第五話 少女は宴に誘われる
―風馬の誕生を祝って宴をやるぞ!!え?急過ぎる?いやいや、食材や酒は俺が準備してあるから安心しろって!!え?いつの間に?そりゃあ、下界に行ったときに調達したに決まっているだろ。というわけで、炎龍と葵猫は風馬を連れてゆっくり来いよ!!
鋼狼の言葉によって、宴を開こうということになった。
なお、他の同胞たちは鋼狼に引きずられて何処かへと行ってしまい、まるで嵐のようだと思ってしまうほどの荒々しかった。
宴の場となるのは鋼狼の神域で行うというので紀陽と未影、そして葵猫は三人で移動していた。
移動と言っても他の神域へ移動するには”神道”と言われる道を歩いていくと自分が行きたい神域につくというのだ。
その”神道”はまるで星々が集まった一本道で周囲は青空のような空間が広がっている。
「他の奴らは宴の準備をしているのか?」
「うん。“塙狐”と“汐兎”が作ってくるって」
紀陽に抱っこされながら二人の話を聞いていた未影。
「……他はあれか」
「う、うん。鋼狼に引っ張られていったよ」
苦笑する二人に首を傾げる。
どうしたのだろうか。
「お、きたきた。おーい!!」
三人より前に自身の領域に帰っていた鋼狼が手を振ってくる。
「………大きい樹」
「桜の木だよ。鋼狼の領域にしかないんだ」
そう、鋼狼の後ろには大きな桜の木があった。
薄桃色の鮮やかな花弁が咲き誇っていて、荘厳な気が感じられる。
「よう、嬢ちゃん。体調はどうだい?」
「だ、だいじょうぶ」
紀陽に下してもらうと鋼狼がずいと顔を近づけ訊いてくる。
けど近すぎて紀陽の後ろに隠れた。
「おっと、まだ人は怖いのか?」
「まだ慣れてないんだろう」
紀陽は呆れたように言う。
「そうかい。まあ、慣れていけばいいさ。あ、そういえば名乗っていなかったな」
にかっと笑いかけてくる。
「儂は十二神獣が二番手、鋼狼だ。こいつらの中では古参でな、もし困ったがあればいつでも言ってくれよ」
「う、うん」
「よし、いい子だ」
頷く未影に満足したのかはっはっと笑う。
「おい、鋼狼っ。てめぇ、人に酒樽押し付けておきながらさぼりやがって!」
「こら、風馬がいるのです。言葉が汚いですよ。鉐猿」
後ろから声がまたしてくる。
そこには最初に会った二人が立っている。
あのざんばらな短い金髪に濃い赤紫の瞳の青年が酒樽を担いでいる。
もう一人も何かを持っている。
「そういえば、風馬はまだ二人のことを話してなかったね。酒樽を持っているのが鉐猿で隣が塙狐だよ」
しゃがんでくれた葵猫が説明してくれた。
「風馬の神域に近いのが鉐猿の神域だからそこから皆で見守っていたんだ」
「……あの時も?」
「そうだよ」
最初、三人が怖くなって逃げてしまった。
逃げてしまったことを謝ろうにも声を掛けづらい。
すると、未影の心中を察したのか。紀陽が二人に声を掛ける。
「鉐猿、塙狐」
「なんだよ、炎龍」
「未影がお前たちに言いたいことがあるんだと」
「おや、私達に?」
二人は近寄ってきてしゃがんできた。
「ほら、言いたいことあるんだろ?」
と紀陽は未影を二人の前に出す。
「あ、う、えっと、に、にげて、ご、ごめんなさいっ」
ばっと頭を下げる。
「……お前たち、この子に何したんだ?」
鋼狼がじろっと二人を見つめる。
「あー、いや、その。べ、別にお前が謝ることないって!」
「ええ、そうです。私達は気にしていませんよ。これからもよろしくお願いします。風馬」
「!う、うん」
こくりと頷く彼女にほっと安心したように笑みを浮かべる二人。
その後ろからも他の十二神獣がぞろぞろとくる。




