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※流血表現あり
時が起こる数刻前。
「……………」
「……………」
未影と風虎には会話がなく、静寂が広がっていた。
紀陽に慣れてきた未影にとっては知らぬ者と一緒にいるのは辛いものであった。
危害を加えてこないと分かっていても、怖いものだ。
音が静かすぎて不気味さも感じてしまう。
紀陽のように温かい音が安心する。
ああ、早く帰ってこないかな。
そう思っていた時だ。
「————お前、生贄にされて殺された子どもだろ?」
………え?
言葉が理解できなかった。
俯いていた顔を上げて、風虎がいるほうへ向ける。
そこにいた彼の顔はただ話をしているだけのように笑っている。
それとともに彼の心の声が聞こえてくる。
『可哀想に。千里の声が聞こえて、人間ではない声も聞こえる耳のせいで』
どくり。
心臓が嫌な音を立てる。それと同時にがたがたと体が震える。
「い、いや」
聞きたくない。聞いたら、いけない。
だって、なにかが崩れてしまいそうで。
「なるほど。その様子だと間違いないようだ」
男はまるで確認するかのように言う。
ふらりと立ち上がった未影。
はやく、はやく、このひとからはなれなくちゃ。
聞きたくないことがきこえるから。
にげなくちゃ……。
「それに母親も殺されたら、」
そりゃあ、心に傷がつくな。
どくり。
「………………………お、おかあさん?」
男は今なんと言った?
おかあさんがころされた?
うそだ。だって、おかあさんは………。
……………あれ、おかあさん。あのとき、どこにいたの?
————儀式が整った。さぁ、忌み子を渡せ!!
————いや!!この子は私のたった一人の娘なんです!!
————そいつを贄に捧げれば村は安泰なんだよっ!!!
————いや、やめて!この子は忌み子なんかじゃない!!
————ええい!うっとおしい!
記憶が蘇ってくる。
あの日。
村の長達が突然家に来て、おかあさんが私を抱きしめて抵抗していた。
私を贄に捧げるために。
でも、おかあさんが必死に私を守ってくれた。
大丈夫、大丈夫って。
ぎゅっと細くてでも力強く私を抱きしめてくれた。
―――――――――でも。
ぐしゃ。
鈍い音ともにおかあさんが倒れた。
————お、お前!なんてことをっ
————こうでもしないと忌み子を離さなかったから
村の人たちが何かを言っているのに分からなかった。
私は倒れているお母さんの体を揺すった。
おかあさん、おかあさん。
なのに、おかあさんは動かなかった。
見えたのはおかあさんから広がっていく。
アカ。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
おかあさん!おかあさん!
呼んでも呼んでもおかあさんは動かない、返事がない。
いやだ、いやだ、いやだ!
1人にしないでよ!おかあさん!おかあさん!
でもおかあさんはうごかなかった。
————し、仕方がない。おい、連れていけ
————へ、へい。
————これはど、どうします?
————村のはずれにでも埋めよう。他の奴らもそこに埋まっているしな。
————わ、分かった。
いやだ!いやだ!おかあさん!おかあさん!
連れ出される私は必死におかあさんに手を伸ばす。
でも、どんどんと遠のく。
そして。
————さぁ、忌み子であるお前の役目が来た。
————村の安泰に役に立つ時が来た。
————恨むなら忌み子として生まれた自分の運命を呪え。
抵抗できないように痛めつけられた私を儀式の台に横たわらせた。
ぼおと意識が混濁する中で村長が何かを話している。
そして、手に持っている銀色に輝くものを振りかざして。
私をころした。




