4話 俺、世界を救いに来たのに…… その一
「この世界って魔法が使えるんだよな? 俺にも使えるのか?」
「コツを覚えればすぐにできると思うよ。大事なのはイメージと言葉を結びつけること。例えば、ファイア」
レヴィの指先にライター程度の火が灯り、指を動かすと火は天高く打ちあがって行った。
「ファイアって単語に火を着けるってのと、一方向に打ち出すってのを結び付けてるわけか。それなら咄嗟の時でもイメージできれば言葉は無くてもいいのか?」
「それはダメ。声を出すってのが大事なの。魔法を使うって意志を示すのが魔法を使う条件」
「それなら雄たけびでもささやきでもその意志があればいいわけだな」
「そうなんだけどさ……、呪文を唱えようよ。魔法を使うのに呪文って常識でしょ? なんで常識を打ち砕こうとするのよ……」
「俺は高校二年だぞ、単純に恥ずかしいだろ。呪文を唱える必要がないなら呪文は唱えないぞ」
「じゃあ、必要。呪文は必須! 呪文が無いと魔法は使えません!」
「嫌だ」
返事のついでにレヴィがやった魔法をイメージしてみたら簡単にできた。
やっぱり一回見ているとイメージしやすいな。
折角だし、もっと強いやつも見せてもらうか。
「見た方がイメージしやすいから、もっと強いのも見せてくれよ」
「嫌だ、もう先に進む」
レヴィが拗ねてしまった。
そんなに呪文を唱えないのが気に喰わないんだろうか。
それから目の前に見えている街を目指して歩き続けるが、俺達の間に流れる空気は最悪だった。
「これから向かうのはなんて場所なんだ?」
「ガルヴァディス」
「どんなところなんだ?」
「私の知り合いがいる所」
こいつマジ面倒くせぇ!
呪文を唱えないくらいでなんでこんなに切れてるのかもわからないし、折角こっちが打ち解けてやろうしてるのに反応はそっけないし、性格が最悪だ。
「あれ、お前長い間魔王を封印してたんだよな? それなのに知り合いがいるのか?」
「あんた、私を引きこもりのぼっちだと思ってるわけ?」
「流石に言いがかりだろ。一万年も生き続ける生物がいるのか?」
「いるわよ。今どのくらい存在しているかわからないけど、ほとんど不老不死の生物がいるの。今向かってるのもそこ」
魔法もある世界だし、不老不死に驚いても居られないか。
それともこういう時のためにこいつが作ったのか? こいつも神様らしいし、神様なら世界も作れるだろうし、そのくらいは朝飯前か。
「レヴィが拗ねてる理由がわかった」
「私別に拗ねてないけど?」
「この世界を作ったのはお前だもんな。つまり呪文を唱えないと魔法が使えないってのもお前が作ったんだし、それを恥ずかしいって言われたらいい気はしないか」
ようやく納得した。
自分の自信作を恥ずかしいからって抜け道を探されたらいい気分じゃないもんな。
怒らないで拗ねるだけまだ可愛い反応だったわけだ。
「それは悪かったな。意識して声を出さないと呪文が使えないってのは、寝ぼけて魔法を使わないようするロックの役割もあったんだな。よく考えられていると思うぞ。そういうことなら俺も恥ずかしがらずに呪文を唱えることにする!」
完璧にフォローした。
これで少しは機嫌も良くなるだろう。
そう思っていたが、レヴィはぷるぷると肩を震わせ顔が赤く染まっていた。
「大雅のバカーー!!」
やっぱり可愛げはなかった……。
†
歩くこと半日、ようやくガルヴァディスに到着した。
「半日歩く距離が目視で見えるって、本当に世界は平らなんだな」
「今更それを疑ってたの?」
「いや、丸い世界に慣れてるから違和感がありすぎるんだよ」
あっちだと平地でも見えるのは確か五キロくらいだったかな。
それが半日の距離でも見えるっていうのが違和感しかない。
「今更なんだけど、この世界って人間以外もいるんだな」
「いるわね。私が作ったわけじゃないけど、今となっては彼ら獣人も立派な人間よ」
獣耳があるだけのコスプレっぽい人から、本当に獣が二足歩行になったみたいのまで結構種類はあるんだな。
私が作ったわけじゃない?
「不審者みたいにじろじろ見てないで入るわよ」
こんな変わった生物なのに本当に周りは無関心だな。
地球で考えると、外国人が東京を歩いてるみたいなレベルなんだろうな。
もう少し見ていたかったが、本当に不審者になってしまうので、レヴィの後に着いて門をくぐると、感動よりも残念さが際立った。
ぱっと見はちゃんとしてるのによく見ると家が所々が傾いている。
歩道も端の方が雑だし、あんまりちゃんとしてるわけじゃないんだな。
「門をくぐったのはいいけど、門番とかはいないのか? 国境を超えるもんだろうし、何かチェックがあってもいいんじゃないか?」
「他の国はそうだけど、ここに関して言えばチェックされるのは商人位よ。観光客のチェックはされない」
「危険物とか違法な物だけチェックされてるわけだ。強盗とかは入り放題なんじゃないか?」
他にもテロとかクーデターとか簡単に起こせそうだな。
「そんな命知らず存在しないわよ。私達がこれから会いに行く相手は、私と魔王を除けば最強なのよ。この世界の人間がバカになったとは言っても、あいつと対立しようって考える程のバカはいない」
「興味本位で聞くけど、どのくらいの強さなんだ?」
「あんたの住んでいた街が数秒で更地になるわね」
そんなゴジラみたいな化け物と、これから会いに行かないといけないのかよ。
「俺なんか腹減って来たな。何か食べて行かないか?」
「用事が終わったらね」
俺も今はレヴィと同じ力を持ってるわけだから勝てるんだろうけど、それでもそんな最強の生物に会いたくねぇな……。
何か失礼を働いたらその場で殺されそうだ。
嫌々ながらもレヴィに連れてこられたのは城だった。
夢の国にありそうなファンシーな感じではなく、実用性だけを求めたみたいな遊びの無い城だ。
そんな城にレヴィは迷いなく入っていく。
流石女神だな、全然怯むことがない。
「私は女神レヴィ。友達のバングに会いたいんだけど、どこにいるの?」
ナンパしてんのか?
昔の洋画でも見たのかと思う程に、芝居がかった動きでテーブルに肘を置き、どや顔で受付に声をかけた。
城に訪れるような人はこんなバカなことはしないだろうから、受付の人も愛想笑いで困り顔だ。
「しょ、少々お待ちください」
詰まったが何とかそれだけを告げ、奥の方に引っ込んた。
こういうバカの相手は大変でしょうね。
「なによ。この世界の唯一神が来てるんだからすぐに教えればいいでしょうよ」
「神って言うよりも、迷惑な酔っ払いって感じだったぞ」
「やれやれって感じね。私のこのオーラからして酔っ払いとは格が違うわ。それすらも見破れないなんて三流よね」
「残念ながらこの世界は三流が多いらしいぞ」
戻って来た受付は明らかに武装した集団を連れてきた。
まあ、いきなり女神です。って言われて信じるわけないよな。
「これって逃げられるのか?」
気がつくと周りには沢山の兵士に囲まれていた。
幸い入り口もすぐそこだし、逃げ切るのは大丈夫そうだな。
「今度は俺に着いてこい。まずは逃げるぞ」
「逃げるつもりだ、捕らえろ!」
兵士を踏み台にし、出口まで一気に駆け抜け、すぐ目の前の建物の上に上る。
「この辺で人気の無い場所はどこだ?」
「あっちはスラムだから隠れられる」
「じゃあ、そっちに逃げてから作戦会議だ」