1話
「……はぁ、殺人事件?」
ラナは道で呼び止めた男が、話を終えるなり盛大に渋面をした。
ルーニィとボルグを連れ、帝都を脱出してしばらく、今度はまた別の二人と共に都へ戻ってきたラナは、街に入るなり騒ぎに出くわす羽目になった。
道行く人に話を聞くと、なんと城の密偵が三人、死体で見つかったというのだ。
警察力の強いこの国で、城付きの働き手を殺めるなど当然大問題だ。犯人が誰にせよ死は免れないし、国民がやったのなら家単位で粛清の対象である。
そのため無関係の国民も自然と不安がり、誰がやったものかと騒ぎが起こるものだが、疑わしい者に心当たりがある一行は、一人を除いて全員、同じ人物を睨んだ。
「ラナ殿、手が早すぎるのではござらぬか?」
「………」
「いやいや、知らないってば。わたしたち一緒にここに来たじゃない。いくらなんでもこんな早く刃傷沙汰起こさないよ」
アーニアとレン爺は揃ってラナに疑いの視線を向けたが、当人は両手を振り回して必死に否定した。
実際、一行がここに辿り着いたのは十分前だ。何をしようもない。
ラナの自己弁護に、それもそうかと二人は納得し、改めて事件の方の考察を始めた。
「まぁ、犯人がラナ殿でないにしても由々しき事態です。ワシは現場の者に状況を聞いて参りますが……ラナ殿は行かない方が良かろうな」
「……まぁ、確実に濡れ衣着せられるだろうね」
ラナは一応、前科持ちだ。諜報員を殺めたことがある以上、当然事件に紐付けられる危険性がある。
一般市民や下っ端の兵士は知らないだろうが、城の者は手配もしていることだろう。彼らの目に止まるのは避けるべきだ。
レン爺はしばらく考えたのち、主君の方を見て小さく頭を下げた。
「姫様、ワシが行っている間、ラナ殿と目立たぬ処で待っていていただきたい」
「えっ」
「はぁ?」
険悪な二人である。それが同じところで待てと言われれば思うところもあろうが、あまりにもあからさまな反応をしたのでレン爺は苦笑した。
「そんなに嫌な顔をしなくても良いではありませぬか。ラナ殿は街に不案内でしょうし、姫様を一人にするわけにもいきません、仮にもお忍びですからな。場合によっては時間もかかりますので、どうにか二人で待っていてくだされ」
それだけ言うと、老人はさっさと騒ぎの大きな方へと歩いて行ってしまった。
どうにか、と言われても、ラナは既に何もしようがない。
レン爺の言う通り街には不案内だし、兵士の目が多い所は危険なので下手に歩いていられないのだ。
正直アーニアを置いてどこかへ逃げてしまいたいが、荒くれが集う現在の帝都には危険な人間も多いことだろう。置いていった矢先に人攫いにでも遭われたらと考えると、離れるに離れがたかった。
それを言うなら、ラナも大概危険人物だったのだが。
「いやいや、大事なお姫様、いきなりこんな浮浪者に任せるんじゃないっての」
「全くですね」
アーニアは肩を竦めると、少し低い声で肯定した。
嫌味も少し含んでいたのだろうが、正論なのでラナも怒る気にはなれない。
全くもって友好的な雰囲気ではないが、一人で動きがたいのはアーニアも同じことだ。
二人はしばらくその場に立ち竦み、それぞれにどうすべきかを考えていたが、至った結論は同じだった。
揃って妙に息の合った溜息を吐くと、
「で、行く当て、あるの? おじいちゃん、特に待ち合わせとか決めないで行っちゃったけど」
「……こういう時に集合する場所は、いくつか決めてあります。手近なのは、こっち」
仕方がない、とアーニアはラナを先導し、二人で人通りのない路地の中を進んでいった。




