3
男は少女が地面につく前に横抱きにして少女を助けたのだ。
そっと少女を立たせた男。
銀色の短髪に金色の瞳。仁王像のような衣装に無駄のない引き締まった裸体が目に付く。
少女に合わせて膝をついて話をする男。
「う、うん」
「そうか。よかった」
ほっと安心したように息をつく男をまじまじと見ている。
すると、後ろから足音がしてくる。
はっと自身が逃げていたことを思い出し、また逃げようとする。
しかし、目の前にいる男が少女の変わりように気づいて声をかけようとしていた時だった。
茂みからあの3人が出てきた。
「見つけた!!って、なんだよ。お前がいたのか、“炎龍”」
「………“生まれたばかり”の子を怖がらせてどうしたいんだ?お前ら」
「すみません。その子が」
ああ、このひともこのひとたちのなかま。
にげなくちゃ、にげなくちゃ。
じりじりと茂みの方へ後ずさる。
「———————おい、そっちは崖だ!」
「………え」
体がぐらりと後ろに傾く。
慌てて少女に手を伸ばす男が見えていたが、少女はそこで意識を失ってしまった。
少女は暗闇の中を走っていた。
どんなに走っても周囲は真っ暗。
走っても走っても後ろにいるナニカニ追われている。
助けてと叫んでも誰も助けてくれない。
そんな中、目の前に光が灯される。
“もう大丈夫だよ”
その言葉で少女は目を覚ます。
とくん、とくん。
誰かの心臓の音が聞こえる。
ああ、心地の良い。温かい。
この音は安心できる。
ああ、これはおかあさんと似ている。
ああ、“懐かしい”
そろそろと目を開ける。
目にいたのは誰かの腕。
おかあさんのような細い腕じゃない。
男の人の腕だ。
「目、覚ましたか」
はっとやっと意識がはっきりする。
少女は誰かの腕の中にいる。
恐る恐る見上げるとそこにはあの金色の瞳をした男がいた。
どくり。
嫌な音が体から響き渡る。
すぐに男から離れようともがぐが男の腕はびくともしない。
すると、男が少女の頭をわしゃわしゃと撫でまわす。
びくっと少女は肩を震わせるが男はお構いなしに続ける。
「大丈夫だ。なにもしない、安心しな」
そういった男の“音”は嘘なんかついてない本当のようだ。
「た、たたかない?」
「ああ」
「ひ、ひどいこといわない?」
「ああ」
本当だ。まだ怖いけど危害を加えないことが分かった。
それが分かったのか少女はまだ震えているが大人しくなる。
ふと周囲を見渡すと先ほどいた森の中ではなく何処かの建物の中にいるようだ。
木造というわけではなく石畳みの床、白木の屋根。
何処か違う雰囲気。でも、嫌な感じはしない。とても安心する。
「え、えっと、ここどこ?」
「ここは“葵猫”の“神殿”だ」
「きびょう?しんでん?」
「………お前、神からの“神言”がなかったのか?」
少女の言葉に目を見開いて驚いている男。
男の様子を見て首を傾げる少女。
そんな二人を遠目で見ている一人の男。
「ああ、よかった。目を覚ましたんだね」
「!」
びくっとまた肩を震わせる。
そんな様子の少女に男は悲しげな顔をしたが、何も言わずに少女から少し離れた場所に座りこちらを見てくる。
「僕は“葵猫”という。さっきはごめんね。怖い思いをさせてしまったね」
そう謝り、危害を加えないから何処か怪我しているかもしれないので診せてくれないかと言ってくる。
「………」
嘘はついてない。けど、怖い。
小刻みに震えて返答が出来ない。
そんな少女を抱いている男がこう聞いてくる。
「今、痛いとこは無いか?」
「?う、うん」
「そっか。腹はすいてないか?」
「うん」
「喉は?喉は乾いてないか?」
「うん」
頷いて答えていくとまた男はわしゃわしゃと頭を撫でて、もう一人の男に大丈夫そうだと答える。