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「汐兎、馳犬か。鋼狼から逃げてきたのか?」
「うん、雹蛇達が巻き添えになったんだけど」
と少し離れたところでぎゃいぎゃいと騒いでいる声が響く。
「未影、こいつらは汐兎、馳犬。まあ、見た目がお前と年は近いし、頼りになるだろう」
「話には聞いていたけど小さいね」
「まあ、これから長い付き合いになるんだし。よろしくな」
近くまで寄ってきてしゃがんで未影を見てくる。
じっと見られて居心地が悪くなったかのか紀陽の背中に隠れてしまう。
「こら、2人ともそんなに見たら怖がってしまうだろ」
「あ、ごめん」
「俺らよりも小さいから。つい」
そう、同胞の中でこの二人は体格的には華奢な方だ。そのため、自分たちよりも小さい、ましてや子供の姿の同胞が珍しくじっと見てしまった。
「果物、食べる?」
「桃とか持ってきたぞ。顕現してそんなに日が経ってないからな。果物とかがいいだろうと思ってな」
と手に持っていた果物を渡してきた。
紀陽がそれらを受け取って未影へ食べるか?と差し出すと恐る恐るとした様子で桃を指さす。
「そうか。皮むくから待ってろ」
と皮をむいてから差し出す炎龍の姿に未影以外の一同が目を丸くした。
同胞がこんなに世話焼きをする姿を目にするとは思ってもみなかった。
「……なんだよ」
その視線に居心地の悪さを覚えた本人が訊いてくる。
「あー、いや。炎龍がそんなに世話をするとは思ってもいなくて、つい」
「いつもだと樹蜂や葵猫がやっているから、珍しくて」
おずおずと話す二人に呆れたように見てから、ちびちびと桃を食べる未影に目を向けた。
「……目が離せなくてな」
「?」
食べることに集中していたため話を聞いていなかった未影が不意に紀陽へ目を向ける。
そんな彼はふっと笑ってくしゃと彼女の頭を撫でる。
彼の穏やかな笑みにもさらに驚愕を隠せない一同。
だって、彼は笑う姿などあまり目にしたことがない。いつも真顔で空虚な目をしていたから。
異常なまでの変化に驚きを隠せない一同だったが、その要因となった小さな同胞はそんなことなど気にしていないようで彼に話しかけている。
「旨いか?」
「うん、甘くておいしい」
「そうか。ゆっくり食べろよ」
うんと頷いてまた食べ始める。
そんな姿を見ていた紅鳥が葵猫に話しかける。
「ちょっ、本当にあれが炎龍?偽物じゃないわよね??」
「うーん、本人だよ。ここまで変化あると驚くよね」
こそこそと話す二人の輪に加わる汐兎と馳犬。
「いや、あんなに変わるのかよ。別人だぜ?」
「雹蛇なんかに見せたらもしかしたら失神しちゃうんじゃ……」
そんな当の本人は失礼な話が聞こえているが無視をして酒を飲む。
そこに忍び寄る影が。
「えーんーりゅーうー!!飲んでるかぁ!!?」
「ぐっ」
いつの間にか近付いて来ていた鋼狼に肩を掴まれた。その際に呑んでいた酒が少しこぼれた。
「なんだなんだ。馳犬達もここにいたのか!」
「げっ」
顔をしかめる一同。遠くを見ると酔い潰された同胞たちが倒れている。
「ん?おお、美味そうなもの食べているなぁ。風馬」
ごほごほとせき込む炎龍を心配そうに見つめている未影を見つけて話しかけてくる。
「炎龍とは仲良しさんだな」
「うん」
「そうかそうか。こいつにも陽だまりが差したか」
うんうんと嬉しそうに笑い紀陽の髪をぐしゃぐしゃとぞんざいに撫でて、どかりと胡坐をかいて座る。
「おい」
「風馬。こいつは儂らの中で一番の寂しがり屋だから、傍にいてくれよ」
と本人を無視して話している。
「?一緒にいるよ?だって、紀陽と約束したから」
「そうかいそうかい。真名まで告げたのか」
鋼狼は穏やかな顔をして、未影を見ている。




