インフルエンザ:訣
いままでのあらすじ:
千明は王騎による過去の悔しさを乗り越えて強くなった、だが王騎のふとした発言が思いがけない感情を爆発させる。その結果、配信中に感情が崩れる。彼女は鏡の前で自分を見つめ、迷いと孤独を感じながら助けを求める。
日の学校はいつもより大きく見えた。
時のスピードスターが時のスターに馬鹿にされてたとなれば大事だ。
望はいつも通り肩を叩く
「おはよ!千明!ちょっとこっちに来て来て~」
私は最早死んだ魚のような目で言う
「おはよう…望…どこ連れてくの…」
望は肩に手を置いたまま誰も居ない用具室まで自分を引っ張る。
「ねぇ…本当はチーちゃんなんでしょ?昨日の。」
私は不意をつかれた。
「いや、違うけど…同名の人なんてほら…いっぱいいるし…」
望は私の頬を両手で強く叩く、痛かった。いつもは彼女が絶対しない暴力。
「ねぇ…チーちゃん。私チーちゃんといつもいるけどそこまで馬鹿に見える?陽キャは馬鹿って事?」
私は何も言い返せない。望はこう続ける
「実は知ってたよ。最初から知ってた。私も見てたもん。」
私は最早何がなんだか分からなくなっていた。
「えっ…どこから…?」
望は躊躇う事無く言う。
「チーちゃんという声だけの配信者が生まれてから。」
私の中では何がなんだか分からない。どこから?誰だったの?そんな感情を無視するかの様に望は今さっきの発言が無かったかの様にこう話し始めた
「ま!チーちゃんはチーちゃん!私の友達!今日はパフェ奢ってね~?勉強代ね!」
いつも通りフラッと何処かへ望は消えてしまった。
「分からない。望がいつから見てたのか。」
学校中は大騒ぎだった
【VTuber王騎はチーちゃんの生みの親】やら【王騎事務所責任問題】やら【王騎:責任を取り引退か?】等の記事を皆が見ていた。
千明という存在は記事の話題でより小さく見えた。
放課後、望とパフェの約束をしていたのを忘れていた。憂鬱だった。行きたくない。
望は相変わらずいつも通りの調子だった。私達は500円のパフェを食べた。 甘く何故か塩っぱい。変なパフェだった。
望はいつも通りこう言った。
「またね!千明!」
私は手を振らず
「バイバイ…」とだけ告げた。
帰るとVTuberであるチーちゃんとしての責任が待っている。家に返りたくない。でも帰るしかない。
母親はいつも通りこう言った。
「千明~晩ごはん出来てるわよ」
私は食べたくなかった。何なら今さっきのパフェも吐きたい位だった。
「ごめん。今日はいいや。」
と2階に上がった。
スパチャで買ったパソコンが今日は安っぽく見えた。50万円もしたのに。
SNSは大荒れだった。 王騎を責め立てる声。チーちゃんを責め立てる声。双方がぶつかっていた。
「私がやった事なの?誰が悪いの?」
真っ暗なPCにそう呟くチーちゃんはいつものチーちゃんではなかった。普通に居る千明というただの高校生だった。
「でも…今私はどうすれば…助けて…」
でも配信はしなければいけない。時のスピードスター。VTuberチーちゃんとして。
ふと望の学校での発言を思い出した。
「チーちゃんという声だけの配信者が生まれてから。」
私は即座にPCを付ける。大きく深呼吸する。配信開始を押す。
「みなさん。こんにちは。チーちゃんです。今日は大切なお知らせがあります。」
【スパチャ枠がないやん!どうしてくれんのこれ!】
【とりあえず謝れや。】
【なんか違うなー】
【ふむ…どう出るでしょう…】
「私、チーちゃんは…」
【どうなるんだ?】
【お?引退か?】
【謝れや。】
「チーちゃん。いえ私は今までとんだ勘違いをしていました。最初はただの練習動画を出している投稿者でした。」
【そうだね×1】
【うん】
【とりあえずみんな餅つけ】
「皆さんの応援により、私、チーちゃん、という声だけの存在が生まれました。」
【おう】
【謝れや】
【引退か?】
「ですが私は目の前を見るばかり大切な事を見逃していました。それは見ている皆さんです。」
【応援してるぞ!】
【↑いや無理だろ】
【ふむ…そう来ましたか…】
【ありがとう】
「私は最初、王騎さんに馬鹿にされてから動画投稿を始めました。ですが今までのみなさんの指示や励ましによって支えられていた事を忘れていました。」
「そんな私を応援下さっていたのにも関わらず、あの様な場でそぐわない発言してしまい大変申し訳ありませんでした…!」
【言えたじゃねえかw】
【ええんやで。(ニッコリ)】
【おっぱい】
【顔出しあくしろ】
「私を許さないのであれば違反報告なり、チャンネル解除なりSNSで叩くなり何でもして下さい。」
「ただ一つ言える事は」
【お?】
【ふむ…】
【なんだ?言ってみろ】
「私、チーちゃんはただの冴えない一般人で学生の身分です。身分を盾にするとは言いません」
「こんな私でも、もう一度チャンスを下さいませんでしょうか!」
「ドンッ!」
陰キャの癖が出た。VTuberの配信なのに頭を下げた余り大きい音が鳴ってしまった。
「今日以降配信は半年休止します!その間普通の学生に戻って自分というあり方を学んできます!」
「それでも…それでももし変わらないというのであれば…変わらないのであれば!」
【何だ今の音?】
【もしかして頭ぶつけた?】
【↑いや台パンじゃね?】
【俺なら分かるよ。あれは頭だ。よく仕事でやってる。】
【↑クソワロタ】
「私に指示して下さい!もう一度最初の頃の様に!私、チーちゃんが声を出したあの時の様に!」
【あれ?目から汗が…】
【ふむ…よく言えました…】
【ティッシュ足りないんだけど。】
【俺はシャツで拭いてるぞ】
【↑きったね】
「この場を借りてお詫び申し上げます!この度は…大変申し訳ございませんでした…!」
【配信は終了しました】♪♪
マイクをミュートにする。私は天を仰ぐ。
あぁ、これで良いんだ。私に出来ることはやった。ただの冴えない陰キャの千明だとこれが精一杯。今までがおかしかったんだ。
ベッドに行こう。今までの疲れが降ってきたみたいに体が重い…
翌日、学校は以前より静かだった。それもそうだろう。ただの個人VTuberが謝罪をした所で限界がある。前回あそこまで話題が出たのは王騎が一緒だったからだ。
あぁ。望がまた来る。どうせまた配信は見てるのだろう。
「千明~ちょっとちょっと…」
私を物陰に連れてく、また説教されるのであろう。
「よく言えたね。」
私はその言葉で全ての荷が降りた。少なくともVTuber、チーちゃんの味方は1人居るという事に。
落ちぶれたVTuberチーちゃんを認めてくれる人が居る事に。
私は泣いた。望の制服の胸元をビチョビチョにする位泣いた。
望は相変わらずこう言う。
「やだーやめてよー!私がハンカチ持ってなかったみたいじゃんー!」
私はふと思った。望は誰だったのだろう。
少なくとも望の口調の様なチャットはあまり、いや殆ど無かった。
「望」
望は「ん?」と返した
私は言おうか迷ったが望にこう言った。
「望って…一体チャットの一体…誰だったの…?」
望はちょっと考えた後
「そうだねーんーっとじゃーパフェ奢ってくれたらヒントあげる」
私は首をブンブン縦に振った。
だが望は時間をかけた。その際一切何も言わず最終的に手だけ振って立ち去った。
あぁ、そういうことか。私は納得した。望が珍しく考えたなりの無言の意味。
結局 望は千明ではなくチーちゃんという1人のVTuberをずっと応援してくれていたのだ。
放課後 望といつも通り500円のパフェを食べた。
その時の味は今まで食べたどれよりとても美味しかった。
望はいつも通り
「んじゃ千明ーまた明日ねー!」という
私は
「うん!そっちもね!」と言い返す。
家に帰り母親が出迎える
「お母さんただいま。はいこれ。」
お母さんは持っていた封筒の中身を見て驚いた。20万円が入っている封筒だったのだ。
「千明!?これどこで取ってきたの?まさか本当に盗ってきたとか言わないわよね!?」
私は自信を持って答える。
「ううん。お母さんに最初貰った2万円覚えてる?アレ、彼氏に振られたからそれを軸に色々してたんだ。」
お母さんは何かを察したかのように私に抱きつきこう呟く。
「あぁ千明。私の可愛い子、あの時の約束を忘れなかったのね。久々にパパも海外から帰って来てるから。今日はこれでハンバーガーでも買わない?」
私はこう言う。
「うん!じゃあ私チーズバーガーのセットが良いかな!」
インフルエンザ いかがでしょうか?
希・翔・顛・訣(起承転結)を意識して作りました。
だがまだ彼女には心残りがあり、最後まで見てくださった方にも心残りがあるでしょう。
今までのショートと今回までの話は皆さんの想像に任せた感じでした。
ですがいつも自分を応援してくれているユーザーが居て
そのユーザーへエピローグ【解】を今回特別に作りました。
そのユーザーへの感謝のお礼として特別に執筆した【解】によって
この作品から初めて見てくれた方もスッキリしてくれると嬉しいです。