかどうかは調べていません」
「……ロウト伯爵家か。これといって気になる話は聞いたことはないな」
考え込むアデルバート様に同意します。
「あまり、お話したことはありませんが、悪い人ではないように思えました。なんと言いますか、優しそうなお兄さん、という印象を受けましたね」
ロウト伯爵令息はお姉様と同い年です。同じ学園に通っているので、たまに食堂で見かけることがあります。爽やかな学級委員長といった感じで、いつも人に囲まれていました。
「アンナの死に関わっていると思われる人物で、現在時点でかかわりがないのは、ロウト伯爵令息だけか?」
「記憶している限りではそうです」
「家に帰って、父や母にロウト伯爵令息のことで何か変な噂がないか確認してみる」
「ありがとうございます」
社交場やお茶会などは、人の噂には花が咲きますし、何か変わった話があれば話題に上がっていることでしょう。
「私もお姉様に聞いてみたほうが良いですか?」
「嫌な思いをするだけだろうからやめとけ」
「そう言われればそうですね。やめておくことにします」
話をしていると、担任であるシモン先生がやって来ました。
最後に教室を出る人が職員室に鍵を返しに行くのですが、今の時間になっても鍵が職員室に返ってこないので、気になってやって来たとのことです。
お姉様がエイン様を連れてやって来た話をすると、シモン先生は手を合わせて謝ります。
「ごめんなさいね。エインくんには他のクラスに行くことは悪いことではないけど、あなたには婚約者がいるんだから、婚約者を大事にしなさいと言ったのよ。あなたのお姉さんには気に食わないことだったのね」
「先生は悪くありません。お姉様は私の思う通りになることが嫌なんです。どんな言い方をしても怒るだけです」
「力になれなくてごめんなさい」
あまり、強く言うと『うちの子を叱るな!』なんて文句を言ってくる親もいると聞いています。ですから、先生もキツく言えなかったのは理解できます。
「先生、本当に気にしないでください。それよりも、先生に苦情がいったら申し訳ございません」
「そのことは気にしなくていい」
アデルバート様は私にそう言ったあと、先生に話しかけます。
「シモン先生、今回の件は家に帰ったら学園長に話をしておきます。アンナの家やフロットル伯爵家から苦情が来ても心配しないでください」
「……ありがとう。生徒に心配してもらうなんて情けない先生よね」
「そんなことはありません!」
表情を曇らせた先生を元気づけたあと、アデルバート様との話の途中ではありましたが下校することにしたのでした。




