ヘンペルのカラス編 ①
月明かりが射し込む部屋のなか、綾瀬凜は目を覚ました。
「ここは?」
見知らぬ天井。
綾瀬は自分のいる場所を確認しようと体を起こそうとしたときに違和感が走った。
首に硬い感触があったのだ。
跳び跳ねながら手を首もとに持っていくとチョーカー型の首輪が取り付けられていた。
「流行りのデスゲームに巻き込まれたのか?」
殺しあいを強要させ、人の生きたいという欲望を悪用する悪趣味なゲーム。非現実的な事柄でありながらその打開する様子が受けて、たしかなカテゴリーとしての地位を確定させたジャンルだ。
だが、それはあくまで空想だから面白いのであって、自分がその状況に置かれてなお喜んでいるのは、漫画と現実の境を理解できていないことに他ならない。
部屋は1ルーム。
寝かされていたベッドにタンス、そしてシャワールームと簡素なものだ。
「首のこれはさながら爆弾か?」
漫画やアニメの予備知識のおかげで、どうしてここにいるのか?という疑問を後回しにして現状の把握に取りかかる。
(どうせ俺1人ってことはないだろうし、部屋を出てから考えても遅くないはず。だよな?)
粗方部屋のなかを探してみるとタンスの中に1枚のカードが入っていた。
背面は黒く、表にはトランプの『K』が描かれていた。
(トランプに例えてるなら参加者は13か?)
綾瀬は部屋の扉を、一応の警戒をしながら開く。
顔だけ出し、辺りを見渡す。
正面に見えたのはコンクリートの壁。右には自身と同じく周囲を探ろうとしているのか、1人の少年の頭があった。
「「「あっ、」」」
3人の声が重なる。
綾瀬は後ろから聞こえた声に急いで振り返ると、ボブヘアの少女が同じように顔だけを出してあたりを窺がっていた。
「キミたちも・・なのかい・・・」
彼の質問に綾瀬と少女は首を縦に振る。
すべてを語らずとも、自分達の置かれている状況が異常であることを理解している。
「お前らはここをどう思う?」
「分からないけど、最近起こってる『連続失踪事件』に関係しているのかもしれないね」
共通点のない人間が何人も、何の前触れもなくまるで消えたかのようにどこかに消える事件が多発していたものの、どこかで自分には関係ないと思っていたせいで大して気にも留めていなかった綾瀬にも、その事件のことは何となく耳に残っていた。
大人から子供まで、無差別に繰り返される犯行は過去4件起きており、もしこれが同一の事件であるならば、5件目の事件となる。
「普通ならこの辺りで」
《皆さま、お目覚めになりましたでしょうか。》