プロローグ
「君は人として最悪だ。そんな人を妻にしておきたくない」
とある日の深夜、自室で目の前にいる男性からそう言われた時は『またか』と思いました。
だって仕方ないじゃないですか。この言葉を聞くのはもう10回目なんです。
私の夫になった伯爵令息のエイン様は結婚の日程が具体的に決まるまでは優しい人で、口には出しませんでしたが、私は彼に恋愛感情を持っていました。
でも、もう、愛情なんてありません。
エイン様は妻の私の言葉ではなく、隣で寄り添っている、私のお姉様の言葉を信じているからです。
「私が何をしたと言うんですか」
「ロウト伯爵夫人から聞いたよ。君は学生時代、自分の成績が悪いことを誤魔化すために、ロウト伯爵夫人の勉強の邪魔をしていたんだろう?」
ロウト伯爵夫人というのは、お姉様のことです。お姉様は勉強が得意ではありませんでした。だから、成績の悪さを勉強できなかったという理由にしたいみたいです。
「悪いけど、僕たちの幸せのために君には消えてもらう」
「アンナ、わたしを恨まないでよね。悪いのは性格が悪いあなたなんだから!」
私の二つ年上の姉、ミルーナは世間から美人だと言われています。ピンク色のストレートの髪に碧色の瞳は綺麗だと言えます。整った顔立ちではありますが、私にとっては美人というよりも冷徹に見える女性という印象しかありません。
……そういえば、お姉様のセリフも毎回かわり映えしませんね。
私は大きなため息を吐いて言います。
「もう、聞き飽きました」
「聞き飽きた? 何を言っているの?」
「お姉様には夫がいますよね? いつから、二人は不倫関係にあったのですか」
「不倫なんかしていない!」
エイン様が声を荒らげると、お姉様が私に近づき、耳元で囁きます。
「エイン様と仲良くなるのは、あなたが死んだあとなの。世間は不倫だとは思わないわ」
お姉様と彼女の旦那様であるロウト伯爵は上手くいっているはずです。それなのに、お姉様は私を殺すためだけに、エイン様と仲良くなったのですね。
「わたしの顔色を窺って怯えているあなたの姿は、何も知らない人からすれば、まるで悪いことをしている人よ」
「……私は、お姉様と仲良くしたかったのです」
そうすれば、殺されないと思ったから。
お姉様は私が生まれてこなければ、私が持っている全てのものが自分のものになったと思い込んでいます。
だから、私の命も奪っても良いと思っているのです。
「ミルーナ様の心を乱す女よ、死ね!」
ちょうど良いタイミングで、お姉様に心酔している騎士が部屋に入ってきて叫んだ瞬間、私は10回目の人生が終わったことを悟ったのでした。
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※「ざまぁキャラ」の一部の一人称はわざと「わたし」にしています。