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side.女性

「あなたは完璧なさやちゃんになってくれた。感謝しかないわ。ありがとう」


女性は上品に微笑む。

目の前の少女は、たった今死んだ。


「さぁ、さやちゃん。お着替えをして、永遠を手に入れましょう?」


女性はさやを背負い、開けてはならないと言ったドアを開けた。

柩の隣にさやを寝かせ、服を脱がせる。

新しい服は、柩の中の少女と同じ白いワンピースだ。


「……あぁ、素敵だわ」


女性はとても嬉しそうに微笑んだ。


「さやちゃんと同じ体型で髪型も一緒。少し高めの低い声も一緒。やっと見つけられた時、私は嬉しさではち切れそうだったわ」


「私の理想のさやちゃんに、やっとなってくれたのね」


女性の笑みから上品さは消えた。

まるで飢えた野獣が、何日かぶりの餌を得たような恍惚な笑みを浮かべている。


「みよちゃん、やっとさやちゃんが来てくれたのよ」


女性は柩の中の少女、みよを見つめる。


「今でも覚えているわ。みよちゃんが私だけの理想のみよちゃんになってくれたことを」


女性はうっとりとした表情で思いを馳せる。


☆。.:*・゜


さやは死んだ。

学校の屋上から飛び降りた。

普通の人なら直視出来ない程にぐちゃぐちゃになっていた。

それを知ったみよは狂ったように泣いて叫んだ。

そして掴みかかってきた。


「あなたが、あなたが、殺したんだわ!あい!!」


若かりし頃の女性……あいは笑う。

そこには上品さなんて欠片も無かった。


「姉様、悲しいのは私も一緒です。だからと言って、私を疑うのですか?」


あいの言葉に、みよは更に憎しみに狂っていく。


「姉と呼ばないでちょうだい!おこがましいわ!私には妹なんていない!弟しかいないわ!!」


「でも、さやちゃんは死にました。弟はもういないですよ」


「お前は、母さんだけではなく、さやまで殺して……どれだけ私を苦しめたら気が済むの……?」


みよの言葉に、あいは思わず笑ってしまう。


「苦しめる?さやちゃんを苦しめていたのは、姉様なのに?」


「私がさやを苦しめた…?変なことを言わないで!さやは病気だったのよ?!」


「えぇ、そうですね。さやちゃんは病気だった。姉様を好きすぎて、姉様になってしまうほどに愛してしまう病気」


「何を言っているの?」


「さやくんは、姉様を慕っていた。だけど、血の繋がりがある。それは抱いてはいけない想い。だからせめて自分への慰めのために、みよちゃんにソックリな、さやちゃんになった」


みよは口を噤んだ。

思い当たる節があったのだろう。


「私は見たわ。さやちゃんになった姿で、何度もみよちゃんの名前を呼びながら行為にふけっていたのを」


「やめて!!さやを侮辱しないで!!」


「侮辱なんかしていないわ。侮辱しているのは、姉様の方よ」


「……え?」


「さやちゃんの想いを知っているくせに、姉様は気づかないふりをした。

弟は恋愛対象には見れないし、姉様は女性しか愛せない」


あいの言葉に、みよは力が抜けたように座り込んだ。


「なんで、あなたが知っているの……?」


「私は姉様とさやちゃんのことなら、何でも知っていますよ。

私は二人のことが、大好きですから」


「……なにが、望みなの?」


「私は二人が一緒に居てくれたら、それで構わないです」


「私にも死ねと言っているの……?」


みよはあいを真っ直ぐに見つめる。

あいは狂ったように笑い、紅茶を差し出した。


「はい。私が望むように死んでください、みよちゃん」


☆。.:*・゜


あいは笑う。

嬉しそうに、狂ったように、笑う。


あいは難産だったため、あいを産んで直ぐに母親は死んだ。

それを恨んであいに辛く当たっていたのが、2つ上の双子の姉のみよ。母親への恋しさか、女性ばかりに恋慕を抱くようになっていた。

双子の弟のさやは母親が亡くなった影響か、みよにベッタリで、歪な愛を募らせて、精神的に病んでいた。

あいはそんな二人の関係が羨ましくて、羨ましくて、だんだんと愛おしく感じていった。

そして、さやが自殺してしまった時、愛しい二人を見ることが出来なくなったことに絶望をおぼえた。

絶望の底にいた時、たまたま目についた本に書いてあった死蝋化。

そこから思いついてしまったのだ。

二人を永遠に傍で見ていられる方法を。


「みよちゃんとさやちゃんは、二人でひとつなの。

片方が欠けた状態じゃ完璧とは言えないわ。

やっと、やっとよ。みよちゃんが手に入ってから、何十年も待ったわ」


「さやちゃんに似ている女の子を探すのに時間がかかってしまったわ。でもこれで、さやちゃんの望みが叶えられた。

さやちゃんはずっと、みよちゃんと結ばれたくて、血の繋がりのない女の子になりたがっていたから」


あいは満足感に浸っていた。

やっと完璧な二人を見ることが出来たことに、心底心酔していた。


「みよちゃん、さやちゃん。私の永遠になってくれて、ありがとう」


絶え間なく楽しそうな笑い声が響き渡る。


「……でも、これで終わりじゃないわよね」


あいは分かっていた。

まだ完璧ではない。

完璧になるには、もう一つ足りないことを。


「これで、私は永遠に二人を見続けることが出来る。完璧よ」


あいは二人の死体が見える位置に椅子を置き、そこへ座った。

そして、紅茶を飲み干した。



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