【短編】追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た
「……まぁ、そう言う事だから。お前クビな」
「な、なんでだよ?」
「なんでって。そりゃお前、このパーティに必要ないと判断したからだよ」
俺は、狙撃手のキータ。王様より勅命を受け『ホーリーボゥ』を授かった、魔王を撃ち滅ぼさん為に旅をする冒険者だ。そして、今クビを言い渡した彼は勇者のシロウさん、言い渡されたのが回復術師のクロウだ。
「ふざけるな!なんの説明も無しに解雇って、そんなのあり得ないだろ!?」
「それがあり得るんだよ。俺たち、他の冒険者たちと違ってフリーランスでやってる訳じゃない、王様の命令で動いてるわけだからな。その証拠に、他の奴らは持つことの出来ない宝具を使ってるじゃねえか」
「じゃあ、ホーリーロッドを渡せってことか?これは、俺に与えられた物だろう?」
「渡せって言うか、宝具って王様のだし。俺ら借りてるだけじゃん。それに、お前説明したってどうせ理解しようとしないだろ」
「……ならば、俺が渡した魔法のアクセサリーを全て返してもらうぞ」
「いいよ、はい。おい、お前らも渡せ」
そう言って、シロウさんは俺ともう一人のメンバーであるアカネに声を掛けた。俺は大人しくアクセサリーを渡し、アカネもそれに倣った。
「シロウさん。あのアクセサリーなかったら、俺らのパワー半分くらいになるんじゃないですか?」
「その通りだ。でも、今更もう遅いからな。俺は出て行くんだから、こいつを渡しておく義理はない」
「なんでお前が答えてるんだよ。ほら、ホーリーロッドをこっちに」
ツッコミながら、シロウさんが手を出す。
「ふん、後悔するなよ」
「はいはい。わかったから、お疲れ」
言うと、クロウは『ホーリーロッド』を投げるように渡して、シロウさんに背中を向けてどこかへ歩いて行った。
「おい、アカネ」
「は、はい。なんでしょうか」
「お前、あいつの事好きだったんだろ?追っかけなくていいのか?」
「……その、そうさせてもらいます。これ、返します」
聞くと、槍使いであるアカネはシロウさんに『ホーリーランス』を渡してクロウの後を追って行った。
「いいんですか?シロウさん」
「いいよ、別に。王様には、この辺も含めて報告済だ。それに、王様から受けた重要な任務なのに、男追っかけて出て行くような女は元々信用ならねえよ。次の町で、別の適合者を探して仲間にしようぜ」
「そうですね」
シロウさん率いる勇者パーティは、全員が宝具と言う特殊なアイテムを扱うことの出来る、『適合者』と言う一種の天才集団だ。しかし、あの二人をパーティから外したことから分かるように、適合者は何も一人じゃない。当然、シロウさん以外にもホーリーセイバーを扱える者がいるが、たまたま先代の勇者が死んで次に見つかった適合者が彼だったってだけだ。
宝具は、適合者が扱わなければ本来の力を発揮できず、別の奴が使えばただ重たいだけの弱い武器となってしまう。しかし、俺たちが使えば忽ち光り輝く奇跡となり、悪の力を消し去る心強いモノとなるのだ。
何故勇者が必要かと言えば、『魔王』の血を分けた『悪魔幹部』たちは宝具だけでしか倒すことが出来ないからだ。因みに、現在は一体目の『デビル・カチョー』を倒したところ。
「それにしても、やっぱ適合者じゃないとクッソ重いっすね。次の町まで大変だ」
「確かに。悪魔幹部も、もっと町から近いトコにアジト作れってんだよな」
「言えてますけど、それじゃあ町滅ぼされちゃいますよ」
俺の言葉に笑って、せめて次の町に着くまでクビを言い渡すのを待てばよかったと呟いたシロウさん。……あなた、早速後悔してるじゃないですか。
× × ×
「君も、勇者パーティで伝説を作らないか。……なんすか?これ」
辿り着いた町の酒場に張り出した紙を見て、俺が尋ねる。
「メンバー募集のポスターだよ。各パート限定一名、適合者以外にも何かスキルを持っていると尚よし」
「バンドのメンバー探してんじゃないんですよ?もうちょっと厳しい基準で判断しましょうよ」
「そうは言ったって、俺だって元々ただの消防屋だったし、お前だって植木屋だったじゃねえか」
「そうですけど。それにしたってノリが軽すぎますよ。せめて冒険者限定にするとか」
「厳しいと思うぞ。適合者、結構少ねえからな」
「死ぬよりはマシですよ。タイムリミットにはまだ余裕もありますし、ちょっとは吟味しましょう」
「わかったよ。ほんじゃ、冒険者、レベル3以上のスキル持ち、責任感。こんな所か」
言って、出来上がったポスターを見てから、「まぁ、これくらいなら」と納得し掲示板に張り付けた。
スキルとは、レベル1から5までランクを振り分けられている特殊な技術の事だ。その用途は、攻撃や防御から移動用、果ては心を乗っ取るような強力なモノまで多岐に渡る。
因みに、俺は現在までにレベル3のスキルを四つ覚えている。
「しかし、そう考えるとクロウって結構バケモンですよね。あいつ、確かレベル5のスキル六つくらい持ってましたよ」
「すげえよな。やっぱ、天才ってのはいるもんよ」
嘗ての仲間を称賛しながら、俺たちは酒を飲んでメンバーの応募を待った。そして、一週間後。
「おぉ、適合者だ。名前は?」
「アオヤです。現在冒険者で、レベル3のスキルを二つ使えます。責任感は人一倍あると自負しています」
「ほんとかよ。じゃあ、俺たちが戻って来るまで何があってもこの場から一歩も動かないって約束できるか?」
「いえ、出来ません。もし魔物がこの町を襲ったら、立ち上がって戦います」
「はい、合格。おめでとう、君は今日から勇者パーティの槍使いだ」
「いや、ちょっと待ってくださいよ!」
その面接を見て、思わず声を上げて割り込んでしまった。
「慎重に吟味するって言いましたよね?なんでそんなファッション感覚で決めちゃってるんすか?」
「いいじゃねえか。それに、ファッション感覚で命懸けられる奴、中々いねえぞ、なあ?」
「はい、僕はファッション感覚で命を懸けられます」
「ほら、アオヤもこう言ってるじゃねえか。それに、もし嘘だったとしても俺の質問の意味を即座に理解して、的確な回答を返したんだ。頭も結構キレるぞ、なあ?」
「はい、僕は頭も結構キレます」
「ほら、アオヤもこう言ってるじゃねえか」
「お前が言わせてるだけだろうが!……なぁ、アオヤ君。もう少し考えた方がいいんじゃない?勇者パーティって、結構ガチで命懸けて戦う事になるんだよ?フリーの冒険者とは訳が違うんだよ?」
「大丈夫です。僕、これまでも命懸けてやってましたから」
そう言われて、俺は黙ってしまった。
「決まりだな。それじゃ、アオヤも一緒に魔法使いを探してくれ」
「分かりました」
そして、アオヤ君はシロウさんの隣に座って真似るように腕を組み、酒場のマスターに酒を注文した。
「ゆとりかお前は!」
そして、更に待つ事一週間。
「おぉ、適合者だ。名前は?」
「アオヤ、俺のセリフ取んなよ。名前は?」
「モモコです。冒険者は駆け出しですけど、スキルはレベル4を五つ、回復も使えます。責任感というか、故郷を魔王軍に滅ぼされたので、あいつらを全員ぶっ殺したいと思ってます」
「はい、採用。そんじゃ、次のダンジョン行こうか」
「行こうか」
「分かりました。全員殺していいですか?」
「……ダメだ、こいつら」
もうツッコむような気にもならず、俺は彼らの後を大人しく着いて行った。
かくして、シロウさんの新勇者パーティは結成された。そして、まずは手始めに、彼らのお手並みを拝見する為に近くのダンジョンへ潜る事となったのだ。
× × ×
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「おい、モモコ。お前一応ヒーラー兼ねてんだからあんま前出るなよ。と言うか、それぶん殴る武器じゃねえぞ」
モモコちゃんは、低級の悪魔を見るなりもの凄い剣幕で駆け寄って行って、連中をホーリーロッドでボッコボコに殴りつけていた。文字通りの断末魔がダンジョン内に響くが、あれではどちらが悪魔なのか分かったモノではない。
「シロウさん、あれやばくないっすか?モモコちゃん、完全に瞳孔開いてますよ」
「まぁ、あれくらい血の気が多い方がいいかもしれねえな。仕方ないから、お前がヒーラーやってくれ。確かヒールスキル持ってただろ。足りない分はアイテムで代用しようぜ」
「……俺、狙撃手なんですよ?索敵とかどうすんですか?」
「それもお前がやるんだよ。安心しろ、攻撃には参加しなくていいから」
「でも、それだと火力足らなくないですか?」
「多分大丈夫だ、見てみろ」
そう言って指を指した先には、このダンジョンにはいるはずのない『ミノタウロス』とタイマンを張るモモコちゃんの姿があった。
「……あの子、口の中にホーリーロッド突っ込んで体内から爆破しようとしてますけど」
「あぁ、でもやっぱちょっと力足りてねえみたいだ。負けるなありゃ」
「お前、なんでそんなに冷静なの?」
俺が慌てだしたのが分かったのか、シロウさんはストレッチをして戦う準備を始めた。
「アオヤ、お前何が出来んの?」
「結構何でもできますよ」
何それ、アバウト過ぎない?
「おっけ、じゃあ俺がモモコ助けるから、バックアップ頼むわ。キータ、お前はモモコに重点的にヒールかけて、後ろは見張っといてな」
「ちょっと!」
言って、シロウさんは地面を強く蹴ってホーリーセイバーを鞘から抜くと、ミノタウロスの腕を一閃切り裂く、筈だったのだが、モモコちゃんを手放させることしか出来なかった。
やはり、アクセサリーが無くなってパワーが大分落ちてしまっているみたいだ。確かミノタウロスはデビルカチョーよりも弱いはずだから、この先は苦戦が続くかもしれない。
「ほら、モモコ、大丈夫か?」
「殺す殺す」
「キータ!モモコ大丈夫だって!ヒールしてあげて!」
「もう、絶対そんな事言ってませんよね!ライケア!」
言いながら、俺はシロウさんの腕の中でうな垂れるモモコちゃんに回復を施した。ライケアは、レベル3の回復スキルだ。パラメータを数値化出来ないから詳しい数字は分からないけど、結構回復できる。
「アオヤ、俺が引くまで足止め頼む」
「オッケーです」
言うと、アオヤ君はホーリーランスを構えてシロウさんと居場所をスイッチした。
「バレッドストライク」
アオヤ君は呟くように言うと、ミノタウロスの右足に風穴を開けてシロウさんが後陣へ下がるフォローをした。バレッドストライクはレベル3のスキルで、結構ダメージを与えられる。
「キータ、モモコを頼むわ」
「ちょっと待ってください、これ飲んだ方がいいっすよ」
そう言って、俺は液体の入った瓶を手渡した。
「パワーポーションか、アオヤの分もちょうだい」
そして、アオヤの分のパワーポーションを受け取ったシロウさんは、素早く前線へ戻って再びアオヤとスイッチをした。
「ほら、これ」
入れ替わりの瞬間、彼はアオヤ君にポーションを投げ渡し、ミノタウロスの斧撃を迎え撃って弾き飛ばした。しかし、代わりにホーリーセイバーもシロウさんから離れてしまい、かなりのピンチとなってしまっている。
「アオヤ、あれ取って来て」
「いっすよ~」
めちゃくちゃ軽いノリで剣を待つ間、シロウさんはミノタウロスの腹に拳を三発叩き込んだ。しかし、これが中々硬かったらしく、カウンターの一撃を顔面にもろに貰ってしまったのだ。
「シロウさん!」
思わず叫んでしまったが、シロウさんは吹き飛ばされないようにミノタウロスの右手を思い切り掴むと、遠心力を使って飛び上がりそのまま首に延髄蹴りを見舞った。
「シロウさん、これクッソ重いんですけど。僕持てないっす」
「マジか。キータ、モモコ大丈夫ならアオヤ手伝ってやってくれ」
「だからなんでお前はそんなに余裕なんだよ!アオヤ君頑張って!君やれば出来る子でしょ!?」
「じゃあ、もう一回頑張りま~す」
すると、アオヤ君はシロウさんの元へホーリーセイバーをぶん投げた。なんでさっき出来ないって嘘ついたの?
「サンキュー、アオヤ」
言って剣に飛びつくと、彼は着地してから振り返り左足を切り裂いた。そして、返す剣で腹部を切り裂くと、臓物を引きずり出してブヂブヂィと千切った。
「トドメ頼むわ」
「りょです」
アオヤ君は、その軽い返事からはおよそ想像も付かないような槍撃をミノタウロスの顔面に見舞い、頭部を丸ごと吹き飛ばす事で戦いを終わらせたのだった。……あのパワー、確実にレベル4はあるんだけど。
「アオヤ、お前強いじゃねえか。よくやったな」
「まぁ、命懸けてたんで。最後のヤツも、なんか出来ました」
この人たち、「なんか出来た」とか、「ちょっと頼む」とか。アバウトな事ばっかり言うな。
まぁ、それでもやっぱり勇者だし、ここまで戦ってきた実績があるし、あまり気にはならないか。何より、シロウさんのオーダーは恐ろしいくらいに的確で、彼の言う通りに戦っていれば結構勝てたりするのが、俺が彼を信頼している所以だ。
「これあれだな。クロウのアクセサリーの分ちょっと忙しくなるけど、カバー出来なくはなさそうだな」
「アオヤ君はかなりやれますしね。問題は、こっちかと」
「殺す殺す」
モモコちゃんの治癒はとっくに完了していたのだが、また暴走して二人の邪魔をしてはまずいと思ったから、シビレアという麻痺を与えるレベル3のスキルで動きを止めていたのだ。
「言う事聞いてくれりゃいい戦力になるだろうし、まぁ大丈夫だろ。最悪、クビにして別のメンツ揃えようぜ」
「……そうですね」
シロウさんは、恐ろしいほどに現実主義者だ。今あるモノ、それぞれがやれる事だけを重視し、奇跡や神を一切信じていない。アオヤ君の最後の攻撃だって、一発目を見ての判断なのだろう。
ただ、やるべきことをやるだけ。彼は俺の知る限り、歴代で最もクレバーな勇者なのだ。
× × ×
そんな調子で旅を続け、俺たちは『デビルジチョー』と『デビルブチョー』を撃破した。これで残る悪魔幹部は二人。旅もそろそろ終盤へ差し掛かるところで、今はデビルジョームとの戦闘中だ。
「モモコ、殺意は抑えられてるか?」
デビルジョームの攻撃をいなしながら、シロウさんはモモコちゃんに問う。
「はい、大丈夫です。コロス……」
あれから、俺たちも随分と強くなった。
モモコちゃんは、殺害衝動を抑える為のオリエンテーションを何度か行い、遂には戦闘で理性を保つことが出来るようになった。
元々素直な子で、おまけに適合者らしい天才肌を見せつけた為、唯一のレベル5のスキル持ちの、パーティ屈指のアタッカーとして活躍するようになったのだ。
「やべっす、シロウさん。僕、多分そろそろ死ぬかも」
「じゃあスイッチ、キータんとこまで下がれ。前は俺とモモコで何とかする」
言って、シロウさんはデビルジョームの雷をホーリーセイバーで受けると、帯電した状態で斬りつけて撤退までの時間を稼いだ。
アオヤ君の結構何でも出来る、と言った言葉は嘘ではなくて、攻撃を受け流して翻弄し、ヘイトを稼ぎ視線逸らすタイプの優秀なタンクとなった。スキルの伸び率も高く、既にレベル4のスキルを四つも獲得している。
「モモコ、ヘルフレア。その影から心臓ぶっ刺して来る」
「分かりました。……コロス」
シロウさんのオーダーを受けて、モモコちゃんがスキル、ヘルフレアを唱えた。ヘルフレアは、レベル5のスキルだ。リキャストタイムが長い代わりに、絶大なダメージを与えることが出来る。
「グルォォォォオオ!!」
アオヤ君にヘイトを向けていたせいでヘルフレアの直撃を受け、デビルジョームは咆哮を上げた。瞬間、囮としてシロウさんがスケアクと言う分身のスキルを発動し、ジョームの意識を惑わせた。二者択一、外せば負けると言った状況に陥った奴は、右側の分身に拳を見舞った。しかし、それは幻影で左からもう一つの影が斬りかかる。
「……!?」
ジョームが驚いたのも無理はない。何故なら、左から現れたシロウさんも幻影だったからだ。
「悪いな」
声の後、背中から突き刺さったホーリーセイバーの切っ先が、俺たちの方へ血の飛沫を飛ばす。心臓を一突きにされたジョームは口から血を吐き出すと、そのまま前に倒れて動かなくなった。
「首落としとくか。よいしょ」
言って、シロウさんはジョームの首を切り落として細切れに刻んだ。
「モモコ、これ焼いといて」
「ウキャアアアアアアアアアアア!」
シロウさんに言われて、戦闘中に抑えていた衝動が抑えきれなくなったモモコちゃんは、ホーリーロッドの尖ったところで死体をボッコボコにぶん殴った後、リキャストタイムのたまったヘルフレアで跡形もなく消し飛ばしたのだった。
……その後、近くの町まで戻って来た俺たちは夕飯を食べながら次の作戦を立てていた。
「あとはデビルセンムと魔王だけか。何とかなりそうだな」
「なりそうだな」
「そうですね。二人もこの三ヶ月でかなり強くなりましたし、つーか気が付いたらまた俺が一番弱いんですけど」
「ヒーラーだし、別にいいだろ。ライケアもレベル4になってヘビケアになったじゃねえか」
「そうですよ。気にしなくていいと思いますよ」
「本当は、ホーリーロッド持ってる君のスキルが一番効率いいはずなんだけどね」
「……は?別にいいじゃないですか。何ですか?なんか文句あるんですか?」
言って、モモコちゃんは食事用のナイフを構えると立ち上がったが、シロウさんがそれを抑えた。
「落ち着け、モモコ。キータ、戦闘後のモモコは丁寧に扱えって言っただろ。興奮して沸点低くなってんだよ」
「そ、そうでしたね。モモコちゃんごめんね?」
「コロスコロス」
そんな話をしていると、僕らの隣を通りかかったパーティの男が、何を勘違いしたのかシロウさんに殴りかかった。
「いってぇ、何すんだよ」
「おい、お前女の子に何してるんだよ?」
「何って、キータが殺されないように止めてただけだけど」
言われて、シロウさんを殴った男は顔をしかめた。
「……お前、シロウか」
「そうだけど、あんた知り合いだっけ?」
言われ、彼はプライドを傷つけられたらしく、ヒクヒクと瞼を動かしている。
「あ、シロウさん。クロウじゃないですか?あの回復術師の」
「あ~、前にウチに居た奴ね。久しぶり」
「忘れてたのか?……まぁいい。シロウ、お前女の子を傷つけるなんてどういう神経してるんだ。勇者なら何してもいいと思ってるのか?そこまで落ちるとは、ざまぁないな」
「別に思ってないし、傷つけられそうだったのはキータなんだけど」
言い返すも、クロウの周りには女冒険者が四人いて、彼女たちがやいやいとシロウさんに突っかかった。
「女に手を上げるなんて最低です、あなた勇者なんですよね?」
「そうだけど、と言うか俺の話聞いてた?」
「聞く価値なんてありません。クロウさんが正しいですから」
そう言う彼女は、まるでクロウ以外の何も信じていないと言った様子でシロウさんに食って掛かる。ついでに、アカネを除いた有象無象までもが口を挟んできて、中々にカオスな状況となってしまった。
「まぁ、みんな落ち着いて。これじゃ話も出来ない」
「いや、お前が先に突っかかって来たんだろ」
「キータさん、こいつなんなんすか?」
アオヤが俺に訊く。
「前にウチのパーティに居た回復術師のクロウ。モモコちゃんより強いよ」
「マジすか?デビルセンム倒せるくらいですか?」
「デビルセンムならもう倒した。俺には、宝具が無くても奴らを倒す力がある」
「ヤバすぎでしょ。……あれ、でもなんでそんなに強い奴クビにしたんですか?」
「それはだな……」
俺が説明をする前に、クロウはモモコに手を差し伸べた。
「さあ、もう大丈夫だ」
「あぁ、興奮してるのに」
「コロスコロス」
言って、モモコはクロウに殴りかかった。不意を衝かれたクロウはモロにモモコの拳を受けて、後ろのテーブルに激突した。
「……え?」
「なぁ、クロウ、そう言うところだぞ」
暴れ出したモモコを再び抑え、シロウさんが言う。
「な、なんだよ」
「お前が一番強いなんて事は、俺もキータも分かってた。だが、お前はデビルカチョー戦で俺の言う事も聞かずに勝手にアカネを助けに入っただろ」
「それは、アカネが危なかったし、何より俺が一番強いからだ。実際、なんの問題も無かったじゃないか?」
「そう言う事じゃねえんだわ。組織ってのは、リーダーの言う事聞かない奴が一人いるだけで瓦解しちまうもんなんだわ。確かにデビルカチョーくらいならお前ひとりでどうとでもなるだろうけど、その先の魔王戦を見据えて考えたら絶対にやっちゃいけない事なんだよ。俺、何回注意したよ?」
気が付けば、取り巻きの女冒険者たちも口を閉じていた。
モモコちゃんとクロウの決定的な差はそこだ。あの子は、確かに暴走気味でピーキーな性格をしているけど、何とかシロウさんの言う事を聞いて今では戦闘中に暴れる事は無くなっている。
「お前の才能やら実力やらは分かるけど、それだけの力があって追放されるその意味を考えろよ。お前は人として終わってんだよ。隙あればキータを見下す態度とかさ、何かあれば自分の意見だけを主張する態度とかさ、全部俺は知ってたわけ」
実際、俺は今でも一番力が弱い。しかし、助けてもらうたびに「やれやれ」と言われ、見下されているのが苦しかったのも事実だった。今は、それはない。
「俺は、勇者であるお前より強いんだぞ。当然だろ?」
「だからなんだよ、俺が勇者に選ばれたのはホーリーセイバーを使えるからであって、俺より強いやつなんて世界にはゴマンと居るっつーの。お前、視野狭すぎだろ」
「お、俺には新しい仲間がいるんだ!どうだ?みんな俺を正当に評価してくれる!デビルセンムのアジトの近くに住んでいた人々だって、俺を評価してくれてんだ!」
聞いて、シロウさんはため息を吐いた。
「お前、そんなに人から評価されたかったのか?なら、最初から勇者のパーティなんか入るべきじゃなかったな。どっかでその子たちと、悠々自適なスローライフでも過ごしてる方が向いてると思うぜ」
「そういう訳じゃないだろ!俺はお前が不当な解雇を行った事に対してムカついてるんだ!」
「さっき説明しただろ。それに、宝具なくても悪魔幹部倒せるんだったら、お前が魔王倒してきてもいいぞ。すげえじゃん。宝具なくてもやれるってんなら、多分王様も話分かってくれると思うぜ」
「それはお前たち勇者の仕事だろう!」
「なら邪魔しないでくれよ。俺たちはフリーの冒険者じゃなくて、国王様の勅命を受けて勇者名乗って命懸けてんだからさ。迷惑だ」
「なっ……なっ……」
シロウさんは、モモコちゃんを小脇に抱えると剣を拾って、扉の方へ向かった。
「何でも人のせいにしない方がいいぜ。もし、この先お前より強い奴が現れた時、自分が死ぬ理由すら人のせいにしちまったら、最後に悔しい思いすんのはお前だからな」
そして、キィと扉を開いて外へ出て行った。クロウの方を見ると、周りの女冒険者たちは口々に彼を慰めて、シロウさんへの罵詈雑言を繰り広げている。そして、クロウもまたシロウへの恨みを強くしたらしく、必ず復讐するなどとのたまっていた。
「キータさん、あいつら狂ってますね。つーか、悔しくて動けないから、いつか復讐する、とか言って正当化してんの、自分で気づかないんですかね。自主性とかないんですかね」
「ないし、気づかないんだろ。責任感とか気苦労とか、そう言うのと無縁に生きてきた奴って、実力とか関係なしに異常に逆境に弱いんだよ。ま、そう言う奴も世の中にはいるさ」
「そういうもんですか。まあ、あれだけかわいい女の子に囲まれてるんなら、確かに勝ち組っすよね。モモコより強いらしいし」
「……もう行こう。シロウさんの悪口を聞いてると、イライラしてくる」
「そっすね」
そして、俺たちもシロウさんの後を追って店を出たのだった。
× × ×
「勇者シロウ!そしてキータ、アオヤ、モモコよ!よく魔王を滅ぼし、この世界に平和をもたらしてくれたな!感謝するぞ!」
「ありがたき幸せです。国王様」
跪き、宝具を返還するシロウさんの背中を見て、俺はとても誇らしく思った。
デビルジョームを倒したあの日より一ヶ月。俺たちは遂に魔王を撃破して世界を救うことが出来たのだ。
紙吹雪が吹き荒れるパレードで、俺はこの旅での事を思い出していた。辛い事も、くじけそうな事もあったけど、最後までやり通して本当に良かったと思っている。何度も負けると思ったけど、シロウさんを信じて一緒に戦う事が出来て、心からよかったと思っている。
「この世界に、平和の在らんことを」
俺は植木屋に、シロウさんは消防屋に、二人は元の冒険者に戻るのだろう。しかし、もしいずれ再び世界に闇が訪れた時は、この四人で旅をしたいと、そう思っている。
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