盗まれた財布
肩が重い。
眠れない。
疲れた顔をしながら俺は、ぼうっとした顔をひっさげて人ごみを歩いていた。
たまに通り過ぎる店に視線を向ける。
すると、笑顔で積極する店員や、楽し気に買い物する親子、仲よさそうなカップルが目に入った。
ピントをずらすと、ショーウィンドに映る顔は自分。憂鬱そうだ。
あちこちにふらふら視線をさまよわせながら、だらだら歩いていたら、どんっという衝撃があった。
「兄ちゃんごめんよ!」
あっ、やられた!
薄汚れたシャツを着た子供が、足音軽く遠ざかっていく。
体が軽くなった。
ズボンのポケットをまさぐると、財布がなくなっていた。
でも。まあいい、か。
ふらふらと町の中をそのまま歩き回る。
そしたら数時間後、件の子供が目の前に立ちふさがった。
なぜだか、怒った顔をして財布を差し出していた。
「ん?」
返してくれるつもりなのだろうか。
俺は首を振って、その子の横を通り過ぎようとした。
「待てよ」
視線を向けたら、横から財布を放り投げられた。
「こんなもん盗めっかよ!」
ああ、そうだな。
そんなおっかないものが入ってたら、生きるのに必死な子供も思わず遠慮しちゃうか。
俺は受け取った財布を広げた。
中には血に濡れたおふだが何枚も入っていた。