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すると、ほっと安心したように息をつく男。
「怪我とかしたらこいつに言えば治してくれるからちゃんと言うんだぞ」
そう言われた少女はこくりと頷く。
「………“炎龍”、この子もしかして」
「ああ、神言がなかった様だ」
すると葵猫となる青年が目を丸くして、少女を見ていた。
「……そうか。じゃあ、話をしなくちゃね」
青年が話し始める。
この世において八百万の神々、その中でも神獣と言われるモノ達がいた。
神獣の中でも5体の神獣は神により人の世に降臨をし、人の世の安泰を命じられた。
神獣は降臨した地において神域を創り出したが、その強大な神通力のままでは人の世の均衡に関わる。そのため、力を十二に分け、そして器を選び、そのモノ達に世の安泰を託した
それが“十二神獣”と呼ばれる神々が作られた話である。
器に選ばれるモノは人間や動物が選ばれるが、神の形は人型とされている。
そして、その器に選ばれたのが少女であった。
「疾風のごとく駆ける馬、“風馬”の座が空席でね。かの神は慈悲深いと言われている。でも、君のような子が選ばれるとはね」
少女は訳が分からなかった。
だって、自分は化け物で、忌み子で、それで……。
……あの時の声がもしかして、神様だったのか?
「でも、神に選ばれたのなら僕たちは同胞だ。君のお世話も神からの願いのようだね」
これからよろしくねと微笑みを浮かべる青年に少女はただただ頷くしかなかった。
自分はどうなってしまうのか。分からない。
漠然とした先に不安しかない。怖い。
「……大丈夫だ。不安なのはわかる。けど、俺たちはお前の仲間だ」
抱いている青年がそう声をかけてくる。
見上げるとそこにはあの金色の瞳が目に映る。
「少しずつでいい。俺たちに歩み寄ってくれればいい。俺たちはお前を拒まない、決して忌み嫌うこともない。だから、安心しろ」
優しい声。嘘のない音。
ふわりと不安が無くなっている感覚。
『大丈夫。愛し子よ。どうか幸せにおなり』
ふとあの優しい声が聞こえた。
「……眠ってしまったね」
「ああ、まだ不安定のようだ」
すうすうと寝息が聞こえる。
寝ている少女を温かい目で見つめる二人。
「魂と器は完全に癒着しているね。でも、記憶があることから心の方が追いついてないんだと思う」
少女の額に指をあてて彼女の状態を確認する葵猫はとても悲しげな表情を浮かべていた。
「………彼女はかなりつらい記憶が根付いている」
「“視えたのか”?」
「うん、断片的にだけどね」
葵猫は十二神獣の中でも特殊で記憶を読み取る術を持っている。
ただ断片的にだが、彼女がどんな生き方をしてきたかが分かった。
だから、怒りを覚えてしまった。
最初に邂逅した少女の異常な怯え方。
記憶を見て、彼女が生きていた村の人間を呪わずにいられなくなってしまった。
「……そんな怖い顔しているとまた怯えるぞ」
「……うん、ごめん。つい」
「お前一人が抱え込むこともない。こいつはもう俺たちの同胞だ。なら、支えるのも俺たちだけだ」
わしゃわしゃと葵猫の頭を撫でる炎龍に対してきょとんと眼を丸くしてしまった。
「……君がこうも世話好きとは思わなかった」
「そうだな。俺自身も驚いているよ。俺が近くにいても恐れないこいつに」
腕の中で安心したように寝ている少女。
彼女には言っていないことがある。
今、彼女を抱いている彼が十二神獣の最強である炎龍。そして、神気があまりに強いせいか同胞からも恐れられている存在であることに。
「初めに会った時も俺の神気に恐れたかと思えば違っていたようだしな」
「うん。人に怯えたんだと思う」
「とりあえず、こいつの神域に戻る」
「うん。そのほうが落ち着くと思う」
すっと立ち上がった炎龍に対して葵猫はこうも告げる。
「おそらくだけども、彼女。生前の力も引き継いでいる」
「生前の?それはなんだ?」
「よく分からない。彼女から話してもらうほうがいいかも」
「そうか。なんかあったら声かける」
「うん。僕に出来ることがあるならいつでも呼んでね」
おうと答えて炎龍は少女とともに消えた。
「………どうか彼女の心を光で照らしておくれ」