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第二話 その少女、炎とともに

――――――――川の流れる音が聞こえる。

それとともにとくとくと心の臓が聞こえる。

ああ、温かい。嫌な音もしない。

「…………んう」

のろのろと瞼を上げる。

「お、起きたか?」

見上げれば炎龍の顔が見える。

「……?ここ、どこ?」

「ああ、お前の神域だよ。葵猫からそのほうが落ち着くだろうって、俺が運んだ」

「わ、わたしのしんいき?」

「ああ、十二神獣は誕生した場所が自身の領域になる。自身の力を回復させるのもここが一番だ」

腕の中から出してもらい、恐る恐る周りを見ると最初に目を覚ました場所だ。

川が流れて、草木が多い茂。

どこでもありそうな場所なのに、とても落ち着く。

「まあ、ここまで穏やかな神域となると俺も落ち着く」

わしゃわしゃとまた頭を撫でられる。

「あ、あの運んでくれてありがとうございます。えっと」

名前が分からない。

おろおろしていると彼女が何でどもっているのかが分かり、口を開く。

「ああ、俺か。俺は炎龍。よろしくな、風馬」

自身の名を名乗った。

風馬。そう自分の名前なのは分かっている。

けれど、彼女には人間の子どもであった時の“名前”があった。

村の者たちは誰も彼女の名を呼ばなかったけども。

母だけは呼んでくれた。

「………っ」

「どうした?どこか痛いのか?それとも何か気に障ることを言ったか?」

彼女の顔が曇った。

炎龍は彼女に声をかけるが口を結んで話してくれない。

「………な、なまえ」

「名前?」

「私、風馬じゃない。名前、あるもん」

彼は目を見開いた。

そうだった。彼女は、器は神でも心は幼い子どものままだ。

「そうか。それは俺が悪かったな。だが、言っておきたいことがあるんだ」

「?」

彼が話すこと。

それは“真名”という名の本来の名のことに関してだ。

風馬、炎龍はあくまでも神々の名、“神名”と呼ばれるものだ。これは人が神を呼ぶときの名である。

そして、“真名”は神自身の本来の名であり、それを知ったものは神自身を縛り付けることができる。つまり、支配が出来るのだ。

「神同士でも縛りが出来る。真名でお前を呼び、止まれと言えばお前は自分の意思とは関係なく体を止めてしまう。……お前の嫌がることもやってしまう輩もいる。お前には酷だと思おう。だから、真名を言うのは危険なことなんだ」

分かってくれと諭すように言うが少女は涙を浮かべていた。

ぎょっと目を開く。


「わ、わたし、また、なをよん、で、くれ、な、い?いみごって、ばけものって、また、よばれるの?」


ぽろぽろと涙がこぼれる。

ぎゅっと裾を握りしめる少女の姿が痛々しい。

「いやだ、また、また」

「………そうだな。名を呼ばれないのは悲しいよな」

炎龍はそんな少女に憐憫の意を抱いていた。

「………じゃあ、こうしよう。俺の真名を教えよう」

「・・・・・え?」

「そうすれば、お前は俺を縛ることもできる。俺はお前を縛ることができる。嫌がることを止めることもできる。どうだ?」

「………あ、あなたはいいの?」

「ああ、構わない。それに真名を聞いてもお前に嫌なことをしない。約束する」

「………」

こくりと少女は頷く。

もう涙は止まっていた。

「よし。俺の真名は“紀陽(きよう)”だ」

地面に字を書く。

「き、きよう?」

「ああ、そうだ。じゃあ、お前の名は何ていうんだ?」

優しく笑みを浮かべる紀陽に少女は自身の名をいう。

「みかげ…。私の名前、“未影(みかげ)”っていうの」

「みかげか…。いい名だな」

そう言うと少女……、未影は嬉しそうに笑った。

ああ、初めてみる笑顔だ。

子どもらしい愛らしい顔だ。

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