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おくるもの  作者: たけさん256
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神様(笑)

彼は項垂れていた。

「まぁ、僕も昔大失敗したからなぁ。だから落ち込むなよ。」

金髪の綺麗な顔をした少年が優しく宥めた。

彼の細い目が更に細くなって少しだけ笑った。

後ろに束ねた長い銀髪の頭を掻きながら弱々しい声で

「ありがとうございます。でも暫くはここで大人しくしてます・・」

彼は引き籠り宣言をした。

少年は はぁ〜 とため息を吐いた。

「バイオレット、居るかい?」

「はい、こちらに。」

そこに現れたのは紫色のサラサラ髪で目の色が青紫の白人寄りの美人だった。

「すまんが銀ちゃんがこんな感じだから少し手伝ってくれよ。」

するとバイオレットはあからさまに嫌な顔をして

「えーっ!嫌なんですけどぉ!私だって暇じゃないんですよー!」

このバイオレットは[ととのえるもの]のひとりで主に諜報活動をしている。

銀ちゃんと呼ばれる彼は[まもるもの]。

クリエーターである少年、[つくるもの]の金ちゃんが作り出した世の中全てのものを管理するのが仕事。

特に絶滅危惧種の保全が主な活動だ。

保全をしている[ととのえるもの]もいることから[まもるもの]とは連携している。

「君の仕事はレッドに引き継ぐから頼むよぉ。もちろんタダとは言わないよ。」

金ちゃんはニヤっと笑いバイオレットに手招きする。

訝しげに近づくバイオレットに金ちゃんはコソコソと耳打ちする。

段々と顔がニヤけるバイオレット。

耳打ちが終わると素敵な笑顔で

「そういう事なら乗ったわ!金ちゃん、約束だからね!」

「よろしくぅ!」

2人はハイタッチした。

「と言う訳でそこで落ち込んでる 神様 を助けてやって下さい!」

その言葉を聞いて銀ちゃんは蒼ざめていた。

「ちょ、まっ・・」

ハイタッチ組はいたずらっ子顔でニヤついている。

「おかしなあだ名付けないでくださいよぉ〜」

銀ちゃんは更に深みへと落ち込んでいくのであった。



銀ちゃんが何故落ち込んでいるかと言うと・・


それはいつもの様に絶滅危惧種の採取にこの世を訪れている時だった。

シルクロードの始まりの頃の中東での事。

その街では部族間の争いが絶えず街中で大乱闘が始まっていた。

『やれやれ、大変な所に出会した・・』

銀ちゃんは少しげんなりしながら街を後にしようとしていた。

ところが銀ちゃんの細い目に大変な光景が飛び込んできた。

大人が入り乱れて乱闘している中に小さな少女が巻き込まれていたのだ。

大人は興奮していて少女にはお構いなしだ。

大の大人に踏まれ蹴られして少女はぐったりしている。

銀ちゃんは少女を助ける為大人達に割って入る。

邪魔する者を掴んでは投げ、蹴り倒す。

その力は人のそれではない。

軽々と飛ばされていく。

銀ちゃんは少女の所に辿り着いた。

少女は虫の息だった。

薄ら開いた目で銀ちゃんを見た少女は小さな声で

「おかあさん・・」

と呟き、息を引き取った。

「白、居るかい?」

「はい。ここに。」

そこには黒い服装で髪は白髪。

片手に杖を持った青年が居た。

「急いでこの子を母親の所に!そして金ちゃんを呼んであげて!」

「了解!」

白と呼ばれていた青年はその子を抱いて霞の様に消えた。

銀ちゃんの額に血管が浮く。

怒っている。かなり怒っている。

見た目、とても穏やかな雰囲気の銀ちゃんだが実は怒らせると一番怖いのだ。

優しい人ほど怒ると怖いの典型である。

彼が右手を天に突き上げると銀ちゃんの周りを囲む様に雷が落ちた。

砕け散る石畳。

立ち昇る煙と焦げた匂い。

近くにいた者は無事ではなかった。

空は晴天。

雷が落ちる様な天候ではなかった。

あまりに唐突な事に広場で乱闘していた大人達は鎮まり返った。

「大の大人が何をしている。」

声をかけた彼の姿は異形の者だった。

銀髪は逆立ち、額には第三の目が開いている。

彼の声は耳ではなく頭に響く。

「何をしている。」

再度聞かれて我に返る者達が出始めた。

「それはコイツらがうちの部族を・・」

そこまで口にした者が目の前から消えた。

「お前、コイツらの仲間か!」

消えた者の仲間が口出しした途端そいつも消えた。

後に分かるのだが今消された者達は1年後、ボロボロの姿で戻って来たそうだ。

見た事の無い場所まで飛ばされて死ぬほど苦労して元の場所まで帰って来たそうだ。


「今、お前達の乱闘に巻き込まれて幼い少女が息を引き取った。私の腕の中でだ。」

再度静まり返る広場。

少女が巻き込まれているのは近くにいた者が目撃している。

しかし、大乱闘の最中手を出せずにいたのは確かだ。

銀ちゃんと民衆の沈黙は続く。


そこにある人物がやって来た。

親子だ。

彼の姿を見て駆け寄って来て足元に縋る。

「ありがとうございました!ありがとうございました!

貴方のおかげで娘は助かりました。私の魂を分けて無事生き返る事が出来ました。奇跡です!貴方は神様です!」

おや?

魂を分けたのは金ちゃんでは?


もしかして記憶を消して私のせいにしてる?


辺りがざわつき始めた。

死者が甦えるのを見てしまったからだ。

これはまずい。

とりあえず、異形の姿を消して平静を装う。


そして目の前のざわめく人々に語りかける。

「まず、隣の人と手を繋ぎなさい。敵味方は関係ありません。」

雷効果もあってか皆逆らわず手を繋いだ。

「温かくありませんか?人の手。」

お互い顔を見合わせて戸惑いながらも頷いている。

「皆等しく命ある生き物です。差はありません。だから仲良くして下さい。隣の人を愛して下さい。そうする事で争いはなくなります。わかりますか?」

そう語りかけた時、金ちゃんに命を救われた小さな子が彼に抱きついて来た。

彼は膝の上に乗せて頭を撫でた。

すると広場から歓声が湧き上がった。

さっきまで争っていた者同士が涙を流しながら声を上げている。

『なんか照れて来たなぁ・・』

彼は小さな子をお母さんに渡した。

「では、これからも争わず皆仲良くして下さい。」

そう語りかけてちょっと大袈裟に両手を天に向けて広げてその場から霞の様に消えて見せた。

再び広場がざわめく。

目の前の奇跡をそれぞれが語り始めた。

畏怖と賛辞と敬意。

これが後に頭を抱える原因になるとは思ってもみなかったのだ。



「いやー参った。こんな騒ぎにするつもり無かったのに・・」

銀ちゃんは頭を掻いて項垂れた。

「でも、した事は間違って無かったですよ。命を救って騒ぎを納めた訳だし。」

白さんがフォローした。

銀ちゃんは細い目を更に細くして笑った。



あれから数世紀。

あの時、銀ちゃんが言った「仲良くしなさい。」は、目を引くおかしな物語や訳のわからない予言など、人間の小賢しい知恵がプラスされ宗教となり金儲けや人心把握に利用され始めた。

同じ話が元なのにそれぞれ宗派を作り自分が元祖だと争いが始まってしまった。

争いは戦争になり多くの血が流れる事になってしまったのである。

その争いは何世紀にも渡り終わる事を知らなかった。


これが銀ちゃんを引き籠りにした原因である。











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