小話 ご都合主義は昔からある
ハロウィンが近づいているから小話が書きたくて……………。
十二神獣が一人、樹蜂は学に長けているだけではなく、自身で薬などを作ったりしている。これに関しては葵猫も彼に相談することが多い。
しかし、彼はちょっとした欠点がある。
それは……………。
「んにぃ?」
「んあああああ!!かわいいぃぃいいいいい!!!」
剛狼の屋敷に緊急招集された一同だが、そこにいたのは頭の上には三角のふわふわの毛で覆われた栗色の耳があり、下を見れば背中から同じ色の尻尾が見えていて、まるで猫のようになってしまった未影がちょこんと座っていた。
「……………これは一体??」
「樹蜂の薬を風馬が飲んでしまってな」
「す、すみません。風馬に飲み物を渡したと思っていたら間違えてしまいました」
当の本人は正座して、反省していた。
未影以外の全員がああ、またかと呆れてしまった。
何を隠そう。樹蜂はこう見えて少しおちょこちょいな部分がある。
前なんて髪が伸びてしまう薬や口調が変になってしまう薬などを作っては間違えて同胞たちを飲ませるや浴びせることがあった。
そして、今回は未影が被害を被ってしまったというわけだ。
「にぃ~」
ゴロゴロと喉を鳴らして隣に座っている紀陽の膝に乗って顎に頭を擦り付けている。
どうやら、意識は猫寄りになっているようだ。
顎の下を撫でると耳をペタと伏せて気持ちよさそうにしている。
そんな彼女を見ている紅鳥がはぁぁあと深い溜息をついた。
「か、かわいい。すっっっっっごくかわいいわぁ」
うっとりと未影を見つめる彼女はそっと手を伸ばす。
「……………んぅ?」
くんくんと彼女の手を嗅ぐ未影ではあるが、ぷいと無視をして紀陽にまた擦り寄る。
「はあああああ。猫ちゃんな風ちゃんがかわいいぃぃぃ」
「まんま、猫じゃねーか」
「これの効果ってどの位で終わるの?」
「二刻ほどで効果がなくなるかと」
「…………………………」
「にぃにぃ!」
彼らの話など聞いていない未影は紀陽から離れて、雹蛇の髪の毛にちょっかいをかけていた。
手を丸く握って、ちょいちょいと触っている。
きらきらと目を輝かせて遊んでいるのを見ながら、自由だなと呑気に思ってしまった。
当の雹蛇はピシッと正座したまま微動だにしない。まあ、変に動いて怪我しないためだとは思うが傍から見ると面白い。
「とりあえず、炎龍。申し訳ありませんが、風馬を任せたいのですが」
「あ、ああ、分かった」
ちらっととある方向を見ながら了承した。
他の同胞を見るとそこには端っこで項垂れる剛狼の背中が見えた。
余りにも悲壮感が漂っているからそっとしていたのだが、気になってしょうがない。
「……………風馬に威嚇されて落ち込んでいるんです」
「ああ、成程」
「子猫に怖がられるよな、普通」
「なんで炎龍は怖がられないのよ」
「無意識に信頼できると分かったからじゃないかな?」
「葵猫の考察があってそうだな」
説明してくれた樹蜂に納得する汐兎と馳犬。その言葉に疑問を持った紅鳥だが、葵猫から見ての考えを述べると同意するように頷く鉐猿。
そんな一同が話す中、ひらひらと己の袖を使って雹蛇から離れた未影と遊んでいる塙狐は彼女の愛らしい姿を見て微笑んでいた。
「にぃにぃ!」
「ふふっ、かわいい」
「にぃ!みゃみゃっ」
「ほらほら」
「にぃ!みゃあ!」
「おやおや、おしい。さあ、そろそろご飯の時間にしましょうねぇ」
「ちょっと、そこっ。なに、しれっと風ちゃんを連れて行こうとしているわけ!?」
遊んでいた隙に何処から取り出したのか子ども一人が入れるような手籠の中に未影を入れて、この場から去ろうとする塙狐に待ったをかける紅一点。
紀陽に関しては呆れたようにそっと未影を手籠から出して、抱き上げた。
当の本人は何も分かっていないようできょとんとしている。
「おや、父親として当然でしょう。我が子のご飯を与えるのも親の役目です」
「いや、父親じゃねーだろ」
「何を言いますか。私が父親です」
「おい、あいつ。どうしたんだ?」
「うーん。風馬に庇護力が突破しちゃったのかな?」
どーんと胸を張る塙狐に呆れたように見る一同。
まあ、分からなくもないが。
「んぅ」
「こら、未影」
暇になってしまったのかてちてちと紀陽の頬を軽く叩いて遊び始める。
そんな彼女を宥めるように頭を撫でていると視線を感じて、そちらを見ると恨めしそうに睨みつける剛狼の姿があった。
「…………………………わしはふれることができなかったのにっ」
「あのなぁ」
呆れる紀陽に抱かれる未影が剛狼を見て、ぐるると低く唸った。
「…………………………うう、わしかなしい!!」
また、壁の方を向いて落ち込む彼に対して一同は呆れたように息をつく。
それからはまあ同情心で剛狼の屋敷にいるのと帰るので別れた。
未影と紀陽は勿論、剛狼の屋敷にというか当の本人が嫌われていてもいいから見ていたいという我儘を言った為でもある。まあ、未影も剛狼が近づいてこなければ威嚇もしないので問題は無い。
万が一の為にと樹蜂と風虎の二人が残ったのだが、塙狐や紅鳥の様子を見るに自身の神域から色々と持ってくるのだろう。
それから二刻ほど、未影と遊んでは塙狐が持ってきた特製の猫まんまを食べたり、紅鳥がひらひらの紐を持ってきて遊んだりして疲れてそのままお昼寝をして、薬の効果は無くなった。
猫であった時の記憶はなく、どうして紀陽達がいるのかが不思議できょとんとしていた。
「うう、よかったっ」
「???剛狼、どうしたの?」
「……………そっとしておいてやれ」
号泣しながらなでなでと頭を撫でてくる剛狼の姿に首を傾げるが、皆してふと遠い目をした。
こうして、未影が猫になってしまうという珍事件は終わった。
しかし、樹蜂はまたしてもやらかすのである。
それはまたのお話となるだろう。




