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第三話 少女は出会い、知る




「いっ…………!!この……は、私の…………、むす……………!!」

「そい…………贄……………安泰………………………っ!!!」

声が聞こえる。

おかあさんと村人の争う声が聞こえる。

ざあざあと耳障りな音の所為でちゃんと聞こえないけど、分かる。

おかあさんがぎゅっと私を抱きしめてくれている。

…………………………あれ、その後は?




恐る恐ると目を開ける。

「目、覚めたか?」

そこには紀陽が座ってこちらを見ていた。

いつのまにか寝ていたようだ。

のそのそと起き上がりしょぼしょぼする瞼を軽く指でこする。

「躰と魂がまだ不安定なようだな。じきになれると思うが」

わしゃわしゃと頭を撫でてそういう彼を見る。

彼曰く、眠くなるのは躰と魂の間に溝のようなものが出来ていてそれを埋めるためだという。

ただ、眠っている時間が短くなってきているから、溝が無くなってきているとのことだ。

「それにしてもお前の神域は居心地の良いな」

草木があり川があり、そよ風が流れてくる。

「神域は器となるモノの本質を映し出すという」

お前は優しくて温かいから、神域も心地よい。

まだぼんやりする頭で話を聞いていると草むらから音がする。

「ん?」

二人でそちらを見ると白兎がぴょんと跳ねて近づいてきた。

ふすふすと鼻を動かして、未影の周りを跳ねている。

「……………えっと」

「ああ、こいつらはお前の神域で生まれたモノたちだな」

どうすればいいのか分からず紀陽の方を見ると彼は兎を大きな片手でひょいと掴み、ぽんと未影の腕の中に兎を置いた。

「?……え、えっと」

「こいつらは危害を加えない。神域で生まれたモノはその神域の主の使役となる」

ちらっと森の方に視線を向ける彼に倣って見るとそこには動物がこちらを見ていた。

兎に馬に狐など様々な動物がいる。

「凄いな、こんなに生まれるのは馳犬(ちけん)以来だな」

呆気に取られている未影を見ながら炎龍がポツリと呟く。


『はじめまして、風馬』


ふと幼い子供の声が聞こえた。

はっと我に返り、ゆっくりと腕に抱いている兎を見つめる。


『やっとあえた。風馬、もうだいじょうぶだよ』

「え………」

『わたしたちはあなたのことをしっている。でも、あんしんして』


あなたはここにいていいの。しあわせになっていいの。




「――――――――――っ」




息が詰まった。

私のことを知っている?じゃあ、じゃあ、私の………。

「………未影?」

なんだか様子がおかしいことに気づいて声を掛けられる。

けれどその声は彼女には聞こえない。

『こわがらないで。だいじょうぶ。かのものはりゅうよ。あなたのこともちゃんとりかいしてくれる。だいじょうぶよ』

その声に嘘はない。でも、怖いよ。

気味が悪がられたら、それで離れていったら。

もう、私は………。

「未影、大丈夫か?」

「っ!」

はっと我に返った。

「どうした?急に黙り込んで、もしかして具合が悪いか?」

「あ……、えっと、だ、大丈夫だよ」

「……そうか」

紀陽は優しい、音が凄く安心できる。

初めて会ってから不思議なことに彼のことがすぐに怖くなくなった。

他の者たちと目が合うだけで体が震えて怖くて仕方がなかったのに。

彼ならもしかしたら、私の秘密を話しても理解してくれるかも。

……でも、言葉が出てこない。

だって、言ってしまったら彼も村人のように忌み嫌って罵ってくるかもしれない。

離れていくかもしれない。

また独りぼっちになる。もう、独りぼっちは嫌だ。

それが怖くて、怖くて言い出せない。

臆病で卑怯者な自分自身に嫌になる。


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