魔法使いは笑顔にしたい
「さぁ見ていてね」
一人の男が集まった子供達に芸を見せている。
男の名前はクルツ、赤毛と深い緑の瞳、薄汚れた白いローブが特徴だ。
「よっと……」
子供達に向けられたクルツの手から手のひらに収まる大きさの火が灯る。
「それだけ?」
「つまんないの……」
「これからだよ。よーく見ててごらん」
にやりと笑ったクルツ。
ぼそぼそと呪文を呟き手に灯った火が形を変える。
明るく橙色に輝く美しい蝶へと。
手品や仕掛けを用いた芸当ではない、本物の『魔法』だった。
「きれい……」
「いいものだろう?」
空へと舞い上がる蝶。
そしてそれはいつしか数を増やしていく。
2匹、3匹、4匹……
数えきれないほどの火の蝶、それらが一斉に子供達の周囲を舞い感動をもたらす。
「すげえ!すげえや!」
「可愛い!」
「俺もこれやりたい!」
口々にクルツへと賞賛の言葉を送る子供達。
「よし!じゃあ次はーー」
「いたぞ!!魔法使いだ!!ひっ捕らえろ!!」
次の芸を見せようとした瞬間、その場に響き渡るほどの怒声が響く。
クルツが後ろを振り向けば手に手に木の棒やら縄やらを持った男達。
魔女狩り達だ。
「魔法の使用の罪で逮捕する!」
「なんだもう来たのか。ごめんね皆、今日はここまで。また明日にしようね」
「うん!」
「待ってるよー!」
「魔法を使う気だ!逃がすな!!」
にっこり笑ったクルツが魔法を使って逃げる。
その場の誰もがそう思っていた。
だが……
「じゃあね!」
クルツがとった行動は魔法を使うでもなくただただ『走る』という選択肢だった。
「あっはっはっはっは!」
「待ちやがれ!!魔法使い!!」
高らかに笑いながら全力疾走、後ろから追いかけてくるのは殺気だった魔女狩り達、捕まってしまえば殺されるような状況だが、クルツが笑みを絶やすことは無い。
道行く街の人に手を振り、人ごみをかき分け、細い裏路地を軽快に走った。
「くそ!何処に行きやがった!?」
「見失った!あの野郎次に見つけたらその場でぶち殺してやる!」
殺気だった彼らを撒いたクルツは一体どこに行ったのであろうか?
「助かったよ、ありがとう」
「アンタみたいないい人でも追われる時代になっちまったんだなあ。悲しいもんだよ」
魔女狩り達が消えた後クルツはひょっこりと顔を出した。
……生ごみの詰まった大きな木箱から。
追手が行ったことを教えてくれたのは浮浪者の男。
「ありがとう。臭いねしかし」
付いた生ごみを払いながら浮浪者に礼を言う。
「アンタ、もうここから出て行った方がいいんじゃないか?ここに居てもいずれ殺されちまうぞ」
「それは出来ないよ。僕はここで……いやこの国でやりたいことがあるからね」
「魔女狩り連中が騒いでる『魔法使い以外は皆殺しにされる』ってやつか?」
そんなものじゃないよ、クルツは笑いながら自身の目標を話す。
「僕はね、笑顔にしたいんだ。この国の人たちをね」
多くの魔法使いが狩られ人々が互いに疑い合い密告が蔓延する時代……
そんな時代に彼は生まれた。




