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旅する元兵士さん

 降りしきる矢の雨の中を駆け抜ける武装した男達がいた。


 「止まるな走れ!」


 男達の中に後ろに控える仲間を叱咤激励しながら突撃する人間が一人。

 後ろでまとめた黒髪を振り乱し長方形のロングシールドで矢を防ぎつつ片刃の片手剣を手に先陣をきって猛進する男……

 名前をサウルと言った。

 

 「戦神よ!!我に勝利を!!」


 黒い瞳に闘志を燃やし、大地を割らんとばかりに咆哮しながら他の仲間と共に敵陣の真正面から食い破らんと突き進む。

 眼前に迫ってくるのは無数に突き立てられた壁のような槍衾と筋骨隆々の益荒男達。

 並みの兵士なら見ただけで竦みあがるような気迫を放つ敵軍に、サウル達は怯むことなく向かって行く。


 「擲弾を投げ込め!!」

 「おっしゃあああああああ!!!」


 あと少しで敵の槍が届くというところでサウルは号令をかける。

 それとほぼ同時、周囲に居た仲間が火の点いた球状の陶器、擲弾を敵陣目掛けて投げ込んだ。


 「ぎゃあああああ!?」

 「おのれ!!グァッ!!」


 陶器の中にみっちりと火薬を詰め込んである。

 そんなものに火が付いているとあらば結果は誰もが推して知るべし。

 炸裂である。

 飛び散った擲弾の破片が槍衾の後ろに控える敵に突き刺さる。

 投げ込まれた擲弾のいくつかは不発に終わったがそれでもいい。

 ただ一時視線を逸らすことができれば。


 「進め進め!命知らずの馬鹿野郎共!」


 盾を突き出しながら手にした剣を振り回しながら目についた敵を片っ端から斬って進む。

 

 「いつもながら、無茶ばっかりだな……」


 周囲の敵を蹴散らしながら、サウルはぼそりと呟いた。






 「終わったな。また派手に暴れたじゃないかサウル」

 「ああ、けどそれも今日で終わりだ」 


 戦いが終わり空は炎のような色に染まる夕暮れ、仲間が敵の死体から金目の物をはぎ取っている最中にサウルは話しかけてきた仲間にそう漏らしていた。


 「俺は兵士を辞める。擲弾歩兵も楽しかったがな」

 「なんだ臆病風に吹かれたか?お前らしくもない」

 「いや、やってみたいことがあるんだ」

 「やってみたいこと?」

 

 ああ、と少し血の付いた頬を赤らめ恥ずかしそうに話し始めるサウル。

 

 「旅がしたいんだ。色々な所を歩いて、まだ見たこともない人に出会って、食べたこともないような飯を食う」

 「それが……お前のやりたいことか?」

 「ああ、そして最終的にはどこかで永住の地を見つけたい」

 「永住ね。そこでどうする?」

 「愛しい妻と一緒に、葡萄酒でも飲みかわすさ」


 にっこりと微笑みながらまだ見たことも無い地に思いをはせる。

 仲間と別れるのは少し悲しいが……


 「さてと、兵士でも戦士でもなくなる人間に刃は必要ないな」

 

 手近にある石に目をつける。

 そして自前の剣を抜き放った。


 「役目は終わりだ。眠っててくれ、相棒」

 

 石を使い刃を引く。

 それは兵士を辞めるサウルなりのけじめのつけ方、今後の決意の表れだった。

 これから始まる彼の旅。

 はたして何が待っているのだろうか。

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