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1話

 「……」


 彼はとても惨めな気分で、空き缶を置いて石畳に座っていた。

 ゴミの落ちた石畳の道、ボロボロの軍服を着た彼を見た通行人が浮かべる表情はさして変わらない。

 侮蔑、嘲笑、嫌悪…

 憐れんでくれる人間も、助けてくれる人間も居なかった。


 「…ぺっ」


 「…ご親切にどうも」


 黙って座っていただけで唾を吐きかけられ、せめてもの抵抗と言わんばかりに皮肉を言ってみる。

 彼は何日も食事をとっていない。

 仮に彼と喧嘩をしても勝てないだろう。


 「…もう、行くか」


 空を見上げるとそれは見事な曇天。

 季節は冬、恐らく雪が降るだろう。


 「今夜は冷えるな…」


 薪のストーブか強い酒でもあれば良いが…両方とも品切れだ。


 「おい。そこのお前」


 「何だい?金でもくれるのか?」


 「そんなわけないだろう。家の前におかしな兵隊崩れがいるからどかしてくれと通報が入ったんだ」


 通報…

 なるほど確かに彼が着ているのは警官の服だ。

 だがこれならまだ捕まったほうがましな生活を送れそうだ。

 彼の頭にはとあることが思い浮かんだ。


 「さっさと退け。いい…」


 「フンッ!」


 かじかんだ手を拳にして、警官を殴る。

 栄養の足りていない男の拳など警官からしてみればさほど痛くもないだろう。


 「貴様!何をする!!」


 「へへっ…悪い悪い、ムカついちまってな」


 「このっ!」


 頭に血の上った警官が警棒で全力で殴ってくる。

 

 「ぐっ…あ…」


 「貴様の!ような!兵士がいるから!いつまでたっても国が良くならないんだ!負け犬が!屑が!見ているだけで吐き気がする!!」


 容赦なく殴りかかってくる。

 人目があることなどお構いなしだ。


 (ああ…殴る奴まちがえたなあ…)


 なすすべなく、このまま最後を迎えるのだろうか…

 そう思っていた時だった。


 「止めろてめぇッ!!」


 「がふッ!?」


 誰かが警官に殴りかかって彼を助けてくれた。

 

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