5
「二人とも!今日は宴だ!!しかも、儂の屋敷でやるぞ!」
「またかよ」
「うたげ?おてつだいする!」
呆れたように言う紀陽に対して嬉しそうに笑って手を上げる未影を見て、いい子過ぎるとまた感動する塙狐は口元に手を覆っている。その同胞の様子を見ていた一同はまたかとそちらに呆れている。
宴の準備をする為に未影は塙狐と葵猫の手伝いをし、紀陽と他は宴の準備と他の同胞を呼びに行った。
「……………というか、炎龍」
鋼狼の屋敷を片すこととなった紀陽と紅鳥が黙々と作業をしていたのだがふと思っていたことを紅鳥は彼に訊いてみることにした。
「なんだ?」
「あんたって風馬ちゃんを抱っこするわよね」
「ああ」
鎖を乗り越えてからというもの未影はよく紀陽に強請る様になった一つだ。
だっこしてと両手を上げて見つめてくるのだ。
抱えれば嬉しそうに抱き着いてくる。
彼女のその様子にこちらも嬉しく感じるのだ。
そのことに対して何かあるのだろうか。
「あのさ。上半身がほぼ裸で抱っこはやめたら?」
流石に見慣れている方からするとまあ、いいかと思うけど……………、女の子を抱き上げるのにその姿では目のやりどころが無いのは問題じゃないかと言ってくる。
あまりにも予想だにしていないことに目を丸くして固まる紀陽。
その二人のやり取りを盗み聞きしていた鋼狼が割り込んでくる。
「まあ、風馬は幼子であるからな。分からないのだろうが……………」
「どうでもいいだろう。他の奴らの事なんて」
「いやぁ、しかしだな。もし、風馬がもっと育った時に恥ずかしくて抱っこなんて強請られなくなるかもしれんぞ?」
「!?」
その一言を聞き、考えもしなかったことだったろう。また固まってしまった。
そんな彼の様子を見て紅鳥は本当に変わったな、この男と感心してしまう。
また、一方でとんでもないことを言った鋼狼は固まった紀陽にまあまあ、先の事だし。どうなるかはわからんからそんなに驚くなと彼の肩をぽんぽんと叩き、励ます。
しかし、面白いおもちゃでも見つけたようににやにやと笑っている。
「丁度、お前に渡したい物があってのう。いい機会だし、試してみないか?」
「……………」
なんでだろうか、上手く誘導されたような気がしなくもないのだが?
鋼狼の言葉に違和感を感じた紀陽であったが、そのまま乗せられることとなった。
未影は籠の中に入っている野菜や果物を塙狐の元に運んでいた。
そんなに量は多くはないがよたよたと少し覚束ない歩き方をするので葵猫が持とうかと問うが大丈夫と返すのだ。
「風馬は本当に頑張り屋さんだね」
「がんばりやさん?」
「うん。風虎に教わっている時も自分で練習している時も一生懸命で諦めないでやっていることが偉いって意味だよ」
「いっしょうけんめい?えらい?」
頑張って分ろうとするその姿が可愛らしくて少し面白く、ふふっと笑ってしまう。
この子にはもっと色々なことを教えていかないとなとしみじみに思った。
厨に着くと塙狐が料理をしている。
「ああ、二人ともありがとうございます」
「どういたしまして。僕も手伝うよ」
「……………」
塙狐へ籠を渡す時、じっと彼を見てしまった。
「風馬?私の顔に何かついてます?」
「……………塙狐、がんばりやさんねぇ」
先程の葵猫の言葉を自分なりに考えて、塙狐も自分の為に色々な料理を作ってくれた。一番おいしいものも見つけてくれたからがんばりやさんだと判断したのだろう。
少し背伸びして小さな手で彼の頭を撫でてた。
ぴきっと唐突なことに固まった塙狐ではあるが、何とか頭の中をぐるぐると回転させて未影の言葉を理解しようとして……………。
「……………い、い〝い〝ごずぎる〝っ!!!」
そして、口元を手で覆って感涙にむせぶ。
そんな彼の泣く姿を慣れてしまったのか未影はそのまま頭を撫でているし、今日はよく泣くねと葵猫も手慣れたように背中を撫でて落ち着かせようとする。
「……………え、何この状況」
「大の大人が幼子に宥められているのはちょっと」
丁度、鋼狼の手伝いから逃れて避難してきた汐兎と馳犬は状況を飲み込めなく立ち尽くしていた。
まあ、二人でなくとも他の同胞が見ても立ち尽くすだろうが……………。




